UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その5「モモvsタイプT」
バリヤ発生装置の外壁をコツコツと叩いて、マコが音を確かめた。テトが切り落とした右手は、モモによって完璧に修復されていた。
「どうだ、マコ」
小隊長の方を振り向いて、マコは決然と言いはなった。
「やはりここが一番薄いようです」
小隊長がモモを見るとモモは阿吽の呼吸で答えた。
「主作戦開始まであと、10分です」
「では、こちらも作戦開始だ」
「はい」
「ルナ、穴を開けろ」
「ラジャー」
ルナは腰のハンマーを振るった。
キンと乾いた音のあと、ブンと低く唸るような音がして、ハンマーが外壁にめり込んでいった。
ズブズブとハンマーが沈んだところで、まるでスープをかき混ぜるようにハンマーを動かすと、外壁の穴が次第に大きくなっていった。
「リツ」
「はい」
ルナがハンマーを引くと同時に、開けた穴が縮み始めた。
そこをすかさずリツがGネットで固定した。
開いた穴にモモが手を突っ込んだ。
「敵性反応はありません」
「よし、突入する。ルナとリツはここを守れ。9分30秒経過しても、我々が戻らなければ、ここから脱出し、基地に戻れ」
「ラジャー」
「了解」
ルナはニコニコしているが、リツの表情は複雑だった。
「テト、先頭をたのむ」
「任せなさい」
テトが穴の中に入った。続いて、マコ、モモが入り、最後に小隊長が入った。
内部に照明は無かったが、皆、独自のライトやセンサーを使って奥に進んだ。
5メートル進んだところにハッチがあった。
ハッチは八角形をしており、中心に片手で回せるハンドルのようなものが付いていた。
ハンドルに手を伸ばしたテトをモモが止めた。
「待ってください。向こうがクリアになっていません」
「何があると思う」
「トラップの有無だけなら、確率は50パーセントです」
少し考えて小隊長は指示出した。
「第5種装備に変更」
「宇宙装備かよ」
「了解」
「了解しました」
全員の外見に大きな変化は見られなかった。テトは関節の一部が赤く染まり、モモとマコは首周りに薄いゴムのような膜が現れた。小隊長に変化はなかった。
テトは少しイラついたように疑問を投げ掛けた。
「何で、第五種、宇宙装備なんだ?」
「敵の中には、軟体動物を模したナノマシンがあったはずだが、まだ出会っていない」
「タイプT、ですか」
「いやどすなあ。ナノレベルの隙間から侵入されるんわ」
小隊長は、懐から手榴弾を出した。
「ハッチを開けたら、これを放り込んですぐに閉める」
「これは?」
「高周波発生装置だ」
「マイクロウェーブでこんがりと焼くわけか」
「そうだ、テト。ハッチをたのむ。モモとマコは下がってろ」
テトはハッチのハンドルに手をかけた。モモとマコが下がったのを確認して、テトは小隊長に合図を送った。
「1、2、…」
テトの手に力が入り、小隊長は手榴弾の安全装置を外した。
「3!」
ハッチが開けられ、中から液体が溢れ出てきた。手榴弾が放り込まれると、ハッチはすぐさま閉じられた。
「テト、焼け」
小隊長に言われて足下を見ると、溢れ出た液体が、固まりとなって動いていた。
テトは、すかさずライフルを構え、火炎放射器モードに切り替え、液体に向け炎を放った。
液体はゴボゴボと音を立てて沸騰し、蒸発した。
「とりあえず、熱には弱いみたいですね」
「モモ、ハッチの向こうはどうだ?」
「はい。垂直に30メートル降りた先に動力源を探知しました」
「ナノマシンは?」
「まとまった動きは感知できません。さっきの手榴弾で99パーセントは死滅したと推測できますが」
「行くぞ。本作戦の開始が迫っている」
マコがハッチに手をかけた。
「いや、露払いは、マコに頼む。テトはハッチを開けてくれ。2番手は、私。テトは3番手でモモのガードだ。殿はモモ」
