「――おはようございます」
 朝、大きなあくびをしながら既に制服に着替えたレンがリビングに入ってくると、メイコがキッチンに立っていて、ルカが新聞を取ってきたところだった。それだけならばいつもの風景なのだが、さも当たり前のようにミキがメイコの隣で卵焼きを作っている。なぜだか妙になじんでいた。
 ――そうだ、昨日からここにすむことになっていたんだ…。
 と思い出し、レンは軽くお辞儀をした。そんなことをする必要はないのだが。するとミキは少し驚いてから、お辞儀で返した。
「ちょっと、焦げてるわよ!」
「あ、え、大変! お水を!!」
「家事じゃないんだから! …もう、だめね、これ。食べられないわ。真っ黒だもの」
「リンに作らせたってそんな風になるんですから、あきらめたほうがいいですよ、メイコさん」
 コーヒーを淹れながらレンが言うと、メイコは確かに、と言うように苦笑した。
「ごめんなさい…」
「慣れてないんだもの、仕方ないわ。これから覚えていけばいいわよ」
「はい。ありがとうございます」
「主、かわりますわ」
 新聞をテーブルの上において、ルカもキッチンに入ってくると、卵を割ろうとしたメイコの手を止めた。
「あら、そう? じゃあ、ルカは朝ごはんを作って。私は二人のお弁当を作るから」
「わかりました」
 卵を受け取り、ルカは手際よく朝食の準備を進める。
「カイトさんがまだ起きてきていませんが、どうしますか?」
「あー…。起きるときは早いけど、起きないときは一日中寝てるのよね、カイトは。…レン、リンを起こすついでにカイトも起こしておいてくれる?」
「あ、はい。わかりました。じゃあ、起こしてきます」
「お願いね」
 言って、メイコも弁当作りに専念しようとした。が、ミキがすぐそばにいたことを思い出し、にこっと笑って、
「リビングでくつろいでいていいわよ」
 といった。すると、ミキは少しあわててぺこりと頭を下げてからキッチンを出て、リビングのソファのはじの方につめて座った。終始うつむいていた。
「まあ、くつろげって言ったって、くつろげるはずないわよね…」
 寂しそうに笑いながら、メイコは言った。しかし、その後に言った言葉は、メイコの言葉など聴いていなかったかのようだった。
「彼女、どうしてここを選んだのでしょう…」
「え?」
 驚いたようにメイコが顔を上げる。
「仮にも主はこの町では賢者と呼ばれているのですから、少しでも情報が漏れれば見つかる危険性はぐっと上がります。それなら、もっと信頼できる知り合いのところにでも隠れたほうがいいのでは?」
 確かに、と納得する。
「ああ、昨日言ってたことね。でも、彼女、まだ幼いわ。そんなに深く考えずに来てしまったのかも」
 と、メイコが言うと、ルカはまったく納得などしていない様子で、
「本当にそうでしょうか…」
 といった。本当に小さな低い声だったので、弁当作りに専念し始めてしまったメイコには聞こえなかった。
 しかし、ルカ自身、自分が考え出した疑問の答えを見つけ出せないでいた。匿ってほしいといいながら、見つかりやすい場所に自ら身をおく理由など、そうそう見つかるはずもなかった。
 そのとき、上の階から、毎朝恒例の『お祭り騒ぎ』の音が聞こえてきた。と、言っても、二人ではしゃぎまわっているのではない。リンを起こしに言ったレンが、寝起きの悪いリンに難癖をつけられ、物を投げつけられているのだ。上でどんなことになっているのかを想像すると、毎日かわいそうになってくる。いつも、音が数秒続いて、階段をどたどたと駆け下りてきて、リビングでソファに落ち着く。
 二人で並んで朝食をとって、先に食べ終わるレンがリンのリボンをきれいに結んでやると、ちょうどリンが食べ終わって、二人で仲良く玄関を出て行って、リンがミクに飛びつく、と。決まりきったことだ。しかし、今日は二人が降りてくる前に音がやんだ。
「…あら、珍しい」
「あれ、絶対二人が和解したんじゃありませんよ」
「じゃあ、何で?」
「多分、カイトさんが止めてくれたんだと」
 と、ルカが言うと、ラフな格好をしたカイトがリンとレンを軽々と担いできて、ミキが据わっているソファにどっと落とすと、リビングを出て、部屋に戻っていった。
「…当たったわね」
「大体わかってきました」
「こら、二人とも、ぽかんとしてないで朝ごはん運びなさい!」
「母さん、レンが部屋のぞいた! 着替え中!」
「いっつも起きてない時間だから大丈夫だと思ったんだよ、悪いか!」
「悪い。すごく悪い。超悪いッ」
 とか何とか言いながら、二人、もって来た朝食をしっかり横に並べ、並んで座って、一緒に「いただきます」を言うのだから、面白い。
 そして二人は朝食を食べ終わると、いつものとおり、かばんを持って、家を飛び出していったのだった…。

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鏡の悪魔Ⅴ 9

こんばんは、リオンです。
明日から学校ですね、行きたくないですね。うん。
今さっき、鏡の悪魔タグをつけて回ってたんですけど…。
すごくタグが増えてて驚きました(笑
しかもその内容が小説の文の間違いを指摘してるんですね。
ありがとうございます。時間に余裕があるとき、直して行きたいと思います。
余談ですが、
ひとつだけ「よくできました」ってタグがあってすごくうれしかったです。

閲覧数:269

投稿日:2010/07/11 23:46:17

文字数:2,003文字

カテゴリ:小説

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