バッとルカの手が上がる。
それはミク達にとって、本当の戦闘開始の合図―――――!!
『戦闘配備……展開!!!!』
『ッシャアアアア!!!!』
力強い声と共に、全員が動き出した。
「……? ……ねぇ、メイコ姐さん。『彼女』はどこに?」
「ああ、『あの子』? 『あの子』なら、ルカが指定したところで待機してるわ。あの驚異的な力は戦況を変えるからね。いろはを崩すにはピッタリよ……! さ、まずはあんたが掻き回しな!!」
「オッケー……!! 『Light』!!!」
空気が斬れる音を立て、鞭を振りほどき空に飛び出したいろはに向かって金色の少女が突っ込んでいく。
余りにも甘い突進。いろはは難なく躱していく。
―――――が、その突進は囮。
「う!!?」
突然いろはが耳を抑えてふらつく。地面に降り立ったミクの髪色は―――――金から黒へと変わっていた。紅い眼光がいろはを捕らえる。
いろはとすれ違うその瞬間―――――ミクは一瞬で『Light』から『Dark』へと切り替え、神経を削る音をいろはの耳に叩き込んだのだ。
(かなり強めに叩き込めた……!! これなら!!)
「もっぺん……『Light』!!!」
再び髪が金色に輝き、力強く地面を蹴ったミクが空へ飛びあがった。
「馬鹿め!! 空も飛べない癖にあたしに空中戦を挑むか!!」
再び突進をかわすと、フォノンバスターの照準をミクに向けた。
その瞬間―――金色の髪は灰緑色に変わる。
(灰緑色の髪……!? まさか噂の―――)
「『Solid』!!!」
いろはの思索が回るよりも速く、斬撃音波『Solid』が頭上から降り注ぎ、フォノンバスターを刻んでいく。
「ぐぐ……!!」
再生はする。だが、リュウトと違っていろはの再生は自分とは直接的に繋がっていない『武器』の再生だ。当然体力の消費は激しい。
「空を飛べなくたって……空中疾走ぐらいならいけるんだよ!! 『Light』ぉ!!!!!」
三度『Light』が発動し、凄まじいスピードでミクがいろはに突っ込んでいく。今度はもろに激突し、二人はそのまま建物の屋上に墜落した。
『Light』は発動と同時にミクを高速で前方へと弾き出すように移動させる。即ち、空中でも発動すればあたかも空を飛ぶかのように移動が可能なのだ。
「く……このぉ!!!」
フォノンバスターをミクにピタリとくっつける。そのまま起動。ゼロ距離発射!! いろはとて無事ではすまないが、喰らえばミクは上半身と下半身が永久の別れを迎えてしまう―――――
―――――そんなことをこの奇跡の双子は赦しはしない。
『ツイン・サウンド―――――――――――――――っ!!』
「な!?」
「『Soft』!!」
リンとレンの声が響いた瞬間、今度はミクの髪が柔らかな薄緑色に染まる。あらゆる攻撃を受け流す『柔』の防御音波、『Soft』だ。
『サンダ――――――――――――――――――――っっ!!!』
直後、がっしりとミクに抑え込まれたいろはの元に、建物全体を覆うような雷が降り注いだ!!
ミクの周りを包んだ薄緑色の空気の膜は雷を全て柔らかく受け流し、全電圧がいろはの元に―――――!!
「ぐぬうううううう!!!」
雷の中でいろはは必死にもがき、フォノンバスターとコーラススピーカーを蒸かして電圧の有効範囲から飛び出した。
―――――だがVOCALOID一家の連携は途絶えない。
姉妹の黄金コンビネーションを抜け出たそこには、『ヴォカロ町の迫撃砲』の姿が―――――
『メイコバアアアアアアアアアアストオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』
出力全開のメイコバーストがいろはを襲う!! 避けきれずに音の波に呑まれたいろはは空中にかちあげられた。
「ぐぅぅぅぅぅ……!!」
何とかメイコバーストから逃れ、壊れた武器を再生する。だが、その度に体力が削られていく。
ルカの狙いはこれだ。いろはの武器は複雑な仕組みだ。更にいろはの命令で自在に動く代物と来た。その時点で、修復はいろはが再生させる方法だと、そしてそれには相当な体力を使うものでと判断がつく。
ならば下手に大技で一気に仕留めていくよりは、適度な威力かつ確実にあたるコンビネーションで武器を破壊し、体力を削っていった方が効率がいいと踏んだのだ。
何よりそのほうが―――一番当てたい技が当てやすくなる。
破壊力抜群かつ、手数もずば抜けた『究極の音波弾』が―――――
「おっしゃあ!! グミちゃんいっちゃええええええ!!!!!!」
「いよっしゃあああああああああああああああああ!!!!!!」
―――――グミの『サウンド・ウォーズ』が、直撃しやすくなる。
ピッ、と指を天に掲げると、上空に凄まじい数の空気の揺らぎが出現した。
「……『トマホーク』!!」
グミの言葉で空気の揺らぎは細長く圧縮された無数の空気弾へと変化し。
「『メテオ・スコ――――――――ル』っ!!!!!」
次の号令で、一斉に地上に向かって発射された!! その数、約数万……!!
