『―――――あたしを舐めないでよね』


ネルの突然の“平手打ち”が決まる。


『昔と違って、ただの改造バカじゃないのよ!!』


拳―――――と見せかけた予想外の“肘”が俺を吹っ飛ばす。





……でも、特に理由がないわけではないですよ。





話は十分前にさかのぼる。


「ちょっと暇だから出かけてくるよ!」

「おー、早く帰って来いよ」


しるるさんの話を聞いた翌日の昼。突然どっぐちゃんが立ち上がり、時空移転用PCに飛び込んでいった。

待つこと3分。


「お待たせー!」

「おう、おかえ……………るぃっ!!!!?」


振り返った俺は―――――戦慄した。





どっぐちゃんが手をひっつかんで連れてきたのは―――――ネル……!

そして時空転移PCの真正面には―――――しるるさんからもらった冷蔵庫とラジオ。



つまり―――――ネルの目線は、ゴミ同然の壊れ方をしている冷蔵庫とラジオにくぎ付けなのだ……!!



「へぇ~~~……!! 面白いもの置いてあるじゃなーい!」


目をキラキラさせながら冷蔵庫に近づくネル。

あの眼は……まずい!!


「ネル!!ちょ、待てっ!!」

「ん?」


俺の叫びに手を止めて、ネルがこちらを振り向く。

咄嗟の事に思わずきつい叫び方をしちまったが、よかった、怒ってる風はない。


「なーにー!?Turndog、あたしの楽しみ邪魔するつもりー!?」


あ、やっぱり怒ってらっしゃった。

でも楽しみってことは……こいつ!


「か、改造はさせないからな!!」

「へっ? 改造?」

「ああ! そいつはあくまでもう一度使えるようにしてもらわねーと困るんだ! 改造はさせないぞ! やるなら修理にしてくれよ、あんまり楽しくねーかもしんないけどさ!!」


とりあえず言いたいこと言ってみたが……どうだ?

しばらく突っ立ったままのネル。しかしすっと俺に歩み寄ってきて―――――





《―――――パンっ!!》





「……あ……?」


突然の平手打ち。予想だにしなかった衝撃に、思わずイスから転げ落ちる。

目の前には―――――小さな苛立ちを目に宿したネルの姿が。


「……あたしを舐めないでよね」


力を込めた拳が振り上げられる。咄嗟に防御態勢をとった俺だが―――――



―――――そこから飛んできたのは予想外の『肘』。硬い一撃を脳天に食らい、床に叩き付けられる。


「昔と違って、今のあたしはただの改造バカじゃないのよ!!」

「ね……ネル……?」


地面に倒れ伏せた俺の頭をつかんで、そのまま持ち上げる。

いててててて。腕力強い……!!


「そりゃね。あたしは改造のほうが好きっちゃ好きよ。できることなら修理やんないで改造ばっかやってたいぐらいよ!! でもね? それ以上に今大好きなのは、お客さんの喜ぶ顔を見ることなの!! ありがとうって言ってくれるのが何よりうれしいの、今は!! 今だって、こいつを修理したらTurndogが喜んでくれるかなって思ったのに、何なのよさっきの言い草は!! いつまでもあたしが、昔と同じままだと思ってんじゃ……ないわよっ!!」


そのまま再び床に叩き付けられた。



―――――ああ、昨日のしるるさんの言葉がフラッシュバックする。



『お店をやる人が、特にお客さんと直接触れ合う機会の多い人が求めるものは、お客さんの感謝の笑顔なんです』



感性変人の改造バカだったネルが、いつの間にか、お客さんのことを真っ先に考える優しい娘になっていた。

こんなにも大きな進化を遂げていたのに、俺はその進化を見てやれていなかった。


俺が作った―――――『娘』なのに―――――!



気づけば、涙があふれていた。

悔しかった。苦しかった。何も考えてやれない自分が、どうしようもなく悔しかった。


「ごめ……ネルっ……俺……うああ……!!」

「……Turndog」


いきなり、ネルにやさしく抱きしめられた。さっきまでの暴力がまるで嘘のように、優しく。


「……あたしが間違いを犯して、今のあたしになれたように。あんたも、間違いを犯して大きくなれると思う。今は誰の気持ちもわかってあげられなくても、必ずいつか、みんなのことをわかってあげられる人になれると思うから……」

「う……ああああああああああ……!!」


涙が抑えきれない。ちょっとみっともないかな。そう思いながらも、俺はしばらくネルの胸で泣き続けていた。





「さて、と。とりあえずこいつらを修理すればいいのね?」

「ああ、頼むよ」


若干鼻声状態で、ネルの問いに答える。

おもむろに道具箱を取り出し、中身を広げた新聞紙の上に広げる。

螺子や釘を抜いても明らかに500種以上の工具がある。その道具箱四次元ポケットでもついてんのかい?


