あれから何日経ったんだろう…?
私が彼の元へ戻ろうとすると思っているのか外出しようとすればお姉ちゃんかルカちゃんが必ず付いてきていつしか外に出る気も失せてしまった。
小さい頃からずっと一緒の大切な人達なのに初めて煩わしい…思ってしまった自分に驚く。
私、どうしちゃったの…?

【小説】堕ちた天使と悪魔の囁き5

あの日から最後に聞いた彼の言葉だけがグルグルと頭の中で反響している。

『大好きだよ』

『相変わらず綺麗な翼。真っ白で裏表無いキミみたいだ』

『キミって目を離すとすっごい不安なんだけど…とりあえず目が届く辺りに居てくれないかな』

呆れたように微笑ってもいつだって優しく包み込んでくれていた私の優しい優しい悪魔。
それなのに

『俺の事好きだなんて言うから付き合ってあげてたけどさ、やっぱり天使ってお堅いしツマんないよ』

遊びだったって…飽きたんだって言われた。

「レン君…」

名前を呼べばいつだって幸せになれたのに今はじわりと涙が滲む。
“天使はお堅い”
それは彼の口癖のようなものでそれでもいつも私だけは見てて飽きないくらいに面白いだなんて続いてたのに。
…本当は違ってた?
振り返り見つめる先には窓ガラス。
そこに映るのは彼が好きだと言ってくれた真っ白い自分。
それが嘘だというなら

「こんな翼いらない…私が天使じゃなかったら…貴方と同じ悪魔だったなら…」

無意識につぶやいた言葉。
それで思い出した。

『ミクちゃん、気をつけなよ?俺たちの関係がバレたら必ず引き離される。天使と悪魔が交じり合うこと。それは最大の…禁忌だ』

私も禁忌だと言われる意味くらいは知ってる。
悪魔に堕ちた天使の末路。
真っ白な翼もその心もすべて黒に染められる。
自分の種族のことだもの。
それくらいは…知ってる。
ならレン君は…?
最初に彼の様子がおかしいと思ったあの日…その二日後も彼がちらりと視線を投げていたのは私の翼。
いつも綺麗だねなんて言って見ていたから何とも思わなくなっていたけど今から思えばその表情はいつもと違っていた気がする。
眉を寄せ何か思うところがあるようで…。
そしてルカちゃんが現れる直前、どうして忘れちゃってた?

『…バカだろ…俺は…』

苦しそうな声音に驚いて見上げると一瞬迷子の子供のような瞳が見えて…。
あの時の彼は何を思っていたんだろう?
そして私は…?

“それじゃ嫌、足りない…もっとぎゅっと抱きしめていてほしいの”

「私…?」

じわりと溢れ出すのは恐らく本来天使が持つはずのない感情。
もう一度ガラスに映った翼に目を落とすが、白い。
だけど怖い…。
気づいた途端、彼を求めるこの気持ちが止められなくなる。

「会いたい…声が聞きたい。…もう一度あたたかくて優しい貴方に、触れたい」

貴方が私を嫌いでも…!
私が外に出る様子も無かったからかお姉ちゃんたちの監視も解けているらしい。

「…ごめんなさい」

もう会えないかもしれない。
それでも私はあの人を選んでしまったんです。
溢れてきた涙を拭い窓から外へと飛び立つ。
彼と居たあの場所を目指して…。


──真っ白な翼、穢れない心…それが天使の証。
主に仕えぬるま湯に浸かるような緩やかな生。
それが正しくて幸せな生き方なのだと信じていた。
けれど私は知ってしまった。
貴方と笑い合うこと、抱きしめ合うことその意味と幸せを。
私は堕ちた天使と呼ばれても貴方と、生きていきたい…。

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【小説】堕ちた天使と悪魔の囁き4

閲覧数:441

投稿日:2011/03/23 20:40:26

文字数:1,445文字

カテゴリ:小説

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