何も知らないカイトが目覚め、一月は経っただろうか。
街はクリスマスに浮かれ初め、ボーカロイドたる初音ミクはそれらを盛り上げるためキャンペーンソングを歌ったりとイベントに出ずっぱりだった。
元々、仕事は大なり小なり全力でこなす元気な少女ではあったが、最近は特にその笑顔に磨きがかかっているような気がして、同じ現場に居合わせた巡音ルカは休憩時間に声をかけた。
「随分と張り切っているようだけど、良いことでもあった?」
「ルカさん聞いてないんですか? カイト兄さんが目覚めたって!」
基本的には同じマスターの元で生活している彼女たちも、各々の仕事が忙しければホテル住まいになってしまうこともある。
特にルカはバイリンガルという特性を持って生まれたためか、近隣諸国のオファーも多く家にはあまり戻ってこない。そんな忙しい彼女へビッグニュースだと言わんばかりに拳を握りしめて話すミクに、ルカは苦笑しながら相づちを打った。
「そう、パーツが手に入らないと聞いていたから心配したけれど……良かったわ」
「喜んでばかりもいられないんですけどね。パーツは代用のままだし……」
ポツリと漏らしながら携帯電話の画面をスライドすると、カイトと一緒におやつを食べている元気な鏡音リンの姿。まるで昔の写真を見ているかのようなのに、ボタンを掛け違えてしまったかのような違和感。
「……? なんだか、らしくない顔をしてるわね」
やはりこれは気のせいではなく、身近で過ごしたことのある者なら感じ取ってしまうらしい。
ミクは視線を落としたまま、二人に起ったことを話し始めた。
家では、相変わらずマスターの留守を預かる神威がくぽが依頼の事務作業を、そしてメイコが家事をこなしていく。
そんな片隅で声の出ないリンと戯れるように歌いあげるカイトは、自分を家族の一員として迎えてくれて嬉しいと笑い、台所から洗いかけの鍋が飛んでくるわリビングは神威の吹き出したコーヒーまみれになるわで散々だ。
「あんたねぇ……確かに、あたしたちは家族よ? でも、あんたの言った意味合いは絶対違うでしょ!」
「え? 家族であって、家族じゃない……?」
クリーンヒットして泡だらけになった前髪をかき上げながら、カイトは言われたことを反復してみる。
インプットされている単語とここ最近見ていたテレビなどに映し出されるドラマの光景、それから買い出しの手伝いなどで見かけた微笑ましい人たちと彼らの何が違うというのか。
リンがタオルを取りにリビングから出て行ったのを見計らい、メイコは台ふきを神威に投げつけてエプロンで手を拭きながらカイトの元へ歩み寄った。
「再起動って聞いてたけど、本当に初期化されちゃったのね。マスターのことも知らないみたいだし」
「え、マスターは彼女じゃ」
「そんなわけないでしょ。ボーカロイドのマスターがボーカロイドだなんて聞いたことも無いわ」
言われた意味が分からなくて、カイトは助けを求めるように神威を見る。
しかし彼は懸命に飛び散ったコーヒーを拭くだけで、視線を上げようともしない。
「あたしも神威もそしてリンも、今は出払っているみんなも全員ボーカロイド。あたしたちのマスターは曲作りのイメージのためだとかで出かけていることのほうが多いわ」
「ま、待ってくださいよ。だってマスター……彼女は、声が出ないんですよ。ボーカロイドなわけないじゃないですか」
何も知らされず、人間と深く交流をもっていないカイトにとって、アンドロイドであるかも見分けはついてなかったかも知れない。動作が安定してきた今、全てを知っても混乱はしないだろうと、メイコは少しだけ動揺しているカイトを見据えたまま続ける。
「あの子の大事なパーツはあなたが持っているわ、壊れたあなたを助けるために」
「それって……僕が、彼女の声を奪ったってことですか」
タイミング悪く戻ってきてしまったリンが、悲痛な顔で佇むカイトを見る。ドアの音に気づいてゆっくりと横を向いたカイトは、ドアノブを掴んだまま呆然とするリンを見て、くしゃくしゃに顔を歪めた。
「君は、マスターじゃないなら……僕のなんだったんですか?」
思い出したいのに思い出せない。今までも気を遣ってくれていたのかと思うと申し訳なさ過ぎて、助けたというリンに全てを話して欲しかった。
けれど、リンはカイトの足下に置いたままのメモ帳には目もくれず、彼を守るようにしてメイコの前に立ちはだかった。
「リン……」
文字を書くことでしか言葉を伝えられない彼女でも、この態度を見れば言いたいことはわかる。
――カイトには何も言わないで。
それは暗にメイコの言っていることを肯定しているようで、カイトはかける言葉が見つからずリンを抱きしめた。
そこまでして助けたいと思ってくれた理由はわからないけれど、今の自分にとってはマスターであろうとなかろうと大切な人には変わりない。
時が来れば全てを知ることが出来るだろうかとかすかな望みを抱いて、カイトはリンへの接し方を考えていこうと思うのだった。
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