＊Len side

―――――約束だよ

１０年前のリンの声が今でも虚しくこだまする。

僕は〝あの約束〟を忘れたわけじゃない。
というより、忘れる訳がない。

リンはとても悲しそうに「そう。じゃあ私は誰と踊ろうかなぁ」と呟いた。

僕が約束を破ったのには訳がある。

ひとつは、父さんに言われたから。

そしてもうひとつは―――――










僕がリンを好きだから。











＊Rin side

レンはやっぱり約束を破った。

当然といえば当然かもしれない。

私たちは少しずつ距離が遠くなっていくのを感じていた。

レンはどんどん男の人の体型になっていくし、私だってどんどん女の人の体型になっていくんだから、差が出てくる。

先月からは生理も始まった。

今まで何もかもレンに話してきたけど、こればかりはちょっと言えないなぁ・・・

私が幼い約束にこだわるのは訳がある。










私がレンを好きだから。












＊Len side

出来れば来ないで欲しかったパーティーの日。

ミクさんは綺麗な緑色の髪をした少し年上の人だった。

父さんの様子から、父さんは僕とミクさんが結婚することを望んでいると分かった。

リンは青い髪をした結構年上の男とつまらなさそうに話している。


「レン君・・・だよね？パーティー、つまらないでしょ」

踊りながらミクさんが話しかけてくる。

「いえ、とても楽しいですよ？」

「嘘。だって顔がつまんないって言ってる。ぶっちゃけ私もつまんないから、遠慮しなくていいよ」

ミクさんは笑って言った。直感でこの人はいい人だと分かる。

「ミクさんは何でつまらないんですか？」

「ミクでいいよ。私、好きな人がいるんだもん。一般人だから、お父さん許してくれないし。レン君は？」

「僕もレンでいいですよ。・・・僕も好きな人いるんで良く分かります」



「あの子？」



ミクは真っ直ぐリンを指差した。

知られてはいけなかった。絶対に。だから誤魔化す。

「違いますよ。リンは僕の双子の姉で・・・」


「好きなんでしょ？分かるよ、ずっと見てたじゃない」


この人に隠すのは難しい。本当に。

僕は仕方なく本当のことを語った。



＊Rin side

私がレンとミクさんをじぃっと見ていると、その視線を妨げる人がいた。

お父さん、と青い髪の毛の知らない男の人。

「リン、始音カイトさんだよ。ちゃんとご挨拶！」

１８歳くらい・・・かな。

「鏡音リンです」

「リンちゃん。カイトだけど、覚えてる？覚えてる訳ないね。君とレン君はまだ２歳だったから・・・」

凄く優しそうな人だったけど、私の人見知りが発動して、レンの後ろに隠れようとした・・・けどレンがいない。

私は恨めしくレンをチラっと見て、仕方なくカイトさんと踊り始めた。