「ミク」
「雅彦さん、どうされたんですか?」
雅彦が、一足早く朝食を食べ終え、朝食前に作ったカフェオレの残りを飲んでいるミクに尋ねる。
「バースデーライブ、練習は順調かい?」
「はい、順調です」
笑顔でこたえるミク。現在は9月第1週の週末に行われるミクのバースデーライブの時期が近くなっており、ライブの主役であるミクは特に練習が忙しかった。
「何かできることがあったら僕に言ってね」
「大丈夫です。練習で困ったことはないですし」
「…マサ兄、心配しすぎ」
レンが呆れたようにいう。
「そうよ、今でも十分雅彦君はミクを助けているから」
MEIKOが話に入る。
「それに、ミクが本当に困っていたら、雅彦君はとっくに見破っているはずよ」
「…そうですね」
ルカの言葉に苦笑しながら雅彦が言う。かつて、雅彦はヒューマノイドタイプのボーカロイドを開発した研究室に入ったことが縁で、二人は出会い、まずは雅彦がミクに、そしてその後でミクも雅彦が好きになり、紆余曲折があって二人は結ばれ、さらに一つ屋根の下に住むことになった。
雅彦は現在は大山北大学で教授の職に就いており、研究分野はボーカロイドに関する内容が多い。雅彦と共に住んでいるボーカロイドは、ヒューマノイドロボット技術の発達で生まれた量産型のヒューマノイドタイプのボーカロイドの技術をベースに、あらゆるリソースをつぎ込んで生まれたワンオフの特殊仕様のボーカロイドであり、世界の様々な技術の結晶と言っても過言ではない。そして雅彦が率いる安田研究室はワンオフ機のボーカロイドと量産型のボーカロイドに関する技術開発や改良が研究内容に含まれている。性能を追求するか費用対効果を追求するかで、ワンオフ機と量産型のボーカロイドに求められる物は全く別物だが、上手くリソースのやりくりをしながら研究を進めている。また、技術開発以外にも、ワンオフのボーカロイドのメンテナンスも行っているため、安田研究室に入るとそのボーカロイドたちとふれあえる機会があるため、大山北大学ではトップクラスの人気を誇る研究室である。そのことは周知の事実であるせいか、日本はおろか世界中から安田研究室に入りたいという声が引きも切らない。しかし、入ることができる人数は限られており、競争率が極めて高い狭き門である。
そんな話をしていると、ミクが時計を見て、
「雅彦さん、そろそろバースデーライブの練習に行ってきます」
そうミクが言い、つられて雅彦も時計を見る。
「ああ、そうだったね」
そうするとミクは出かける準備をするため自分の部屋に引っ込んだ。残された雅彦。
「…MEIKOさん、朝食の片づけ手伝います」
「分かったわ、それなら、食洗機に入った食器の乾燥が終わったら片づけておいて欲しいの」
「はい」
「お願いね」
そういってMEIKOもその場を離れる。家では基本的に家事は当番制だが、比較的生活リズムが規則的かつ時間がある雅彦が家事を買って出ることは多い。家事にも長けている雅彦はそうやって六人の負担を減らすことで、研究以外でもミクたちのサポートをしていた。
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