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俺は今日、人生の答え合わせをした。
楽しかった事や、苦しかった事、
未だに癒えない傷の事など、
自分の過去を振り返りながら、
安物のノートにひたすら書き連ねた。
内容は、以下の通りだ。
………
もう一度生まれ変われるなら何になりたい?
日本人女性。
(今の記憶を受け継いだまま)...旅人書房と名無しの本(答え合わせ)
Kurosawa Satsuki
片道切符を購入し、
誰もいないホームで列車の到着を待っていた。
行先はこの路線の終点まで。
あえて目的を決めず、気の向くままに旅をする。
思えば、ここまで来るのに色々あった。
喜怒哀楽を経験して得たものは、
歪な形をした石ころ一つだけだった。
私は、その石ころを大事に握りしめながら、
初めから用意さ...旅人書房と名無しの本(片道切符)
Kurosawa Satsuki
私は、会社のビルから飛び降りた。
理由を探せばいくらでも出てくるが、
それすらも疲れてしまった。
私が最後に願ったのは、
“あの頃に戻ってやり直したい”だった。
真っ暗闇の空間には私しかいない。
とても温かく、眠気がやってくる。
そして、徐々に意識が遠のいていく。
あぁ、これが終わりというやつか。
...旅人書房と名無しの本(通信簿)
Kurosawa Satsuki
【遠藤愛華がログアウトしました。】
【アンインストールを開始します。】
【しばらくお待ちください。】
……………………………………
愚か者。
親不孝者。
情けない。
勿体ない。
悲劇ぶってて気持ち悪い。
もっと死ぬ気で頑張れよ。...旅人書房と名無しの本(それから)
Kurosawa Satsuki
「これで良かったのだろうか?」
不安に駆られて目が覚める。
掛け時計を見ると、夜中の二時を回っている。
ここは、夜景がよく見える最上階の病室。
私の手は、僅かに震えていた。
一人だからではない。
このまま終わるのが怖いのだ。
やり残した事は山ほどある。
取り戻したい思い出は道中で失くしてしまった。
...旅人書房と名無しの本(忘れもの)
Kurosawa Satsuki
八月十五日のお盆休みに、
五つ下の妹を連れて先祖の墓参りに行った。
電車を乗り継ぎながら、
一時間程で目的地の先祖達が眠る霊園についた。
「兄ちゃ〜ん、暑いよ〜」
「じゃ、後でカフェに寄ろうか」
「うん!」
今日の最高気温は三十五度。
八月の初旬から酷暑が続いていて、
体育会系の俺でも、流石にこの暑...旅人書房と名無しの本(ただいま)
Kurosawa Satsuki
私たちの日常も、今日で最後になるらしい。
私たちの頭上には、
星よりも明るい光が幾つも見える。
それらは、私たちの方へと近づいているようだ。
どの報道番組も、その光の事しか話さない。
あれはきっと隕石だ。
光の正体が隕石群であると、
誰もが信じて疑わない。
「上空からアンノウン反応、
緊急警報発令、...旅人書房と名無しの本(またいつか)
Kurosawa Satsuki
世の中には、目を背けたくなる実情が沢山ある。
その人によって、
また、時代によって痛みの種類や程度は違う。
酒がなくても酔うことはできる。
周りを見てみなよ。
老若男女、色んな酔い方をしている。
俺が最後に見る景色は、
どんなものなのだろうか?
暗闇なのだろうか?
