【遠藤愛華がログアウトしました。】
【アンインストールを開始します。】
【しばらくお待ちください。】
……………………………………
愚か者。
親不孝者。
情けない。
勿体ない。
悲劇ぶってて気持ち悪い。
もっと死ぬ気で頑張れよ。
そう、私を非難するそこのアナタ。
おめでとうございます。
アナタは世界から選ばれた人間です。
その寿命が尽きるまで、
思う存分人生を謳歌しましょう。
隣で泣いてるあの子に綺麗事を吐きながら、
甘い汁をたっぷり吸いながら、
人は皆自分と同じであると信じながら、
人の苦悩を知らないまま、
これからもアナタを楽しんでください。
自分が死ねば周りは幸せになるとか、
世界が救われるとか、
そんな大それた事は微塵も思ってないよ。
ただ人生に飽きただけ。
これ以上生きても仕方がないと思っただけ。
結局、何一つ叶わなかったけど、
まぁ、それでもいいか。
今回は失敗だったという事で。
私は、遠藤愛華は、
本日をもちまして、卒業します。
香織先生、貴女だけが私の味方でした。
それじゃ、いつかまた何処かで。
さようなら。
…………………………
【アンインストール完了。】
【記録を終了します。】
【お疲れ様でした。】
………………………………………
救えなかった命がある。
この世界は、優しい奴から居なくなる。
創造の神はいても、救済の神は何処にもいない。
彼女が遺したこの手紙が、
そのことを残された私たちに訴えている。
知ろうともしない、
笑ってばかりの彼らにそっと語りかけている。
例えそれが、届かないと分かっていても。
「お疲れ様。今はただ、安らかに眠りなさい」
蜩が弔いの言葉を奏でる夕刻。
私は、彼女が眠る墓石の前で手を合わせた。
今の私が彼女にしてあげられるのは、
線香を焚いて、花を彼女の前に添えて、
彼女の幸せをこうして祈るだけ。
彼女の父親は、葬儀に来なかった。
学校での虐めはなかった。
苦しみの原因が父親である事は明白だった。
それなのに私は、最後まで彼女を守れなかった。
彼女が父親に虐待を受けていた事実を知っても尚、私はただ励ますことしかできなかった。
彼女に必要だったのは、
気休め程度の言葉ではなかったはずなのに…
ごめんね、愛華ちゃん。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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旅人書房と名無しの本(それから)

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投稿日:2023/09/15 23:17:38

文字数:944文字

カテゴリ:小説

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