14.壊れゆく小さな世界
シンデレラはあてのない一人旅を続けていた。
旅先の町にいるチンピラをこらしめたり、悪徳商人をこらしめたり。
そんな旅も始めてから数年が経ったある日のことだった。
今日も町から町へ、果てしなく続く荒野を自慢の二輪車で疾走していた。
「ふふふーん♪ さて、次の町はどんなとこかね?」
鼻歌まじりで今日もご機嫌うるわしく荒野を駆けていく。
ふっとそれまでご機嫌だった鼻歌が止み、シンデレラはある方向に目をやる。
別に何が見えるわけでもなく、ただの荒野が続いているだけだ。
しかし、彼女は嫌な気配、というか予感めいたものを感じとっていた。
すると、シンデレラは次の町まで続いている長い一本道を外れ、
その嫌な予感に誘われるままにその方向に全速力で走りだした。
その方向に町はなかったはずだったが、構わず走り続けた。
果てしなく続くと思われた灰色の荒野に突然の緑。
まるで制作途中のジオラマのように、そこにだけ森が存在していた。
近づいてみると、遠くで見るよりは意外と広い森であることがわかった。
自慢の愛車が入れるような立派な道がないので、
シンデレラは自分の足で森の中へと侵入していった。
これまで旅を続けてきて、色々な場所に行ったことのあるシンデレラだったが、
これほどまでに深い森は初めてだった。
木々の感触、森の空気、不慣れな地形に足をとられながらも、なんだかいい気分になってくる。
しかし、しばらく進むと森の澄みきった空気に混じって、嫌な臭いが立ち込めてきた。
シンデレラはこの臭いを過去に何度も嗅いだ事があった。
臭いに近づくにつれ、自然と彼女の足も速くなっていった。
深い森の中心にある巨大な遺跡、そこには何百人もの人間が暮らしていた。
皆すっぽりとローブに身を包み、毎日熱心に祈りを捧げている。
そしてその集団の中心にいるのは一人の少女だった。
少女はまるで神のように祀られているかのごとく丁重に扱われ、
毎日のように少女をたくさんの人間が崇拝しにやって来ていた。
この集団は少女をこの森から外には決して出すことはなかった。
まるで、少女を何かから守っているかの様に、この小さな世界に隔絶していた。
生まれながらにして神として扱われたきたこの少女にとって、この閉じた世界が全てだった。
深い森の中心にたどり着いたシンデレラは、
自身の予想していた通りの光景を間にあたりにした。
「やっぱり、この臭いは。こんな辺境に集団で暮らしてる人たちがいたなんて」
崩れた遺跡、その周りにはたくさんの人が倒れている。
皆、遺跡を守るように立ち塞がり、そして倒れていったのだろう。
「くそっ、何が起きたんだ? 誰か生存者はいなのか?」
シンデレラはたちこめる臭いの中、辺りを確認しながら、
まだ、かすかに奥の方で銃声の響いている遺跡の内部へと向かっていった。
不思議なことに遺跡を守ろうと立ち塞がったであろう、この者たちの手には
シンデレラが見たこともないような奇妙な兵器が握られている。
疑問に感じながらも、ひとまず生存者を捜すことに専念したシンデレラだった。
遺跡の者たちに丁重に育てられ、少女の小さな世界は幸せで満ちていた。
毎日、森にやってくる動物たちと一緒に歌って、それを周りで温かく見守っている大人たち。
そこは何の不安も恐怖もない世界だった。
それは、前触れもなくやってきた。
森の中から突如、たくさんの獣たちが遺跡に向かってきた。
それは、少女のよく知っている森の動物たちとは違っていた。
全身から雷撃を放ち、ものすごい速さでこちらに攻め入って来た。
少女の幸せな世界は瞬く間に、恐怖に塗りつぶされていった。
遺跡内で共に生活していた大人たちは、いつもの優しい目をしてはいなかった。
皆一様に規律のとれた行動を開始する。
「1番から4番隊、戦闘配置だ。親衛部隊はクミ様を第3シェルターへ避難させろ」
少女はわけもわからぬうちに、いつも近くでお世話をしてくれた大人たち数人に連れられて
いつも何気なく通っていた廊下を急ぎ足で進む。
やがて行き止まりにぶつかったが、突然壁が開きだし、小さな部屋が現れた。
「大丈夫ですから、何も心配はいりませんから」
優しい口調で少女に語りかける大人たちだが、それはいつもの優しい口調とは違っていた。
壁はすぐに閉じられ、部屋は隔絶されたが、
壁越しに悲鳴、爆音、銃声がわずかに聞こえてくる。
少女は大人たちに囲まれて、ぶるぶると震えていた。
しばらくして、壁越しに伝わってくる音がふいに止んだ。
周りにいる大人たちの少し安心した様子に、少女の震えもおさまってきた。
「もう、大丈夫ですよ クミさ――」
突然の爆音、振動、崩れる壁、立ち込める煙。
その向こうに光る二つの鋭い赤い光。
爆音の中、聞こえてくる野獣のうなり声。
少女と野獣の間にき然と親衛隊と呼ばれていた大人たちが立ち塞がった。
「お逃げください!! あなただけは絶対に生き延びなければ…… さあ、はやく!!」
少女はその強い口調に背中を押されるように走り出した。
背中の方では、今まで聞いたこともないような生々しい音が響いている。
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そんな歌が正しいなんて馬鹿げてるよな。
実際自分は死んでもよくて周りが死んだら悲しくて
「それが嫌だから」っていうエゴなんです。
他人が生きてもどうでもよくて
誰かを嫌うこともファッションで
それでも「平和に生きよう」
なんて素敵...命に嫌われている。
kurogaki
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