「うわ――――――――」
いろはの悲鳴は、とどろく爆音に掻き消された。
「おっし!! 当たったよルカちゃん!!」
「よーし……やったかな……!」
もうもうと煙の上がる上空を見上げて、ルカが呟いた。
………だが、その希望はあっさりと破られる。
「……!?」
ミクが声にもならない叫びをあげる。突如、後ろからいろはに強襲されたのだ。
急所の延髄をしたたかに叩かれ、昏倒するミク。
「馬鹿な!? グミちゃんの『トマホーク・メテオ・スコール』を、あの状態で躱したっていうの!?」
驚きを隠せないルカが近寄ってみると、いろはの姿は先程までとは少し違っていた。
頭部の機械―――――『アナウンス・ブース』が展開している。黄色く円らな目が煌々と輝き、いかにも『本気モード』と言った風だ。
「!! 気を付けて、ルカちゃん!! 『アナウンス・ブース』が展開すると、一時的に全能力が普段の5倍以上に跳ね上がるの!!」
「な…………っ!!?」
驚いている暇はない。凶暴さを見せる猫のような瞳はグミに照準が合わせられた。
軽くトン、と地面を蹴る。その一蹴りで―――――グミの眼前まで迫りこんだ!
「グミちゃん!!」
「『バルカン』っ!!」
ルカがそばに寄ろうとするよりも速く、無数の空気弾がいろはを直撃。いろはは軽くふらついただけで、素早く攻撃の態勢を作ろうとする。
―――――が。
その動きを封じるかのように、金色の影がいろはの両腕をつかんだ。
―――――ミクだ! 急所の延髄を攻撃されて倒れたはずのミクが、いろはを抑えている!
『ばっ……バカな!? 動けるはずが……!!』
「……なめんなっ……町を守るために……「あの時」からずっと鍛えてきたんだよっ……るあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
凄まじい叫び声をあげながら、力強くいろはを地面に叩き付ける。『Light』の加速も手伝った、殺人的高度&速度のボディースラム!!
『がっ……ぐ……負けてたまるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』
血反吐を吐きながらも、素早く高空まで飛び上がり、4つのスピーカーを構える。
「……来る!! いろはの最強奥義『サウンドスパーク』……!! ルカちゃん!!」
「ぃよっし……!!」
スピーカーの射線上に立つルカ。その両手には、計八本の超重量の鞭が握られている。
『おおおおおおおおおおおおおおおおサウンドスパあああああああああああああああ――――――――――――クっっっっ!!!!!!!!!!!!』
いろはの咆哮と共に、驚異的な破壊力が見て取れる音波砲が放たれた!!
白いスパークを放ちながらルカに迫る音波砲――――――――――――――――
――――――――――ルカは瞬時に、『心透視』全開で音波砲の性質を読み取り。
『どこ』を攻撃すれば、音波砲が崩れ去るかを読み取り。
――――――――――それを実行に移した。
「蛸足滅砕陣《破音》!!!!!!!!!」
一条の光線の如く煌めいた八本の鞭が、音波砲を音も無く撃ち抜いて。
獲物を狙う蛸の如く『触手』を開き。
いろはを―――――八方から打ち据えた。
「……!!!」
いろはが苦悶の表情を浮かべ、全ての武器が破壊された瞬間―――――《破音》はやってくる。
《―――――ガオン!!!!》
武器が砕かれた音と共に、衝撃で弾かれた空気が猛烈な突風としていろはに吹き込んだ。
鞭の威力だけではなく、強い突風もまた打撃の如き破壊力を持っていろはに襲い掛かる。
強烈な大気圧に全身を痛めつけられたいろはは、そのまま力なく落下していく。
「いよっと!」
そこにルカの鞭が2本、素早く絡みついた。
簀巻き状態になったいろはが地面に落ちると、ルカたちはその周りに集まっていく。
「……ふぅ。何とかいろはは捕らえられたわね。ミク、大丈夫?」
「まだ少しふらふらするけど……うん、大丈夫!」
「グミちゃん、ありがと。うまく行ったね」
「うん! ……でもごめんね、『トマホーク』はずしちゃった……」
「外してなんかないよ。アレは確かに当たってた。もしもいろはが咄嗟に『アナウンス・ブース』を展開してなかったら、確実にあそこで終ってたよ」
「……えへへ」
嬉しそうに笑うグミを満足そうに見つめた後、ルカはいろはに向き直った。
「……さっさと殺しなさいよ」
「そうはいかないわ。あんたに死なれると、こっちも色んな意味で困るのよ」
「は……?」
「……リュウト!!!!」
突然、ルカが大声で叫んだ。
「出てきなさい!! いろはを守りたくはないの!?」
