「・・・貴方、死神?」
少女がもう一度、家人や使用人が残らず退散して静かになった部屋で問い掛ける。死神は最初、少女が声をかけたのが自分だとは気付かなかった。けれど少女の瞳は冷たさを孕んでこちらをひたと見据えている。
「え、えぇ・・・貴女は私が見えるんですか?」
だからこそ、死神の返答はぎこちない物となった。
死神は、生と死に関わる罪を犯した死者の魂がなる。
そして死者である以上、簡単には人間の瞳には映らない。死神がその意思で実体を持つ事も可能だが、霊体を濃縮させている関係上非常に疲れやすい。
もっとも、それはこの彼のような未熟な者の話。長年経験を積んだ死神は平気な顔をして実体化する。
「えぇ、見えるわ・・・本当に、死神なのね」
彼は、死神として実体のない姿を見てくれる者が欲しかった。願いが叶った喜びに、死神は小さく笑う。
「なら、今すぐに私を殺しなさい」
少女の言葉に、死神の微かな微笑みが硬直した。
ついさっき少女が主治医に言い放った言葉を、まさか自分にかけるとは思わなかった。
まあ、可能性としては十分有り得たが。
「私は死神ではありますが、人を殺す事はできません。それは“鎌”の仕事であり、死神は鎌を持てないのです」
彼は10年前に死神となった一番の新入りで、生前の記憶を持たない者だった。それ自体は珍しい話ではなく、皆最初は生前の記憶を持っていない。だから、先輩の死神達が時々話す生前の話が羨ましかった。
この少女の眼差し、言葉、気だるげな仕草に目が離せないのは、生前の記憶に関わる相手だから?
今はまだ、何も思い出せない。
けれど、この少女が自分に関わっているのは理解できた。
「・・・・・・? 私の言う事が聞けないの?」
少女は笑う。
「―――死神様って融通が利かないのね!」
上流階級独特の、誇り高い言動で死神を笑い飛ばした。
けれど死神は、彼女のそれが虚勢と気付いた。
寂しさを押し隠して誇り高く精一杯に気を張る少女を、死神は己と重ねていた。

生きていた頃の事を思い出せない、空虚を抱えた死神。
貴族の誇りゆえに己の寂しさを言い出せない、病を抱えた少女。

「きっと貴女も私と同じ、孤独で悲しい存在」
その言葉に、他ならぬ死神本人が驚いた。
孤独を感じていた。
退屈を感じていた。
けれど、それを悲しいと思った事はなかったのに。
「死神でよろしければ、友となって差し上げましょう」
差し伸べられた死神の手を、恐々と少女は取った。
氷のようなその手の冷たさに、少女は彼が人でない事を理解した。
だが少女は、その手を取る事に躊躇しなかった。


「私は、リーリア=ド=クロエ。貴方は?」
リーリアの言葉に、死神はフードを取った。
中にあったのは、少女と同じだが色の薄い金髪と蒼い瞳。
死神の手が冷たかった時よりも大きな驚きが少女を打った。

「私自身は覚えていないのですが・・・仲間達は、私をレンと呼びます」
その中性的な顔立ちは、リーリアにそっくりだった。

ライセンス

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  • この作品を改変しないで下さい
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【白黒P】鎌を持てない死神の話・3

せっかく鏡音なんだし、と二人の顔をそっくりにしてみた。
かなり他とは毛色の違う作品になりそうですw

閲覧数:269

投稿日:2011/05/26 18:03:11

文字数:1,241文字

カテゴリ:小説

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