死神に恋をした少女の話
「ねえ、この首飾り、きみに似合うんじゃない?」
隣に立つ彼が声を掛けてきて、私は顔を上げた。
広い市場の一角。女性の好みそうなアクセサリー類を並べた露店の前に、私達はいた。
彼は柔らかな笑顔を浮かべながら、私の胸にその銀細工の首飾りをあてる。
出会ったときにはかぶっていたフードを肩に流して、彼は素顔をさらしていた。金の髪が、日に当たってきらきらと光っている。眸は空を映す蒼色。「死神」である彼は、とても綺麗な容貌をしていた。
彼は「死神」でありながら、『悲しみ』や『喜び』といった、人間らしい感情を持っていた。彼は決して表情豊かと言うわけではなかったけれど、その眸は悲しみを映して曇り、喜びを受けて輝いた。人とは違う身でありながら、人を愛し、それが消えることを悲しむ彼は、今まできっと孤独だったのだろう。それが分かっていたから、彼こそが私の命を奪うのだとしても、私は彼を恐ろしいとは思わなかった。
私は今まで孤独の中にいた。生まれつき体が弱く、外で遊ぶことさえままならなかったから、人間の友達といえる存在は無かった。唯一私の傍にいてくれたぬいぐるみ達が私の声に答えてくれる訳も無く、私の孤独を埋めてくれはしなかった。
私は人の声が聴きたかった。人と触れ合い、笑い合いたかった。けれどそれは、自らの体の弱さのために、叶うことは無い。
だから一番ひどい発作に見舞われたとき、これまでなのかと絶望した。私はこのまま、人の温もりを知らないまま、終わってしまうのかと。こんな絶望を感じたまま、苦しんで苦しんでゆっくりと死を迎えるくらいなら、いっそ殺して欲しかった。
だから同じように孤独な彼が私のもとに訪れたとき、私は希望の光を見たような気さえ、したのだ。
「やっぱり、似合うよ」
「……本当に?」
「うん」
彼の微笑んだ顔を見ながら、私は幸せを感じる。
彼も感じてくれているだろうか。私といて、幸せだろうか。
いつか私が死んで、彼の眸が悲しみに曇って、彼はまた孤独に戻ってしまうとしても。
私のいた思い出は、いつも輝いているように。
私は幸せだった。彼と過ごして、彼に触れて、恋を知った。
もう大丈夫だ。たとえ死んでしまうような苦しみでも、殺して欲しいとはもう思わない。
最期まで彼の傍にいて、笑っている。
――どうか、彼の思い出の中で、私の笑顔はいつも美しくありますように。
死神に恋をした少女の話
はじめまして。ウタカタという者です。初投稿です。
この話は白黒Pさんの「鎌を持てない死神の話」を私なりに解釈したものです。
一応リン視点で、銀の首飾りをみつけた一幕。
原作と違うところは多々あると思いますが、自己解釈ですので勘弁願いますm(_ _)m
拙い文章ですが、読んでくださると嬉しいです。
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