３－５．

　ちょっと早く着きすぎたから、私は図書館で時間をつぶすことにした。
　海斗さんからのメールによると、実験の最中だからあと一時間は手が離せないらしい。
　長くも感じるけど、でも、昨日とか一昨日なんかにくらべたら、一時間なんてほんの少しだ。
　広い図書館の中を、のんびりと歩く。
　ここは高校、大学兼用の図書館だから、蔵書量はかなりある。私も、本を買わずにすむときは、たいていここで借りている。
　そういえば「ロミオとジュリエット」も借りっ放しだったっけ。ついでだから持ってくればよかったかな。
　そんなことを思っていたら、少し面白いことに気付いた。
　――家族に知られないように、こっそり会いに行くなんて、それこそ本当に「ロミオとジュリエット」みたいじゃない？
　……まぁ、その場合だと私の方がロミオになっちゃうんだけれどね。
　でも、シェイクスピアって人は本当にわからない。
　ジュリエットは、ロミオと一緒に暮らすために眠り薬を飲んだ。それで家族には「ジュリエットは死んだ」と勘違いさせて、家族の元を去ろうとしたのだ。遠くマンチュアにいるロミオと一緒に暮らすために。
　なのに、ロミオはそのことを知らないままジュリエットに会いに帰ってきた。そして、眠ってるジュリエットを見て、ジュリエットが死んでしまったと勘違いしてしまう。ロミオは持っていた毒をあおって命を絶つと、そのあとで目が覚めたジュリエットが、目の前で死んでいるロミオを見て絶望し、ナイフで自分の胸を突いて死んでしまう。
　……本当に、救われない話。
　だって、ハッピーエンドにできたんだもの。ハッピーエンドにできたはずなのに、シェイクスピアはそうしなかった。「ロミオとジュリエットは、マンチュアで二人幸せに暮らしました」とはしてくれなかった。
　ううん、これはただの物語。本当にあった出来事じゃない。でも……二人がかわいそう。
　シェイクスピアは考えなかったのかな。「もしも、自分がロミオだったら」って。「もし自分がジュリエットだったら、どう思うんだろう」って。
　……私だったら、すごく嫌だ。私は幸せになりたいもの。二人で心中なんてしたくない。


　私は、悲劇なんてごめんよ。
　私なら、きっとこう言うわ。
『ねぇ、私と生きてくれる？』って、ね。