「だけど仕事は頑張らなきゃ」


私の相方である裁縫鋏を片手に、一生懸命仕事に励む。
今日の依頼は七件。ちょっと多いけど、今日中に終わらせることはできる。
だって、私は仕立屋だから。

そういえば、最近困ったことがあったの。
私には夫がいるの。
イケメンで優しくて歌って踊れて誇れる夫よ。羨ましいでしょ。
私は、そんな彼が大好き。彼のためならなんでもできる気がするの。
でもね、彼ったら、最近浮気性なの。
美人にデレデレするわアイスにつられるわ「買い物に行ってくる」とか言ってちょぼいちをやって帰ってきたり…と、これは関係ないわね。
とにかく、女遊びが酷くて最近帰ってこないの。
私というものがありながらよ？
もしかして、子供ができないからかしら？私が仕事ばかりに一生懸命だから？

だからと言って、そんなことは今は気にしてはいけない。
仕事に影響が出てしまったら、お客様に申し訳ない。
私は、お母様の娘。だから、生半可な仕事はできない。
この鋏は、お母様の形見。研げば研ぐほどよく切れるの。この鋏を使うと、お母様と一緒みたいで頑張れる。この鋏が私の仕事道具。
努力が実ったのか、今では店も繁盛して、いつも来てくださるお客様もいる。
だから私は、今日も頑張る。



入り口の呼び鈴が鳴る。
きっと、新しいお客様だろう。
私は一旦手を止めて、入り口へ向かう。
そこには、着物を抱えた女性がいた。
私は、笑顔で対応する。


「いらっしゃいませ。さぁ、本日はどのようなご用件でしょうか？」








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「～♪」


今の私は、上機嫌だ。
糸がなくなってしまったのでいつもの店に買いに行ったら、主人はいつもよりサービスしてくれた。
これで、一ヶ月は糸を買いに行かなくてもいいわね。主人に感謝しないとね。

さぁ、今日も仕事があるので、すぐに帰らないと。
というわけで、今日は寄り道もせずに、真っ直ぐに家に帰ってきた。


「たっだいまー」


どうせ誰もいないけど、とりあえずただいまと言ってみた。
帰ってきたのは静寂ではなく、


『『おかえりー、遅かったねー』』


七人の不法侵入者の声。


「なんでいるんですか――!?」


入り口で叫んでしまった。明日はご近所さんから変な目で見られることは間違いないわね。
…じゃなくて！


「リリアンヌ、あなたはまた勝手に王宮から抜け出してきたんですか!?」
「だってー、暇だしー？」
「アレン、仕事は!?」
「リリアンヌのお供ですが何か？」
「マルガリータ、今日はお客様の受診日じゃなかったの!?」
「クソ旦那になすりつけてきた」
「バニカ、お抱えコックが心配するわよ!?」
「大丈夫、『ちょっと宇宙の最果てにあるレストランのツアーに行ってくる』って言っておいたから」
「グミ、銃の改造をここでしないで!!」
「ごめん、なんか最近グロックＭ１９の調子が悪くて…」
「サテリアジス、今日はグミナさんに会いにいくんじゃなかったの!?」
「最近忙しいから、会えないってさ」
「ガレリアンのマヌケ、ヘタレ、女装男、うだつのあがらないコック、女タラシ、オタンコナス、ロリコン、絶対に訴えてやるー!!」
「私の扱いだけ酷くないか!?」


皆にツッコミ(もどき)を入れるのって大変ね、サテリアジスがどれだけ大変か、ちょっとだけわかった気がするわ。
ガレリアン？あぁ、いたわね、そんなヤツ。…冗談よ。
ガレリアンってアレでしょ？この間、逆立ちしてラーメン食べながら鼻血たらしてたヤツでしょ？え？違う？
じゃあアレだ。街中でカッターナイフ振り回しながら「オレの嫁ええええええ」って叫んでたヤツだ。え？これも違うの？
じゃあなんだったっけ？……あぁ、悪徳裁判官？
じゃなくて！


