部屋の中に響く、私の歌声。
歌っているのは、初めて挑戦する恋の歌。

「うーん…」

「…マスター?」

マスターが首を傾げ小さく唸るのが聞こえて、私は歌うのを中断した。

「私、もしかして音外れたりしてましたか?」

「いや…ちゃんと上手く歌えてたし、別にどこか間違えてた訳じゃないんだけど…」

「けど?」

「何か物足りないっていうか…」

物足りない?
なんだろう。恋の歌だから優しく歌ってみたのだけど、もっと強く歌った方が良かったのだろうか。

「歌い方とかそういうのじゃなくて…なんていうか…表現力?が、足りない感じ?」

「表現力…ですか?」

マスターは「うん」と頷いて言葉を続ける。

「やっぱりこう、甘い恋の歌なんだからさ、なんていうか…『私、恋してる!』って感じで歌って欲しいんだよね」

「恋…ですか」

「恋」というのがどんなものなのか一応知識としては知っているのだけど、私はまだ実際に恋をしたことがない。
だから、マスターの言う「『恋してる!』って感じ」というのがいまいちよく解らなかった。
だから正直にそう言ったら、マスターは黙って考え込んでしまった。

しばし訪れる沈黙に、段々と落ち着かない気分になってきた時、マスターがふと思いついたというような顔をしてこう言った。

「ミク、ミクの一番好きな人は誰?」

「え?き、急になんですかマスター」

不意に訊かれて戸惑う私にマスターはこう続けた。

「ミクは『恋』が解らないって言うけどさ、恋愛とかそういうのでなく好きな人たちっていうのはいるでしょ?」

「恋愛でなく?」

「そう。家族とか友達とか、そういう『好き』。その中で一番好きな人のことを想いながら歌ってみれば、どんな感じの気持ちなのかなんとなくでも掴めるんじゃないかな?」

「私の、一番好きな人…」

そう聞いて、自然と一人の顔が思い浮かんだ。
私の表情からそれを感じ取ったのか、マスターが言う。

「もう一度、歌ってみる?」

私はそれに笑顔で答えた。

「はい!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

恋はまだ分からないけど

本当は前後にカイミクな文がついていましたが、あまりにも口から砂を吐きそうな駄文だったのでマスターとのやり取り部分だけ投稿してみました。
中途半端なのは多分そのせいです。

閲覧数:291

投稿日:2009/05/31 15:45:42

文字数:858文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました