「きゃああああ!!助けて、誰か!!」
薄暗い路地裏に、絹を裂くような悲鳴が響き渡る。
「クックック……無駄さ、ここには誰も来れない、そう、だぁれも、ね……さて、そろそろ眠らせてあげるよ!!」
いたいけな少女を取り囲む無数の陰。その中でもリーダーらしき怪人が、カマになった腕を振り上げる。まさしく絶対絶命の状況に、少女が目を閉じたその時。
ガキィィン!!!!
「何っ!?」
突如として少女と怪人の間に割り込む何者か。
怪人の腕はそれに阻まれ、激しく火花を散らした。
「……何が、ここには誰も来れない、だって?」
振り下げられたカマの下で不敵な笑みを浮かべるのは、青いマフラーで顔を隠した青年。
青年の姿をみとめ、怪人の顔が憤怒に歪む。
「貴様……またアタシ達の邪魔を……!やってしまえ!!」
号令を受け一斉に戦闘員たちが青年に飛びかかる。しかし、彼は表情一つ崩すこともなく、戦闘員たちをいとも簡単に凪払ってゆく。最後の一人を倒しても未だ余裕といった雰囲気の青年に、怪人が苦虫を噛み潰したような表情になる。
「さて、後はお前だけだが……どうする?」
「ちぃぃ……覚えていな!」
舌打ちと共にに暗闇の中に姿を消す怪人。青年の背後で、少女が立ち上がる。
「あ、ありがとうございます!あなたは、まさか……?」
質問に、青年は振り返る事なく答えた。
「俺は、カイトマン。この街の平和を守る者さ」
「はい、カットー!よし、これで行こう!!」
監督の声で、戦闘員役の人々が一斉に立ち上がる。カイトマン役のボカロ(無論KAITO)と少女役のボカロ(白髪と褐色の肌が特徴的だが、俺の知識にそれに該当するキャラは存在しない。誰なのだろうか?)が舞台を降り、怪人役……俺も、衣装を脱ぎながらそれに続いた。
「いやーシグ君、素晴らしい演技だったよ!とても初仕事とは思えない!!」
「はあ、どうも……」
(……どうして、こうなったんだっけ……?)
スタッフの絶賛に、上の空で返事を返しながら、俺は今までの経緯を思い出していた。
◆◆◆
「ええええええ!?嘘おおおおおお!!!?」
俺はピアプロに入って一週間程経った朝。同居人の叫び声に、俺の意識は強引に覚醒を促された。
「なんだよ……朝から騒々しい……」
寝ぼけ眼をこすりつつ、俺は押し入れの襖を内側から開いた。
現在俺は押し入れ内部で寝起きしている。始めのうちは雑音のベッドの隣に布団を敷いて寝ていたが、雑音がすぐ部屋を散らかす(本人曰わく「なんか散らかってないと落ち着かない」そうだ。タチの悪いコンピューターウイルスに犯されているんじゃないだろうか)のをいちいち片づけるのが面倒になった結果この形に落ち着いた。最初の内は埃っぽくて嫌だったが、住めば都とはよく言ったもので、今ではすっかり俺の城と言った感じだ。
「ちょっ、開けるのは私の許可をとってからっていつも言ってるでしょーが!!」
寝間着姿の雑音が慌てて襖を閉める。彼女が愛用しているのが可愛いキャラクターのプリントされたファンシーなパジャマだと知ったら、彼女をよく知る人々はどう思うのだろうか。
「別に、着替え中じゃないならいいじゃねえか……」
「今着替え中よ!」
「そうか、まあもし見られても減るもんじゃねーけどな」
「減るわよ!乙女の純潔が!最低の化身ねあんた!!」
乙女の純潔は減点式だったのか。
まあそれはともかく、奴が着替えている間はここを出るわけにもいかない。時間も割と普段起きてる位の時刻なので、俺も着替えておく事にした。前までは奴が着替える度に部屋の外へ追い出されていたので、そういう意味でも押し入れを寝床にしたのは正解だった。
「……いいわよ」
丁度俺が着替え終える頃に、雑音から許可が降りた。押し入れから這い出た俺はさっそく質問を切り出す。
「で、何があったんだ?」
「これよ!」
「ん?なんだこれ?」
雑音が勢いよく突き出した紙には、「出演依頼」というような事が書いてあった。なんでも、俺に子供向けの特撮番組「GO!GO!KAITOMAN!!」に悪役として出演して欲しいとの事だった。
ボーカロイドがドラマとか特撮の役をやる、というのは変だと思うかもしれないが、案外そうでもない。なんだかんだで見栄えもいいし演技も普通に出来る彼らにとって特に難しいことではないのだ。亜種の中には歌に頼らずそういった方向で活動する者も多い……というか、どちらかというと俺もこっちに該当する気がする。
「ふーん……で、これの何が凄いんだ?」
「何がって……全てよ!あんた、まだほぼ無名と言っても過言じゃないボカロが出演依頼貰ってんのよ!?それに、一話しか出ないとはいえ、エキストラじゃない台詞持ちキャラだし!!何より、公式ボカロとの共演!!本当全てが規格外よ!!なんであんたにこんなのが来たのかまるで理解出来ないわ!!」
「そ、そうなのか……?」
要は大して売れてもいない知名度の低いアーティストがミュージックス○ーションに出るようなものなのだろうか……と考えると確かにとんでもない。
