タグ:鎌を持てない死神の話
59件
『一時はね、お昼ご飯を食べ終えて、診察も終わって、ほっと一息つける時間なの。一人にしてって言ってあるから、誰も入ってこないわ』
少し前、リンは笑顔でそう語っていた。
だが、今目の前に広がっているのは──
「リンお嬢様、大丈夫ですか!?」
「早く、早くお医者様を……!」
苦しそうに胸を押さえるリ...鎌を持てない死神の話【後編】
犬蜜柑
──退屈だ。
街を歩きながら思うことは、ただそれだけ。
賑やかな所だが、何年暮らしていても、その思いは一向に変わらない。
退屈な気分を誤魔化すために『人間の暮らし』とやらを送り始め、人間と同じように働き、就寝して、起床し、飲食をするなど、いろんなことをした。自分にとっては不必要なことだが、長...鎌を持てない死神の話【前編】
犬蜜柑
死神に恋をした少女の話
「ねえ、この首飾り、きみに似合うんじゃない?」
隣に立つ彼が声を掛けてきて、私は顔を上げた。
広い市場の一角。女性の好みそうなアクセサリー類を並べた露店の前に、私達はいた。
彼は柔らかな笑顔を浮かべながら、私の胸にその銀細工の首飾りをあてる。
出会ったときにはかぶって...死神に恋をした少女の話
うたかた
レンは実体化を止めて静かに佇む。耳の奥では、リンの言葉が木霊していた。
ありがとう。
命を狩る瞬間にその言葉を言われたのは初めてだ。何故だろうと疑問が湧き、直後にカイトの台詞が脳裏に蘇る。
「レンに命を狩られるなら良いと思ってるよ」
あれは、リンが自分の事を信頼してくれたと言う事なのか。
レ...黒の死神と人間の少女のお話 10
matatab1
窓から差し込む朝の日差しと、こめかみに当たるひんやりとした感覚でリンは目を覚ました。横向きにした頭を支えている枕は濡れていて、寝る直前に泣いていた事を思い出す。
「泣きながら寝ちゃったんだ」
苦笑して時刻を確認すると、覚えている時間から数時間しか経っていない。体を起こしてカーテンを開くと、朝に移...黒の死神と人間の少女のお話 9
matatab1
「峠は……たが……せん」
「いえ、先生は充分……ました」
リンは暗い視界の中、近くから聞こえる断続的な会話を聞いていた。
意識は朦朧としていたが、声の正体は医師と父である事は分かる。どうやら自分は眠りから目覚める寸前の状態らしい。現実と夢が混じり合ったような感覚がするから間違いない。
とにかく...黒の死神と人間の少女のお話 8
matatab1
深々と、雪が降っていた。
10年前の戦争に負けて以来、この国からは活気という物が消えた。
「―――おや」
黒いマントに身を包んだ、冬色の少年はふと路地裏に目を向けた。
そこには、雪に震える1匹の子犬がいた。寒さに震える砂色の仔犬は、鼻先をくすぐった雪にくしゅん、とくしゃみをする。
「君、可愛いな」
...【白黒P】鎌を持てない死神の話・エピローグ/捜し屋と僕の三週間
零奈@受験生につき更新低下・・・
人の目に映らない姿となった死神の耳に、女性の泣き声が飛び込んできた。
リーリアが、死んでいた。
伯爵夫人、つまりレンの母である女性が遺体に縋り付いて泣いていた。すぐ横で立つ父である男も、静かに涙を零している。獣のような慟哭の声に、レンは顔を歪めた。
かつて自分が死んだ時も、二人はこうして泣いてくれた...【白黒P】鎌を持てない死神の話・15
零奈@受験生につき更新低下・・・
朝焼けのヒカリが、辺りを眩しく照らす。
一瞬の間に現れた黒衣の少女を見たレンは、痛みに耐えるように唇を噛み締めた。
恋しい少女に、愛しい妹に、告げねばならない。
「“鎌”が来ました―――これでお別れです、リーリア。・・・僕の、可愛い妹」
双子だから、できる反則。
世界が罪人となった少年に求めた罰は、...【白黒P】鎌を持てない死神の話・14