「了解」
3人の声が揃った。
テトはハッチにゆっくりと手をかけた。
「1、2、3!」
テトがハッチを開けると、マコが高機動モードで 中に飛び込んだ。
続いて小隊長が、バズーカ砲を抱えて飛び込んだ。
テトは少しだけモモの顔を確認して中に飛び込んだ。モモが続けて降りて来るのがわかった。
ハッチの下は、かなり広いドーム状の空間が広がっていた。
四人が降り立った床は水平にひろがり、中央に地上と同じ岩を模した動力源が鎮座していた。
「地上のと同じだと思うか?」
テトの質問に小隊長は首を振った。
「少なくとも同じ材質である必要はないな」
「爆弾、仕掛けて、オシマイと違います?」
「試してみるか、マコ」
小隊長は手榴弾を一つ手渡した。
マコは受け取るとすぐにピンをぬいて放り投げた。きれいな放物線を描いて、動力源の頂上に軟着陸するかに見えたそれは、突如岩肌の表面に現れた触手に捕まった。
触手は手榴弾をあっという間に解体し、細かくなった部品を吐き出した。
「器用だ、な」
「でも…」
モモの自信に満ちた笑顔がそこにあった。
「今のでだいたい、解析できました」
モモは両手に探査針を装着した。
「みんな、離れてください」
三人が後退りするのとは反対に、モモはつかつかと動力源に近づいた。
モモが探査針を突き立てるより早く、触手が探査針をに巻き付いた。
さらに数本の触手がモモの体に取りつき、モモを引き寄せた。
「ちょっと、デフォ子はん。モモさんを助けんと…」
「いや、様子を見る」
モモの全身が触手に覆われた時、テトはモモが歌っているような気がした。
〔何の歌だ。聞き覚えがあるような…〕
モモを覆っていた触手がパチパチと火花と音を出し始めた。
触手の表面に黒く焦げた部分が現れた。次第に大きくなっていく黒い部分の真ん中がいびつな形で剥がれ落ちた。
黒い部分が広がっていくほど、剥がれ落ちていく部分も増えた。
モモを覆っていた触手がすべて黒くなって剥がれ落ちたとき、なぜかモモは水着姿になっていた。
黒い部分はさらに動力源の全体を覆って、剥がれ落ちていった。
「モモ、何をした?」
小隊長の質問にモモは笑顔で答えた。
「ナノマシンに、本当の敵を教えてあげました」
「それって、どないな…」
「敵は己れの中にあり、と」
「なんか、精神論のテキストに出てきそうだな」
「なるほど、自分以外のナノマシンが敵という認識に変わったわけか」
「クラッキングは手間がかかりましたけど、一体書き換えられれば、あとは」
「ナノマシン同士が情報交換して広がったということか」
全員がむき出しになった動力源を振り返った。
「これで最後にしよう」
小隊長がバズーカ砲を構えた。テトもライフルを、マコも手榴弾を構えた。
「撃て」
小隊長の合図で、一斉に砲火が動力源に浴びせられた。
「止め」
動力源はその姿をほとんど変えずそこに鎮座していた。
「最後にするんじゃなかったのか?」
「うるさい!」
聞き慣れたテトと小隊長のやりとりに、思わずモモとマコの顔が綻んだ。
「モモはん、残り時間は?」
「あと3分です」
マコがふいにモモの手をとり何かを握らせた。
手のひら上の小さな箱にモモは目を見張った。
「これは、SC」
顔を上げたモモは、マコの笑顔を見た。
「あれを破壊できるのは、うちしかいてませんやろ」
「マコさん」
「まあ、基地に帰ったら、また会えますやろ」
マコは笑顔を残して小隊長に駆け寄った。
マコの言葉に少し考えて小隊長は軽く頷いた。
テトは何かを言いたげだったが、小隊長に付いて歩きだした。
テトが振り返ったとき、マコは笑顔で手を振っていた。
三人は降りてきた穴を登り始めた。
残ったマコの体が白く輝いた。やがて赤く輝くと、周囲を熱で溶かし出した。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想