――降ってきたのは、黄緑色の子犬だった。

 私が部屋のベランダで洗濯物を干していると、いきなり空から子犬が降ってきた。
 白いシーツは子犬がそこに落下したためにところどころ黒くなっている。
 あーあ、洗い直しかあ……。
 まったく、あんたが降ってくるから……って、おい!
 空から子犬が降ってきただと?
「えっ、ちょっ、なんなの! 何降ってきてんの! ねえ!」
「クゥン……?」
 子犬は答えない。そりゃそうだよね。
 よく見るとその子犬は赤いゴーグルをしていた。
 取ろうとしたらかわされて取れない。
 ともかくお姉ちゃんたちに報告だ!

「あんたバカ?」
「バカじゃないよ! ほんとに降ってきたんだよー! ねえってばー!」
「ミク姉、ついに頭までいかれたの?」
「どうせその犬飼いたいから嘘ついてるだけじゃない?」
「ミクちゃん、重音さんの誕生日はまだよ」
 私は今までいろんな生き物を拾ってきて、飼いたいとせがんでいる。そのたびにお姉ちゃんたちにダメだと言われ続けてきた。
 でもこんな得体のしれない犬を飼う気などない。
 いやでもちょっと飼いたいかな。なんだかんだ言ってゴーグルも似合ってるし、可愛いし。
「へえ、空から降ってきたんだ。すごぉい」
 感心してくれてるのはお兄ちゃんだけ。
「お兄ちゃん大好きぃ! お姉ちゃんもリンちゃんもレン君もルカちゃんもちっとも分かってくれないんだもん」
「うん、僕もミクちゃん大好きだよぉ~。可愛いねえ」
 お兄ちゃんが子犬をなでる。
「このゴーグル、ミクちゃんがつけたの?」
「ううん、最初からついてたよ」
「ともかく……拾ったところに置いてきなさいよ」
 お姉ちゃんが言う。
「拾ったんじゃないよ、降ってきたんだよ」
「しつこいわねえ」
「だって降ってきたんだもん」
「あんたはその犬をどうしたいの?」
「どうすればいいかお姉ちゃんたちに相談しに来たの」
 はあ、とお姉ちゃんが頭を抱える。
 リンちゃんとレン君は興味をなくしたらしく、中断していたマリオカートをやり始める。
「じゃあもう飼っちゃいなさい」
「え?」
「そろそろ飼ってあげようと思ってた頃だし、その子飼ったほうが犬を買う必要ないじゃない?」
 それに、とお姉ちゃんはつけたした。
「それにこの子、そんじょそこらの犬とは比べ物にならないくらい可愛いもの」
 こんなにあっさり許されるなんて思わなかった。
「去年、忙しくてあんたの誕生日祝ってなかったなって……そのかわりと言っちゃなんだけど」
「……いいの? 本当に?」
「いいわよ。実を言うと、私も犬欲しかったんだ。まあこの子はミクの犬だけど、家に犬がいるってなんかいいじゃない」
 なんという理由。
 インテリアにこだわるお姉ちゃんの言いそうなことだけど。

 名前はメグ。
 なんと呼んでも返事をしてくれなくて、
「アミ!」
「…………」
「メープル!」
「…………」
「メグ!」
「キャン!」
 といろいろなのを試してみて、返事をしてくれた『メグ』にした。
「へえ、可愛いねえ」
「可愛いでしょ」
「ミクちゃんの事じゃないからそんなににやけないでほしいな」
「ひどいよクオ君」
「冗談冗談、ミクちゃんも十分可愛いよー」
 遊びに来たクオ君にメグを見せると、クオ君はすごいすごい可愛い可愛いと言いながら抱きしめたりなでたり。
 空から落ちてきたという話はしなかった。
 どうせ言ってもバカにされるだけだもん。

 それからというもの、私はいつもメグといるようになった。
 歌う時もメグと一緒、遊ぶ時もメグと一緒、ご飯もメグと一緒。
 ある日公園で遊んでいて、投げたボールが道路に転がってしまった。
 メグが取ろうと一目散に駆けだす。
「あっ、メグ、危ないよ!」
 叫んだ時、メグはもう道路に出ていた。
「メグ、ダメ!」

 横から来た車に轢かれたメグは、すぐに病院に運ばれた。
 メールでお姉ちゃんたちにこの事を伝えると、驚いて病院に来てくれた。
「遊びに行かなきゃよかった……! 私が変な方に投げるから!」
「ミクも悪いかもしれないけど、轢いた方にも非はある。それにメグだって勝手に走ってったんでしょ?」
 でも一番悪いのは、私なんだ。
 あんな方へボールを投げちゃった、私なんだ!

