「お前は恋をしてはいけない」
物心つく頃から、父に言われはじめた。
ずっと、ずっと思ってた。
なんで私、恋ができないのって。
だけど知った。
恋をして。
人は人を裏切るんだって。
ひとり残された私は、人を恨みはじめた。
恋なんてしなきゃよかったって思った。
(お父様、ごめんなさい)
(お母様、ごめんなさい)
恋をしてごめんなさい。
裏切って……。
だけど、ほんとうに恋をしてはいけなかった意味を、
それから20年後に知る。
私は老いなかったのだ。
だけど、あの日好きになった人は、私より2歳幼かったあの人は、あっという間に大人になった。
私は思う。
(私を裏切った罰よ)
だけど、虚しかった。
そんな自分が嫌だった。
そもそも私が恋をしたからいけないのに。
(駄目ね)
(私、駄目ね)
壊れてしまいたかった。
壊してほしかった。
醜い私を、愛せる人などいないと思ったから。
だから、君に、
「好きです」って言われたとき、
信じられなかった。
私、誰とも恋しちゃいけない。
新しい恋などしない方がいい。
でも、君は伝え続けてくれた。
「まだ僕は幼くて、まだ大人になれなくて、あなたに何もできないけど……でも」
「私……」
「この思いを一生、あなたに捧げます」
幼かった君は、大人になった。
そして、銀のリングを私にくれた。
「僕がもし、いなくなる日が来ても、あなたがそれを大事にしてくれたなら、そのリングだけは老いないから」
ほんとは受け取るつもりなんかなかった。
でも、君が私に、病を打ち明けたその日、私はそれを受け取った。
「君は無欲なのね」
「……違うよ。愛してほしいんです」
だから、
「僕は有害です」
君がいなくなった朝、私思ったの。
勇気を出して言えばよかった。
(私も好きよ)
(君が大好きよ……)
今までも、これからも、
私を裏切らないものがある。
それは、君がくれた優しさなんだと、今は思うの。
今私の薬指には銀のリングがはめられている。
そして、銀のリングの内側には、自分を愛して、そう書かれてあった。
end
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