レンが意識を取り戻すと、そこにはいつになく優しい顔をしたカイトがいた。
「カイト・・・先輩?」
「ん、起きた?」
カイトがレンの頭をくしゃりと撫でる。レンが止める間もなく、あっという間に髪がぐしゃぐしゃになった。
「止めて下さい!」
「おーおー、記憶取り戻したら反応がいいねぇ」
「ひょっとして、今までからかってたの全部それ目当てですか!?」
レンは悶絶して頭を抱えた。
「うん」
カイトの返事は非常に簡潔だった。
「ところで、先輩」
「うん?」
レンの瞳には、強い意思の光があった。
「彼女は、リーリアは、後どれだけ生きられますか?」
その瞳を見据えて、カイトは覚悟を決めた。どれだけその宣告が辛くとも、彼ならきっと―――
「彼女の余命は、後1日・・・明日だ」
「そう、ですか」
レンは目を閉じた。その表情も、凪いだ海のように静かになる。
「リーリアの所に行って来ます・・・彼女を、看取りに」
「力は残っているか?」
「大丈夫です」
レンは淡く笑い、マントを翻して消えた。
後には、カイトだけが残った。
窓から覗く月を見上げ、カイトは憂いを帯びた表情になる。
「また、罪を重ねてしまったようだよ―――メイコ」
記憶に遠い、想い人の面影。
彼女の為に罪を犯し、後輩のために罪を重ねた。
(本当は、人の余命を教えちゃ駄目なんだけどな・・・)
自然と、唇から苦笑が零れる。
どうやら、愛しい人の元へ行くのはもう少し先らしい。
彼女の元に辿り着けた時、彼女は何を言うだろうか?
気付けばすっかり俺を尻に敷いていた、意地っ張りで優しくてちょっと怒りっぽい彼女。
良い事は良いと言い、悪い事は悪いとはっきり言った彼女。
良い事をしたと、笑ってくれるだろうか?
やはり罪を重ねてはいけないと、叱ってくれるだろうか?
例えどちらの結果でも、想像した光景に彼女がいれば幸せだと気付いて。
カイトは声もなく笑った。
冴え冴えと蒼い月に、一人。
カイトは唐突に、レンに世話を焼く理由を理解した。
うまく言葉に出来ないが、とにかく彼女に似ているのだ。
「・・・はは、なんて傑作だ」
乾いた笑いが、いつまでも響いた。
【白黒P】鎌を持てない死神の話・12
カイトがメイコを思ったときのシーンは、『断章のグリム』をちょっと拝借していますw
瑞姫ちゃーーーん!!
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