零奈@受験生につき更新低下・・・
月明かりが、煌々と差し込む部屋。
ベッドの上で膝を抱えるリーリアの耳に、コンコンと窓硝子を叩く音が聞こえた。
「リーリア、泣いているのですか?」
次いで掛けられた声は、優しいボーイ・ソプラノ。
「レン・・・入ってきて」
少し離れていた間に、何があったのか。
リーリアはどこか幼い少女のような仕種でレン...【白黒P】鎌を持てない死神の話・13
零奈@受験生につき更新低下・・・
レンが意識を取り戻すと、そこにはいつになく優しい顔をしたカイトがいた。
「カイト・・・先輩?」
「ん、起きた?」
カイトがレンの頭をくしゃりと撫でる。レンが止める間もなく、あっという間に髪がぐしゃぐしゃになった。
「止めて下さい!」
「おーおー、記憶取り戻したら反応がいいねぇ」
「ひょっとして、今ま...【白黒P】鎌を持てない死神の話・12
零奈@受験生につき更新低下・・・
リーリアが目を開けると、主治医の姿が目を入った。
(なんだか、山羊みたい)
彼女がそんな子供じみた事を考えているとは露知らず、主治医はリーリアが目を開けた事を喜んだ。
「リーリアお嬢様! 気が付きましたか!」
がんがんと頭に響く声に、リーリアはこめかみを押さえる。主治医は彼女に起き上がらないように...【白黒P】鎌を持てない死神の話・11
零奈@受験生につき更新低下・・・
レンが全てを思い出した頃、リーリアは屋敷に帰り着いていた。
「つ、疲れた・・・」
喚く両親を無視してそのままぼすっとベッドに倒れ込み、ぼんやりと明るいランプに首飾りを翳した。
綺麗な銀色の光を見ていると、自然と思いはあの死神へと至る。
黒ずくめの、冬色の少年。
甘い物が好きなあの少年は、世に言う『死...【白黒P】鎌を持てない死神の話・10
零奈@受験生につき更新低下・・・
「リーリア、リーリア、お屋敷が見えてきました。そろそろお別れですよ」
レンはそういっていつの間にか背中で寝入ってしまったリーリアを揺すった。
「ん・・・本当、に? 明日も、また会える?」
ぼんやりと薄目を開けたリーリアは「ありがと」と言ってレンの背から降りた。
「どういたしまして。明日、また来ます...【白黒P】鎌を持てない死神の話・9
零奈@受験生につき更新低下・・・
「レン、ありがと」
「いえいえ、どういたしまして・・・って、もういい加減そのやり取り止めません?」
買ったばかりの首飾りを首に掛け、指先で弄びながらリーリアは何度目かになる礼を言った。
にこにこと笑うその笑顔を見られるのなら、半分でも財布が軽くなるくらい高額な首飾りを買ってよかったとレンは思った。
...【白黒P】鎌を持てない死神の話・8
零奈@受験生につき更新低下・・・
リーリアの外出許可は、脅しにも似た彼女の説得により渋々許可された。
使用人を付ける付けないで散々揉めた挙げ句、5時には戻ってくるという約束で何とか纏まった。
「案外、簡単に取れたわね」
屋敷の外でレンと落ち合ったリーリアは、笑いながらそう言った。
「それはリーリアが、『外に出してくれなきゃ2階から飛...【白黒P】鎌を持てない死神の話・7
零奈@受験生につき更新低下・・・
その、次の朝。
レンは結局一晩中居座ったカイトに無言で椅子を軋ませていた。
「・・・・・・」
「レン君、ひょっとして怒ってる?」
「・・・出てけ」
一段と大きくなる椅子の音。カイトは無言の殺気に黙って退散した。
レンは小さくため息をつくと、マントを翻してリーリアの屋敷へと転移した。
―――瞼の裏で光...【白黒P】鎌を持てない死神の話・6
零奈@受験生につき更新低下・・・
瞬間移動の力を使い、レンは家へと戻った。
が。
「?」
誰もいないはずの部屋に、明かりがついている。
一人暮らしだから、同居人というのはない。
だとすれば誰が?