「戸締りはきちんとしたのに、なんで入ってこれるんですか！サテリアジスに冥界式拷問技であけてもらった、とかですか!?」
「いや、グミさんがガレリアンさんに『マウザー C96』で発砲してから無理やりこじ開けたんだよ」
「いえ、マルガリータがガレリアンを窓に叩きつけて割って入ったんだよね？」
「え？バニカさんが塩酸がかかっている壁を食べてガレリアンを遥か彼方に投げてから中に入ったんでしょ？」
「は？アレンがガレリアンを骨折させてから青酸カリが入った瓶を投げつけて、しゃもじで鍵開けたんだろ？」
「いや、リリアンヌが『王女様が地獄にいる死神から奪った草刈鎌』でガレリアンを扉ごとぶった斬ったんじゃないの？」
「皆何言ってるの!?サテリアジスさんツッコミは!?なんで王女である私がここでツッコミを入れなきゃいけないの!?」
「それより何故私がいちいち酷い目に遭っているのだ!?」


え？ガレリアンって、そういう扱いに定評があって、それを陰で喜んでるんでしょ？
っていうか本当にどうやって入ってきたの？


「リリアンヌ、本当はどうやって入ってきたの？」
「前にサテリアジスさんに合鍵を作ってもらってたので、それを使いました」
「サテリアジスって凄いわね本当に」
「だれか私の味方をしてくれー」
「やかましいわお前は六道輪廻を逆立ちして一周してこい！」
「そんなに私の自作爆弾(ガレリアンの拷問用)をくらいたいのなら、今すぐここで投げつけてあげる！」
「うるさいわね！三枚に下ろされて刺身になりたいの!?それともペヤ〇グを投げつけられたい!?」
「あんまりうるさいと、鮫の腹の中で行われている『第967回大根ぶっかけ大会』に放り出すわよ！」
「僕があのロリコンハゲ野朗と一緒に調理して、ジョセフィーヌとロードローラーと荒ぶるボーちゃんの餌にしてあげたいです」
「無くなっても良い鏡と一緒に目で見えないくらいに切り刻んであげましょうか？」
「ツッコミがめんどくさくなったわ。…鐘の音がする。あら、最初の晩餐の時間だわ。今日のメニューは『悪徳裁判官のソーメン和え』がいいなー」
「怖いよ酷いよ半端ねえよぎゃあああああっ！」


というわけで、ガレリアンは退場。
いいストレス発散になったわね。


「ふう。…ともかく、勝手に家に入るのはやめていただきたいのですが」
「え？なんで？もしかして、私に逆らう気？」


ちょっと怖くなったので、皆の観察を開始。


リリアンヌ　　身分・王女　　　現在・ロードローラーの修理中
アレン　　身分・召使だけどリリアンヌの双子の弟＝王子　　現在・勝手にチーズを食べている
ガレリアン　　身分・裁判長　　現在・絶賛臨死中、退場済
マルガリータ　　身分・医者の娘、侯爵の妻　　現在・『オシオキオシオキ』と歌いながら縄跳びをしている
サテリアジス　　身分・公爵　　現在・難しそうな書類に目を通している
バニカ　　身分・領主　　現在・フォークでパズルを作って遊んでいる
グミ　　身分・組織のトップ３　　現在・ハチの巣の解体中、攻撃してくるハチはジェンビーヤ(ナイフ)で切り落とす



…あれ？もしかして、私ってこのメンバーで一番身分が低いから、一番権力ない？
逆らったら間違いなく命がないよね！ガレリアン…いや、ヘタレアン以外！
うん。めちゃくちゃ怖い。きっとそのうち大根ぶっかけ大会の的にされるんじゃないかしら。
いやだ。そういうのはガレリアンの役目でしょ？


あぁ、もう何話してるかわかんなくなってきちゃった。
ん？何か忘れてるような。


「って、あ――――――!!」


仕事!!忘れてた!!　


というわけで、皆には帰ってもらった。
気絶中のガレリアンはどうしよう？
うーん…


…………確か今日はゴミの日だから、捨ててこよう。