「カイト、あんたねぇ。ちょっと来なさい!」
土曜日の晩、食卓に並べられた『ネギ たっぷり チャーハン』をみたメイコは、まだキッチンで料理をしているカイトを呼びつけた。
「なに、メーちゃん。 まだもう一品作るから忙しいのに・・・・・・あっ、できてる分は先に食べ始めたっていいんだよ。」
文句を言いつつも、律儀にメイコの側に来たカイトに『ネギ たっぷり チャーハン』の盛られたお皿をズイッと突きつける。
カイトは、取り合えず流れで突きつけられたお皿を受け取る。
突き返されるということは何か異物でも入っていたのかと思って、返された『ネギチャーハン』を凝視してみるが、特に異常は見つけられない。
訳が分からず困惑するカイトにメイコは言葉をかける。
「カイト、あんた、今週の晩ご飯を全て言ってご覧なさい。」
全く理由は分からないけど、なんかかなりお怒りらしい。
今までの経験上こういった時は下手に逆らわない方がいい、そう判断すると、カイトは頭にある一週間の献立データを引き出し。
「えーと、確か。
月曜日は、焼き鳥にお味噌汁。 野菜を補うためにあっさり煮た野菜の煮物を付けて。
火曜日は、野菜多めのホイコーロー。春雨サラダにしゅうまい、スープで中華風。
水曜日は、久しぶりにみんなが揃うので、すき焼きにして。
木曜日は、鶏肉と野菜と豆腐で煮物。おひたしとお味噌汁。
金曜日は、寒さが身にしみたので、あったかいお鍋。
そして今日は、ネギチャーハンにスープだね。」
スラスラと一週間分の献立を言い連ねる。
間違いはない。というか、普通に考えて間違えるはずがない。間違っていたらスクラップ物だろう。
でも、言いたかったのは そこ じゃない。
そう思うとメイコの拳がワナワナと震える。
「大事なことが抜けているでしょ。」
「大事なこと?」
震える拳に少しビクつきながらもカイトは、ますますさっぱり分からなくて、もうメイコを見つめる事しかできなかった。
「ネギよ、ネギ!
どの料理にも『これでもかと言うぐらい入っているネギ』についての説明を求めているの!」
その大声に食卓に着いているみんなの背中がビクッとふるえた。
そう問題は、ネギなのだ。
月曜日の焼き鳥の鳥肉とネギの割合は2:8だった。
そしてホイコーローとは、家庭では豚肉とキャベツの味噌炒めと同じくすることが多い。
今回のメニューは野菜多めとうたっているので、他の野菜が入ることはかまわないだろう。
それに香味野菜として利用する物なので、入っていても変ではない。
ただただ割合がおかしい。あえていえばネギと豚肉+αの味噌炒めか。
その他のメニューでもメインはネギ?と言いたくなる内容の数々……
ついでに各食事に付いたお味噌汁、スープもネギいりだった。
メイコは叫んだからか、それとも精神的に疲れたからか、ゼェゼェと肩で息をしてテーブルに手をつくと下からカイトをギロリとにらみつける。
「たまに、入るぐらいなら何も言わないわよ。 食べられない訳じゃないもの。
でも、こう毎日毎日毎日毎日ネギの山盛りを目にすると、もういい加減して欲しい訳よ。」
そのメイコの言葉に、カイトもやっと思い当たったのか「ああ」と呟きポンと手を鳴らした。
「あのね、メーちゃん。」
珍しくまじめな顔をして、ズズッとメイコに詰め寄る。
綺麗な顔をしているだけに、なんか妙に迫力があり、メイコは柄にもなく緊張し唾を飲み込んだ。
「ご飯に好きな物を入れるのは、食事当番に与えられた 特権 なんだよ。」
そういったカイトの顔は、清々しいほど爽やかな笑顔だった。
『『『『だからって、なんで、ミク(姉)の?』』』』
食卓にいる面々は、幸せそうにスプーンを口に運ぶミクとキッチンでネギを片手にもう一品を思案しているカイトを交互にみた後、言いたい言葉を飲み込むように『ネギ たっぷりたっぷり チャーハン』を食べ始めた。
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