「ムーンリット・シリーズを理解できるのは一応私だけなのよね」
おおう、唐突に訳の分からないこと言い出したぞ。まあ、最初から訳がわからないんだが。
「ムーンリット・シリーズはある人間が作り出したの。それは人であり、凡人であり――“天災”だった」
「“天災”? 天才じゃなくてか?」
「ムーンリット・シリーズの管理者はカミサマであり、人間であり、それでいて滑稽な存在。だけどその真実は非常につまらないものであったりするのよ。ムーンリット・シリーズに相対するように、新たなカミ、サンリット・アールは生まれた。sunlit all……全てを太陽が照らす、つまり『叡智』のカミだったのよ。それで、試験問題も作成した存在だった」
「ムーンリット・シリーズはカミサマ……? つまりお前も、初音もカミサマだっていうのか?」
「そうよ、だから最初から言ったじゃない。私は神管、ムーンリット・アートだと。……あなたは覚えているはずよ、あなたも、ムーンリットの名を持つ、シリーズの一員だということを」
≪【リレー】僕と彼女の不思議な夏休み 13≫
「ぼ、僕がムーンリット・シリーズ……?」
何を言っているのか、さっぱり解らない。
それ以前に現在初音が言ってきたことは全て解らない。これが初音が作り出した設定――所謂デタラメだって言うなら、それは相当にすごいことだと思う。
「あなたはムーンリット・ゼロ。シリーズの中で最初に生み出された、ムーンリット・シリーズよ。だから一番、“天災”の血を引き継いでいるのかもしれないわね」
「……天災の血? どういうことだ?」
「それは私から説明しちゃおっかなー」
ゆかりさんが突然さっそうとチェーンソーのスイッチをオンにして現れた。やばい、なんかやばい。
「ネタバレしちゃうと、私もあの場にいたんだよねー、ハンプティくん」
「は、はんぷてぃ……くん?」
僕を見て言ったのだから、恐らく僕の呼び名なのだろうが、いったいなぜそう呼ぶのだろうか。まったくかぶってやしないのに。
「そそ、ハンプティ・ダンプティだからハンプティくんで呼ぶね、って約束したじゃないか。おぼえてる?」
覚えてないな――といおうとしたのだが。
――ねー、ムーンリット・ゼロ?
――呼びづらいからさ、君の『キャパシティ』であるハンプティ・ダンプティから取って、ハンプティくんって呼んでいいかな。いいよね。許可したってことでいいね!
なんだろう。頭の中で、何かの記憶が残っている。これは紛れもない……ゆかりさんの声だ。
頭の中のゆかりさんはチェーンソーこそ持ってはいなかったが、同じ服装だった。
そして、ゆかりさんと僕が居た場所はとても綺麗な空間だった。大地は緑で覆われていて、遠くには噴水やアーチ橋も見える。さらには――向こうで二人の人間が走り回っていた。
片方は誰だか解らなかったが――もう片方は見たことがある。
あれは、初音……?
「……ねえ、覚えている? って聞いたんだけどなあ」
ゆかりさんの言葉で僕は現実に引きずり込まれた。
「あ、ああ……もしかしたら、だけれど、覚えているかもしれない」
「やたっ! さっすがハンプティくんだね!」
ハンプティくんという呼称に僕は今だ慣れていないけれど、何か今のうちに慣れておかなくちゃ行けない気がしてきた。初音の方をチラ見すると頬を膨らませていた。悪かったのは、解る。けれど、記憶は完全に戻っていないんだよ……って言ったら僕が記憶喪失だったみたいじゃないか。違うぞ。僕は記憶喪失ではないと思っている。
「……まあ、これで『ゼロ』が揃ったわけだし、ようやっとこの空間も閉鎖出来る、っていうの?」
ゆかりさんのチェーンソーがぶいーんと唸りを上げる。正直うるさい。
「そうね。さーてとっ、さっさと行きますか」
「えっ、どこに?」
「箱庭……じゃないか。ネットで言うところのティザーサイトみたいな場所かな、そこに行くのよ」
「だって初音、おまえ箱庭にはいけないって」
「ああ、だって箱庭が無いし」
「……は?」
つまり、行く的なオーラを醸し出していたのは、嘘だったというのか?