「やっほー、レン君。勝手にお邪魔してるよ?」
そのあまりに能天気な声に、レンはため息をついた。
生前の記憶や人格がほとんどなく心が空に近い...【白黒P】鎌を持てない死神の話・5
零奈@受験生につき更新低下・・・
驚きの表情で目を見開くリーリアと、訳がわからずきょとんと首を傾げるレン。
「レン・・・貴方、自分の顔を鏡で見た事はない?」
「いいえ。死神は、鏡や物に映りません」
だからレンは、自分がどんな顔をしているのか知らない。水に映る事もないので、本当にレンは自分の姿を知らなかった。
「私と貴方、まるで鏡に映...【白黒P】鎌を持てない死神の話・4
零奈@受験生につき更新低下・・・
リンが今まで読んだ楽しかった本の話、レンが死神として担当した人間の話。取り留めのない会話を交わして道を進み、市場に行く時にレンが実体化した場所に到着して足を止める。
高台の入り口から先は、レンは他の人間に見えない状態でリンを送る事にすると二人で話して決めていた。
太陽がほとんど沈み大分暗くなっ...黒の死神と人間の少女のお話 7
matatab1
「・・・貴方、死神?」
少女がもう一度、家人や使用人が残らず退散して静かになった部屋で問い掛ける。死神は最初、少女が声をかけたのが自分だとは気付かなかった。けれど少女の瞳は冷たさを孕んでこちらをひたと見据えている。
「え、えぇ・・・貴女は私が見えるんですか?」
だからこそ、死神の返答はぎこちない物と...【白黒P】鎌を持てない死神の話・3
零奈@受験生につき更新低下・・・
その黒ずくめの少年の名は―――『死神』。
生き物を殺す鎌を持てないが、あらゆる命の期限を知る者だ。
退屈な死神は、時々期限が近い人間の元に現れる。
が、彼を見る事ができる人間は僅かだった。
死神は、伯爵家を訪れてみる事にした。
自分が見える人間がいると、不思議と確信できる期待を胸に。
一方伯爵家では...【白黒P】鎌を持てない死神の話・2
零奈@受験生につき更新低下・・・
白い雪がしんしんと降る中、一人の少年が街を歩いていた。
黒い服に黒いマント。フードから覗くのは、色の薄い金髪と凍てついた空色の瞳。歳は14か15といったところで、肌も吐く息も白い、全体的に夢幻のような儚い印象の少年だった。
街を歩く人々は、そこに少年などいないように早足に歩く。寒さから逃れるべくせか...【白黒P】鎌を持てない死神の話・1
零奈@受験生につき更新低下・・・
店を出て最初に口を開いたのはレンだった。
「美味しかったですね。あの飲み物」
機会があればまた飲みたいとしみじみ言われ、リンは思わず吹き出した。
「そんなに気に入るとは思わなかったよ。……また一緒に行きたいね」
残り数日か、それとも数時間か。自分に残された時間はあと僅かなのは分かっている。
...黒の死神と人間の少女のお話 6
matatab1
あったかい。
リンはテーブルの上に置かれたカップを両手で包むように持ち、冬の冷えた空気で冷たくなった手をじんわりと暖めていた。
「寒い日はホットココアとか、ホットミルクとか欲しくなるよねぇ……」
冬は別に好きではないが、温かい飲み物が格別に美味しくなるのが良い。体の真ん中あたりから指先まで少し...黒の死神と人間の少女のお話 5
matatab1
「本当に大丈夫ですか? 護衛を付けた方が良いのでは?」
また引き止められた。
「だーかーら! 平気だってば!」
リンが声を荒げて返すのもこれで三回目だ。
実体化していない状態でリンの隣を歩くレンは、この家を出るのにどれ程時間がかかるのか、外に出るだけで日が暮れてしまうのではないかと考えてしまっ...黒の死神と人間の少女のお話 4
matatab1
人間のリンと死神のレンが出会ってから数日。家の者が部屋に来ない時間を見計らい、レンはリンの元を訪れていた。
コツコツと軽い物を叩くような音が部屋でした後、何処からともかく現れたレンを見つけて、リンは笑顔で駆け寄って歓迎する。
「レン、待ってたよ!」
最初こそレンは壁をすり抜けて部屋に入って来た...黒の死神と人間の少女のお話 3
matatab1
「言葉が通じて良かったわ。こうして話せるんだもの」
少女から笑みを向けられ、やはり人間とは良く分からないと考える。つい先程までは激しい怒りを見せていたのに、今ではそれを微塵も感じさせない。
「ねえ、あなたは幽霊? それとも、精霊みたいなものなの?」
「いえ、どちらでもありません」
好奇心溢れる質...黒の死神と人間の少女のお話 2
matatab1
人間と死神。
限りある命を持つ存在と、終わる事の無い命を持つ存在。生きる者と、命を終わらせる者。
本来なら、人間は死神の姿を認識する事は出来ない。死神が命を終わらせる為に目の前に現れても気が付く事は無く、ただ漠然と己の死期を悟るだけである。
ごく稀に、霊などを見る事が出来る人間が死神の姿に気が...黒の死神と人間の少女のお話 1
matatab1
「リン!!」
俺は倒れかけた少女を抱きかかえる。そこで俺はこの少女がとても軽いことに気づいた。顔は蒼白で嫌な汗が出ている。俺は迷わずマントを振ってワープをした。
「リン。大丈夫ですか?」
「え…ええ。」
俺が少女をベットに横たえて、問いかけると弱弱しい声が返ってきた。ここは箱。少女の家。オレンジゴー...オレンジゴールドのナイト―鎌を持てない死神の話④―
Raito :受験につき更新自粛><
1
- 2