 結局、メグは逝ってしまった。
 涙が枯れるまで泣いた。泣いて泣いて泣いて、もうメグの事なんて忘れようって思った。

「すみませぇん、いますかー?」
 玄関で聞こえるメグの声は幻聴だろうか。
「インターネット社で新しく開発されましたGUMIと申しますがー」
「あ、GUMIちゃん? どうぞ私MEIKOです。KAITO、ミク、リン、レン、ルカ! GUUMIちゃんが挨拶に来たわよ!」
 GUMI? ああ、そんな子がインタネにくるって言ってたっけ。
 私は部屋を出て、玄関に向かう。
「初音ミクです……よろしくね」
 黄緑の髪。
 赤いゴーグル。
 声。
「わっ、ミクちゃん? 嬉しい嬉しい、私GUMIです! よろしくね!」
「め……ぐ?」
 メグだ。
 GUMIちゃんは、メグだ。
「商品名はめぐっぽいどだけど、GUMIって呼んでね」
「あの……私の事、覚えてる?」
 聞かずにはいられない。
「覚えてる? 恨んでない?」
「恨むって何が? ミクちゃんとは仲良くできそうだし、恨んでないよ?」
 それに、とGUMIちゃんはつけたした。
「私、ミクちゃんと会った事あるような気がするんだ。すごく仲良くしてくれたような気もする。だから、えっと……よろしくね」
 本当? 本当に恨んでない?
 いつの間にか私の目からぽたぽたと涙が流れた。
 みんなギョッとして私を見る。
「いつかミクちゃん抜いてみせるから、覚悟しててよね!」
 GUMIちゃんの宣言。
 私は涙をぬぐい、GUMIちゃんの頬をつまむ。
「私を簡単に抜けると思ったら大間違いだよ! 簡単にクリプトンを抜けると思って? だいたいVOCALOIDが知られ始めたのは私のおかげなんだy(ry」
「わーっGUMIちゃんこれからよろしくねえ! リンでーす!」
「レンです、よろしく」
「ルカです」
 私の声はリンちゃんたちに遮られた。
 帰り間際、GUMIちゃんが言った。
「そうそう、ミクちゃん」
「何?」
「簡単にミクちゃん抜いちゃったらごめんね」


 メグはこんなに自信のある子に育ちました。

 GUMIちゃん、発売おめでとう。これからよろしくね。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

初音さんがGUMIちゃんの言動を理解できるのには訳がありました。

<http://piapro.jp/t/Z3mM>
↑ミクさんがGUMIさんの事を理解できるのには訳があったのです!!!

前回と前々回に投稿したのとは全く別のものです。ごめんなさい、あれは次の展開が思いついたらすぐに書きます。まあたぶん期待してる人なんていないんだろうけどねっ♪

いい話にしよういい話にしようとは意識していたものの…なんでこんなのになっちゃったんだろう。

閲覧数:186

投稿日:2011/04/19 21:06:58

文字数:2,682文字

カテゴリ:小説

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  • シベリア

    シベリア

    ご意見・ご感想

    なんか感動した…(;ω;)
    空から子犬って羨ましいww
    メグで答えるのもかわいいね!!ゴーグルとか絶対似合う!!!
    兄さんがすごいのほほんとしてるwww

    ミクがみんなに必死になって言ってるのがかわええ!
    あっさりと飼うのおkしてくれてよかったねミクw
    ブクマもらうね~

    2011/04/19 21:34:13

    • 絢那@受験ですのであんまいない

      絢那@受験ですのであんまいない

      いつもありがとう!
      ミクとGUMIのを書きたくて。GUMIは動物にしたら犬かなーって。猫耳のほうが好きだけどね。ミク? そりゃあネギでしょ(((
      兄さんはそういうキャラにしようと心がけてるからね。しっかりしたキャラだと兄さんのイメージが崩れてしまうwww

      いつもいつもブクマありがとう!

      2011/04/19 21:50:45

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