「嘘ではないよ。箱庭再生計画ってもんをやろうとしている連中をだましだましでなんとかなっているんだ。この世界に『箱庭なんて作れない』って解ったらこの世界を滅ぼしかねないからね」
「……箱庭再生計画?」
「詳しくは後で話すよ。それじゃ……頼みますよ、『マッドハンター』」
任せとき、とゆかりさん――マッドハンターは言って、チェーンソーを空間に充てがった。
それは、それだけじゃ、何も起こらない行為だ。
だけど。
それをしたことで、空間が二つに裂けた。
「なっ……!?」
僕の驚いた表情を見て初音はニヤニヤと笑っていた。ほんとうに、ほんとうにこいつは性格が悪い。悪すぎる。
空間はどんどん裂けていく。こいつは、いったい、どういうことなんだろうか。まったくもって物語がついていけない。
「……ちょっと気持ち悪くなるかもしれんけれど、我慢してねハンプティくん」
「そ、それを今言うのか――」
次の瞬間。
僕の意識は、その割れ目へと吸い込まれていった――。
目を覚ますとそこは黒い壁で覆われた空間だった。
「……ここは?」
「ようこそ、そしておかえりなさい――ムーンリット・ゼロ。私たちの中で創造主に一番近い存在」
そこには青い髪の男が笑って僕たちを出迎えた。
「……というかさ、バカイト。ここのしくみもうちょい考えたらどうよ? 毎回毎回気持ち悪くなるってのもさすがに気分的な問題も起きないかね?」
「しょうがないじゃないか。まだ『ムーンリット・シリーズ』が揃っていないんだよ。許してくれよ」
バカイトと呼ばれた人間は、そう言って机に置かれていたメモを取り出し、僕に差し出した。それは、いったいなんだ?
「これを見てくれれば……君が何者か、全てを思い出すと思う」
そして――手渡されたそれを見て、まず僕はため息がでた。だって、そのメモに何が書いてあったと思う?
――僕と彼女は、特になんの意味もない白黒な関係だ。
これだけが書いてあっても、何も知らない人間にとっては何も言えない。現に僕も今ため息をついてこの言葉の意味を頭の中で検索をかけている。
だが、この検索結果は途方もないことばかりで何も出てきてはいない。
ならば、これは何だ。
バカバカしい、と思いメモを棄てた。
ちゃりん。
――と音がして、僕はメモを退けた。
そこには、黒い小さな鍵があった。
「こんな鍵、メモのところにはなかったけれどなあ……? なあ、これなんの鍵だ――」
そのとき。
僕の頭が激しい痛みを発症した。
「くっ……」
思わず倒れ込みそうな痛み――僕の頭の中に、さまざまなものが駆け巡る。
――この世界は『操られた世界』……って言ったらあなたは信じられる?
――神は何時までも居座ってるつもり? 私はしってるのよ。その『神のスゴロク』が神の継承されるもの、ってことは。
――そう! 私たち3人でこの学校を守るのよ。こんなエントロピーが増大している学校他にないわ。
――私のことを心配してるのかしら? 全てリセットされたら、私も消えてしまう。もしかしたら、生まれ変わってくることなんてありえない……。考えていたのは、そんなところで確定したわね。
そうか、そうか、僕は……。
そして、僕は。
――全てを思い出した。
つづく。
【リレー】僕と彼女の不思議な夏休み 13
夏が近づいてきますね。そして、GUMI空気。
アトガキ&解説:http://natsumeecho.hateblo.jp/entry/2013/04/28/002236
前回:http://piapro.jp/t/Xmg0
04/30
神威の一人称が一部間違っていたため修正しました。
僕が俺になっているなんて、痛恨のミスです。
今後はないようにします。
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