光に包まれているだろうか?...旅人書房と名無しの本(道しるべ)
Kurosawa Satsuki
人間を辞めて、猫になりたい。
猫は良い。
私よりも自由だから。
無条件に愛されるから。
やっぱり、飼い猫よりも野良。
飼い猫の方が幸せなのかもしれないけど、
毎日のように飼い主のご機嫌を取るのは嫌。
確かに、野生の世界では常に恐怖と隣り合わせ。
弱肉強食で、弱いものから居なくなる。
けど、それは人間...旅人書房と名無しの本(ラピスラズリ)
Kurosawa Satsuki
日に日に、足取りが重くなる。
周りの雑音が、私への誹謗へ変わる。
息苦しい。
消えたい。
逃げ出したい。
そういう言葉が、頭の中で反芻する。
子供の頃とは違う仲間はずれ。
大人特有の残酷な一面。
正義の元に、弱い者を蹴落す。
助けてなんて言えない。...旅人書房と名無しの本(アメジスト)
Kurosawa Satsuki
私は、透明が好き。
無個性な私にはピッタリな色だから。
実家を飛び出して一人暮らしを始めてから、
透明な家具や食器を買い集めて、
それらを眺めながら癒される。
洋服も、パステルカラーやアイシーカラーを基調としたものを好んで着ている。
透明色にハマったきっかけは、
透明をコンセプトにしたBARだった。...旅人書房と名無しの本(オパール)
Kurosawa Satsuki
何処に居ても差別はある。
何年経っても無くならない。
形を変えて言葉を変えて、
胸ぐらを掴まれる。
復讐劇は終わらない。
百年経っても睨めっこ。
睨み合っても、互いにやってる事は同じ。
だから、いつまで経っても変わらないんだ。
勝手に比べられる辛さを、
私は誰よりも分かっている。...旅人書房と名無しの本(エメラルド)
Kurosawa Satsuki
目を覚ますと、見慣れない天井があった。
右腕には、点滴用の針が刺さっていて、
ここが何処であるかは直ぐに分かった。
どうやら、私は失敗したらしい。
とりあえず、これまでの経緯を振り返ってみる。
……
最初に自分が普通じゃないと知ったのは、
小学四年生の夏。
母親に連れられて、小さな病院に行った時だ。...旅人書房と名無しの本(ルビー)
Kurosawa Satsuki
金木犀の香りが辺りに漂う季節、
私は、コンビニで買ってきたロコモコ弁当を意地汚く頬張る。
父は今日も帰って来ない。
母は熊の胸の中にいる。
無造作に転がっている女物の下着。
私は、母の不在に安心する。
我儘な母の面倒を見るのはもう嫌だ。
汚い部屋で食べる弁当は不味い。
食べた物をトイレで吐く。
やが...旅人書房と名無しの本(ガーネット)
Kurosawa Satsuki
私は今日、夢を見た。
普段は滅多に見ない、不思議な夢だった。
とある街に、言葉を食べる少女がいた。
少女は、街中を歩き回りながら、
吸い取るように言葉を食べ続けた。
少女は手始めに、いじめっ子の言葉を食べた。
「マジでキモい、死ねばいいのに」
次に、部下を叱る上司の言葉を食べた。
「甘えるなよ、これ...旅人書房と名無しの本(言葉を食べる夢)
Kurosawa Satsuki
ここはどこ?
私は誰?
真っ暗闇の中で、私は目覚める。
怖くはない。
ただ、私の心は空っぽだ。
意識の始まりから、その場でしばらく佇んでいると、
目の前に小さな光が見えた。
手を伸ばしても、届かない。
私は、光の方へ歩み始める。
歩く度に、どんどん光が大きくなっていく。...旅人書房と名無しの本(御ままごと)
Kurosawa Satsuki
辛い時、悲しい時、
私は決まった夢を見る。
宇宙を旅する夢だ。
広大な宇宙の周りには、
大小様々な星たちが浮かんでいる。
恐ろしい熊も、煩い鴉(カラス)もいない、
そこは、私が望んだ私だけの世界。
静寂ではあるが、
暖かく、心地よい空間。
赤色に輝く星の集合体(星団)の中に、...旅人書房と名無しの本(プラネタリウム)
Kurosawa Satsuki
ここに愛に飢えた獣が一匹、
今日も孤独に生きている。
幸せそうな周りを見ながら、
「巫山戯るな」と震える声で一言呟く。
また一つ、許せないものが増えた。
思い出のある公園のベンチに腰を下ろし、
「何をやっても思い通りにいかない」
等と言いたげな表情をし、
アルコールを無理矢理胃に流し込む。
脳裏に映...夏休み(盲目)
Kurosawa Satsuki
いつから、私はこんなになってまで彼を見ていたのだろうか?
だけれども気づいているのかな
あの時のことまだ気にしているのかな?
これからまた新たな運命があるならば私は歩もう。
そして、どこかの分岐点でまた出会えたらそこから彼とやり直そう。いや、戦おうか。
だから今は、全ての人生をこれからのために彼が、...運命
椿 紅音
その1
放課後の教室、君と2人きり。
でも君は眠っている。
机に顔を埋めて、眠っている。
さっきから起こしているけども、起きる気配がない。
君の顔を見る。
情けない顔して眠っている。
君の髪を、少し触る。起きない。きれいな髪。
君の頬をつついてみる。少し唸るだけで起きない。
本当に爆睡しているみたい...それでもまだ好きだから
湯島結代