カリカリ、カリカリ。
 静かな教室に文字を綴るペンの音だけが響く。
 外は日差しがジリジリと照り付け、セミも賑やかに鳴いている。しかし、それを遮るように窓は閉め切られ、クーラーから吹く風が必要以上に身体を冷やした。その中で、自分を含めた学生たちは机に向かっている。
 果たしてこの状況を見て誰が今夏休みだと感じられるのだろうか、とレンは常々思っていた。

(プリント終わったし)

 渡された数枚の問題に対する解答は既に埋めた。何度も確認をし、例え間違っていたとしてもそんなに苦ではない。本番で正解すれば良いだけの話だ。
 何もやる事が無くなって、とても暇に感じる。一瞬寝てやろうかとも思ったが、さすがに止めた。

(……詰まんねぇ)

 小学生の頃の夏休みは、とてもワクワクして過ごしていたように思う。宿題もそれ程多くなかったし――レンはポスターや習字は“2人分”やっていたので同級生よりは多めだったが、それを考えても、今よりずっと楽だった。それに山だ、海だ、祖父母の家だと色々な場所に出掛けていた思い出もある。
 それが一転し、今では一応休みと銘打ってはいるが、学校付けの日々を送っている。


 ジー、ジー、ジー、ジー……
 シャー、シャー、シャー、シャー……


 少し抑え気味に聞こえるセミの声が、今は夏だと主張している。
 ふと窓の向こうを見遣れば、元気良く走り回る後輩たちの姿があった。

(あっついのに、よくやるよ。ま、部活だし、しょうがないか)

 心の中で呟いた。多分、部活動に熱中出来る彼らが羨ましかったからだろう。


 キーン、コーン、カーン、コーン、


「あー、終わったー」

 チャイムが鳴った途端、人目も憚らず大きく伸びをしたクラスメイトを、レンはちらりと見て溜息を吐いた。

「……クオ、寝てただろ」

「しょうがねぇだろ、終わったんだし」

 休み時間に突入し生徒が減った教室は、終業式以前と変わってはいなかった。



   ある受験生の夏



「なあ、クオ」

「んだよ」

「今、夏休みだよな」

「……一応、な」

 確認して少しだけ虚しくなった、そんな夏の一日。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ある受験生の夏

バイト先の中学生がこんな状況になっていたので……。
夏休みの補習は全然楽しくない!


何故かミクオを書いていました。初書きです。レンと仲良し。
レンはリンの分まで宿題やらされていたんだろうな……(遠い目)。

閲覧数:224

投稿日:2010/08/20 23:19:28

文字数:907文字

カテゴリ:小説

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