「なっ……」
その行動の真意は、いろはにはつかめなかった。
この状況でリュウトが出てくる―――――それはルカたちにとっては絶望ではないのか。
それとも何か……勝算があるのか。
「大切な仲間を!! 護りたくはないの!? 私は護りたい……大切な家族を、大好きなこの町を!!! あんたも守ってみなさいよ……!! 本気でいろはを守りたいと思うその心があるなら!! 私たちはあなたたちを救ってあげる!!」
「さぁ……来なさい!!! 『殲滅の音波竜』!!!!」
その一言と同時に―――――
天空に飛び出した一つの影があった。
「……リュウ!!」
決意の色を目に秘めて―――――飛び出してきた影―――――リュウトが叫んだ。
『ドラゴラムっ!!!!!』
途端に緑色の閃光が天を覆う。
吹き上がる蒸気が渦を巻き、巨大な竜の骨格を作り上げていく。
巨大な腕に、足に、肋骨に、筋肉が巻き付いていく。
翼が広げられ、尻尾も呻りを上げる。
そしてリュウトの体は頭蓋骨に覆われ、緑色の皮膚がその上を覆っていく。
鋭い眼光が―――――瞬いた。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアア!!!!!!!!!』
劈く様な咆哮を上げる―――――巨大な火竜が出現した。その眼は理性を完全に失っている。
ドラゴンは吼え狂いながら、乱暴にいろはを掴み上げ、ルカたちを踏みつぶさんと地団太を踏み、尻尾を振り回す。
「ついに来たわね……グミちゃん!! めーちゃん!! カイトさん!! お願いっ!!」
『おお!!!!!』
咄嗟に3人が動き出した。
カイトのエクスイカバーが出現し、ドラゴンの脚を固め動けなくする。
メイコバーストが翼の一番薄い部分をぶち抜き、更に飛行を不可能にする。
そしてこの時点で―――――グミの最強必殺がリュウト本体のいる、ドラゴンの頭部に全砲門の照準を合わせていた。
「グミちゃん!! やっちゃいな!!」
「オッケールカちゃん!! 喰らいな……!!!」
『バ―――――――――――――ストショット!!!!!!』
その瞬間。数えきれないほどの『空気の砲撃』がドラゴンに向けて襲い掛かった!!
『カノン』『サブカノン』『マシンガン)』『バルカン』『レーザー』『トマホーク』『トーピード』『スナイパー』『グレネード』『ミサイルランチャー』―――――あらゆる兵器がドラゴンの頭部一点めがけて降り注ぐ。
この集中砲火で一瞬でも穴が開いた瞬間に、「蛸足滅砕陣《破音》」『Solid』『メイコバースト』―――――VOCALOID一家三大最恐兵器を叩き込み、リュウトを戦闘不能にする――――――――――
―――――そのはずだった。
『……イロハ』
「……!? りゅ……リュウト!?」
『……ボクハ……キみヲ……キミのコとを…………!!』
『君のことヲ――――――――――守るっ!!!!!!!』
ドラゴンの目に―――――意志の光を宿した深緑の瞳が戻り。
両腕を構えた次の瞬間―――――!!
《―――――パンッ》
軽い音と共に―――――数多の砲撃が掻き消えた。
『……え?』
間の抜けた声がどこからか漏れた。
爆発は? いったいどこへ?
その答えは、撃った張本人であるグミがよく知っていた。
しかも……最悪の形で知っていた。
(『サウンド・ウォーズ』を……打ち消したっ……!? そんな……あれを打ち消すには、空気弾の中心を撃ち抜く針の穴を通すような正確かつ繊細な一撃が必要なのに……!!)
どれほど戦闘本能が優れていても、そんなチート級のコントロールは決してかなわない。
もしもそれがかなうとすれば、答えはたった一つしかない――――――――――!!
「なんて……なんて子なの……リュウト……!! この土壇場で……!!」
『……いろはちゃん、待たせてごめんね』
「リュウト……あんた……!!」
―――――強大な火竜の力を、完全に支配下に置いてしまうなんて……!!―――――
『……今度はこちらの番だよ』
仔猫と竜とEXTEND!! Ⅷ~激突!! VOCALOID軍団②VSいろは~
まずはいろはからフルボッコ!!
こんにちはTurndogです。
こんなおっそろしい連携をたった一人の敵に行うルカさんたちマジ鬼畜(((
因みに今回でミクの音波6種類すべてがお披露目されたことになります。
そしてその鬼畜に対応して……!
とうとう一番恐れていたことがっ!!!
―――――リュウト、覚・醒っ!!!!!
さぁ、どうなってしまうのか!!?
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