次第に会場にも静けさが戻ってきた。
 それと同時に、五人の目に、鮮やかにうつるフィールドの上の兄姉。それと、相手の二人組み。
 信頼する二人のこと、そう簡単に負けるとは思わないが、ある意味ピンチには違いないだろう。しかも相手は二人の曲を完全にコピーして、その力で能力を使っているのだから、二人は動揺している。
 それにつけて、五人は知らないが、試合前にカイトが言った一言でメイコは尋常じゃないくらいに動揺していて、冷静な判断などできるものではない。それを、どうしたらうまく攻略できるか――。
「何で一度聞いただけで…っ」
「いい、カイト。私たちの方が絶対、上なんだから。何度も練習したでしょう」
「う、うん」
 少したじろくようにカイトが頷く。
「応戦してやるのよ。…売られたけんかは?」
「倍額でも買ってやる…ね」
 余裕を見せるような笑顔を見せたカイトに、メイコがいたすらっぽい笑顔で応えた。そのとき、低い声がする。
「邪魔をするな…」
 相手の青年が軽く手を振った。能力を使うとき、殆どの者たちは一律のこの動作を行うのだ。勿論、カイトやメイコも例外ではない。
 その瞬間、一陣の風が空を切ってメイコへと襲い掛かる。
「きゃっ」
 思わず声を上げてメイコが後ろに倒れこんだ。それをカイトがどうにか支え、立ち上がらせたが、メイコは苦しそうに腕を押さえてうつむいた。
「めーちゃんっ」
「い…っつ…」
 顔をゆがめてその場に座り込みそうになるのを必死でこらえ、相手をにらみつける。勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる相手をにらみつけ、メイコは息を荒くしてどうにか立っている状態だ。そんなメイコをそっとタイルの上に座らせ、カイトがささやく。
「休んでて」
 声が出なかった。
 今まで、カイトが進んで喧嘩をするだの、手を出すだの、そんなことは一度もなかった『ハズ』だ。しかし、今、そのカイトは一体なにをしようとしている?走って相手に突っ込んでいく、その姿は『何もしていない』わけがなく、『喧嘩』をおっぱじめる後ろ姿に違いなかった。
 今まで忘れていた。あの軟弱なカイトも『男』なのだと。
 自分は『女』でやはり『男』のカイトにはかなわないし、それを分かっているからカイトも自分以外女しかいないあの場所で、手を上げることも言葉を荒らげることもなく、優しい姿でいてくれた。それは、分かっていた。自分に弟ができたと聞いたとき、あんなにも嬉しかったのが、本物を見てどれだけ落胆したことか。それから、ずっとカイトを強くしてやろうと試みていたが、それをカイト自身が拒むようなのでそう長く続かなかった。
 それは、自分を大切に思ってくれていたから。
 一瞬、攻撃を受けたとき、最初にカイトがあんなことを言ったからだ、などと思った自分を恥じたくなった。
 素早く間合いをつめ、相手に駆け寄る。払いのけようとする手をつかみ、呟くかのように、しかしはっきりと、
「俺のもんに手ぇだすな」
 先ほどまでの優しい瞳ではない。
 冷たい光を持った、『狩り』の目。その目に映る光景は敵など写してはいなかった。何も写さず、ただそれだけの光りをもって怪しく光るその目に射抜かれ、青年は金縛りに合ったように動かなくなった。
 軽く手を動かした。
 それが、試合終了の合図になった。
「…カイト…」
「めーちゃん。…売られた喧嘩はやっぱり、買わなきゃあね」

「…メモリーは回復した。よかったな、記憶データを取っておいて。大部分が削除されていたが」
 そういって、解体していたヘッドフォンのふたを閉めてミキにつけさせ、スイッチを押すと、ミキがしばらく時間をかけて目を覚ました。
「…」
「ミキ、分かりますか。氷山です、ミキ」
 何度かキヨテルが呼びかけると、ミキはきょとんとした顔で応じた。
「わかりますよぉ?どうしたんですか、先生?」
「よかった!!」
 流石に抱きつくことはなかったが、ぺたんと座り込んで涙目になりながら喜ぶキヨテルを、ミキはあきれたように見ていた。
「…まあ、見たところ、お前と別れた後のこともデータを消去されているらしいから、何があったかと聞いても無駄だろうな」
 椅子をキィキィ言わせながら、言ったデルを呼び止めたのは、ハクだった。
「――デルさん、解析、終わりました」
「どうだった?」
「やはり、ウイルスが混入しています。…それと、それとは別にウイルスがもう一つ」
「どんな?」
「…まず、やはりデータを侵食するタイプのウイルスと、もう一つは新しいデータを別の場所に転送する、割合新しいウイルスです」
「ふぅん…。しばらくはそっちを調べておくから、お前ら、しばらくくんな」
「えっ」
「もしかすると、映像データも転送されていたかもしれない。そうだとすると、ここも何かのウイルスに引っかかるかもしれない。…全力で避けたい」
「そうですね…。わかりました。しばらくは近づかないようにします」
 軽く頷いたキヨテルと、わけが分からない様子のミキはその場を後にした…。

「先生、何があったんですかぁ?しばらくの間、記憶データが欠如してるんですが」
 すたすたと歩いていくキヨテルを追いかけながらミキが聞く。
「さぁ?」
「なんですか、それぇ!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

今日も双子日和 15

こんばんは、リオンです。
いやはや、双子日和になりきれないのが残念でなりません(笑
とりあえずカイトはメイコ命なんです。きっと。
だから、メイコが怪我したりすると、ちょっとした傷でも本気で心配して自分が怪我しちゃうんです。
不憫でも、メイコと一緒にいられるならなんでもいいんですね。
仕事を選べないなんていわれてますけど、きっとカイトは仕事を選んでメイコに嫌われるのを恐れているわけです。
…長くなりましたが、今日はこの辺で。
また明日!

閲覧数:411

投稿日:2010/01/10 23:19:59

文字数:2,166文字

カテゴリ:小説

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