「確かに、そりゃ凄いな……」
「漸く理解出来たみたいね……まあ多分何かの手違いだろうから、行って追い出されて来なさい」
「なんで間違ってること前提なんだ……まあ、行くけどよ」
◆◆◆
(そして行ってみたら普通に歓迎され、今に至る、か……)
まあ、でもそこまではまだいい。許そう。何せもっと大きな問題があるのだ。
「なんだよ……『怪人オカマキュラス』って……」
それが俺の今演じているキャラクターの名前だ。地域密着型の悪の組織『オンチジャン』によって作られた人造人間で、普段は一般人になりすましているがいざとなったら真の姿となり両腕のカマを振り回して戦うオネエ系怪人という素敵な設定。最後が多分に余計だと思ったのは果たして俺だけか。
因みに俺がこのキャラに抜擢された理由は、このキャラを出すに当たって誰に役をやらせようかという話になった際、何故かこの番組のヒロイン役が「それならぴったりな奴がいる」と俺の名を出し、更にそれに何故かカイトが賛成の意を示したからだそうだ。
(予定なら募集するはずだったそうだしな……全く、余計なことしてくれたもんだぜ……)
勿論やりたがる奴の少ない役である以上、ギャラはいい。しかし、俺の場合今のところ十分な収入は得られている。なので、速攻で断ろうとしたのだが……
「……ちっ……」
噂をすれば陰とやら。ポケットの携帯が振動を始める。
『どうだね?』
「どうもこうも、まだ仕事中だっつーの……」
雑音から報告を受けたコイツは、『全くいい機会が舞い込んだものだ!シグ君、その撮影に参加し、公式ボカロであるKAITOと接触を図り、やもすれば我が配下に導き入れるのだ!!これは任務だ、失敗は許されんぞ!!』と興奮した声色で告げて来やがったのだ。
先日のごとく未だに俺の命が狙われている可能性がある以上、断る訳も出来ない。
ああ、かわいそうな俺。雑音やびんぞこにオカマ役やってんのが知られて無いのが唯一の救いか……
『どうした?』
「我が身に降りかかる苦難の多さに打ちひしがれてただけだ。そろそろ休憩終わるから切るぞ」
『ああわかった。頑張ってくれたまえ、オカマ怪人役を……ぷぷっ』
「はっ、て、てめえどこでそれをっ……!」
思わず大声を出した俺は、周りから注目されているのに気づき慌てて口を閉じた。
はぁ……気が重い……。
◆◆◆
「はーい、今日の撮影はここまで!お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様ー……はぁ……」
漸く地獄の時間が終わった。だが、任務はこれからだ。
精神的疲労からその場に倒れ込みたくなるのを抑え、なんとか顔を上げる。が、すぐに視点を下ろしたくなった。
「……この状況ではキツいっすよびんぞこさん……」
カイトは現在無数のスタッフに取り囲まれてちやほやされている。既に雰囲気的に絡みづらいし、今の俺の気力残量ではあそこまでたどり着けるかもわからない。
(これはもう任務失敗でいんじゃね?でもあいつそれは許さんとか言ってたしな……あーどうしよ……ん?)
と、カイトを取り囲む輪が突然崩れた。そして、その中から出たカイトはそのまままっすぐこちらに向かってくる。奴は爽やかな笑みを浮かべ俺に声を掛けてきた。
「やあ、語音シグ君!常々噂は聞いていたけど、今日はそれに恥じないいい演技だったよ!!」
「どーも。ま、オカマの演技なんざ誉められても微妙な気分になるだけだがな」
「おいおい、確かにそうかもしれないが、ああいう役が出来るってのは貴重なステータスだぜ?ところでシグ君、この後時間あるかい?少し話がしたいんだが」
「ああ、別に大丈夫……ってえ?」
(おいおい、こりゃあびっくらこいたぜ……)
まさか向こうから誘ってくるとは……思いも寄らなかった。
「何か、問題でも?」
「あ、いや、そういう訳じゃない。ただ、結婚を前提にしたお付き合いとかは勘弁してくれ、と思ってな」
「はは、安心してくれ、僕にもそんな趣味はないから。で、この後少し付き合ってくれるかい?」
「ああ、構わん」
当然断る理由もない。俺は2つ返事で了承した。
小説【とある科学者の陰謀】第五話~青いマフラーなびかせて~その一
第五話出来ました!スマフォでやってたら執筆途中で二度程入力内容吹っ飛んで大変だったwww
今度はKAITO兄さん登場です。爽やか&ちょっと大人な兄さんとシグの相性は一体どうなんでしょうか?
そしてシグには勿論今回も受難して貰いました。女装もやらせないとな……2828←
MAMIさん、ご期待のシチュエーションに関してはミクを話に絡める関係上もう少し先にならないと出来んかもです……すみません。
前回に引き続き今回も組織名及びやって欲しいシチュエーション、出して欲しいキャラクター募集中です。思いついたら自分に直接メッセージくれてもいいのでどしどし下さい!
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