「しかしひどいわねーこりゃ。ラジオもひどいけど、特に冷蔵庫! あちこちにひびが入ってる上に棚もボロボロ、おまけにファンと冷却器が砕け散ってると来た。これもしかしたら、何か外的ダメージがあったかもねー……あ、血の手形発見」

『何発見してんの!!!?』


あ、どっぐちゃんとハモっちゃった。


「冗談よ、ペンキの手形よ。……でも形そのものは全く崩れてないから、これなら10分あればなんとかなるかしら? よーし、二人とも3メートルぐらい離れてて! 螺子が吹っ飛んでいくかもしんないから!!」

「いやあの、中央に陣取られるとこの部屋そんなに離れらんないだけど……」

「狭い!! ……じゃあ仕方ないなぁ。ちょっと外出てて?」


ということで。

俺とどっぐちゃんは外に放り出された。あの、俺部屋主なんだけど……。


数秒後。ギィン!!という鋭い音と共に、凄まじい金属音が響き始めた。

まるで真剣どうしがつばぜり合いをしているかのような音に、俺たちが圧倒されていると。


「あれ?何してるんですか?」

「あ……しるるさん!」


大きな袋を持って、しるるさんが階下から上がってきた。


「今ネルが来てましてね、冷蔵庫修理してもらってるんですよ」

「あ! やっと決心がついたんだ! ふっふっふっふ、よく泣いてましたものねぇ(笑)」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


階下まで聞こえてたんかっ!!? つまりこれお隣にも聞こえてるよね!? ちょ、お隣俺の記憶が正しければ間違いなく三つか四つぐらい年下のはずなんだけどめっちゃはずい!!


「ぷくくくくくくくくくくくっ………ざまぁみさらせあははははh」

「どっぐちゃんっ!!笑ってんじゃねえ!!」

「ぎゃい-ん!!耳引っ張るなぁ!!」

『ターンドッグさーん家賃百b』

『どっぐちゃんあとで好物の鰹節買ってあげるね☆(裏声)』

「いたたた……またまたざまぁ(笑)」


そんな会話をしていると、いつの間にか金属音がやんでいた。


「ターンドッグさん、これを機に少しはあの子たちのこと、信用してあげてくださいね。はい、家賃と引き替えのカーテンとうちわです」

「あ、ありがとうございます」

「本当は天井代と授業代のカタに没収しようと思ったんですけど☆」


部屋に入る瞬間に楽しそうな声で言われたもんだから、思わず柱の角に眉間をぶつけた。いてぇ。





部屋に入った俺たちの目に飛び込んできたのは、新品同然の輝きを放つ冷蔵庫だった。


『…………っっ!!!!』


全体的に真っ黒で、あちこち壊れていたあの粗大ゴミが、ここまで見事な冷蔵庫に変身するとは。

わかってはいたけど、やっぱりこいつは天才だ。


「ファンと冷却器が全交換になったのが少し危なかったけど、たまたま部品があって助かったわ。これでコンセント挿せば、ちゃんと動くはずよ」


試しに挿してみると―――――


一瞬ブルン、と大きく震えたが、静かな駆動音を立ててファンが回り出し、冷たい空気が流れ出てきた。


「おおおお……すっげぇ……あの粗大ゴミが普通の冷蔵庫になった……!! ……疑ってごめんな、ネル。そして……ありがと」


するとネルは目を丸くして―――――少しそっぽを向いて、小さくつぶやいた。


「……別に、これがあたしのやりたいことだもん」


そしてパン! と顔を叩いて、俺の顔を覗き込んできた―――――んだろうけど、勢い余ったのか元からそのつもりだったのかネルの頭が俺の脳天に高速でヒット。ネルさん痛いです。


「さて!! いつもならここでお代をとるところだけど……!! その代りに面白そうな情報をどっぐちゃんから聞いたからね。それについて教えてもらおーじゃないの!!」

「へっ?」

「とぼけんじゃないわよ!! 『改造専門店 ネルネル・ネルネ出張版』ですってね……サイッコーに面白いじゃないの!?」

「どっぐちゃんどっからその情報を手に入れた!?」

「ネットの回線に侵入して会話を拾った!!」

「こわっ!!」


なんて奴だ。恐ろしい……


『改造専門店 ネルネル・ネルネ出張版』とは、主に俺としるるさんで進めている極秘()企画の事だ。ネルにいくつかの家具や小物を渡して、自在に改造してもらおうという企画の事だが、まだ詳細すらもぼんやり決まっている程度なのにもうネルに話されてしまうとは。


「つったってさ……ユリの花や団扇から作れるもんなんて、いくらなんぼお前でも限られてんだろ?」

「そーでもないよ? 核融合や核分裂を利用して原子を作りかえればなんとでもなるし♪」

「何この子怖い!!」


ホント全く持って、なんて奴だよ。





ヴォカロ町の天才修理師はこうして、かなりあ荘にとってなくてはならない存在になっていくのだが、それはまた別のお話……。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町!Part2-3~ネルとTurndog~

結論:ネルちゃんはいい子で最恐。
こんにちはTurndogです。

改造バカのネルちゃんも商売人になってました。
ヒトもボカロも成長しますねw
その割には胸はあまり成長し《どぐしゃあ

そして核融合と核分裂を自分の手で起こせるネルちゃんマジ最恐。
多分そこで得たエネルギーで改造を行ってるんですねわかります。

閲覧数:244

投稿日:2013/06/23 12:01:45

文字数:4,076文字

カテゴリ:小説

  • コメント5

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  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    特に理由のある暴力が、ターンドッグさんを襲う……!
    それ絶対アレですよね。某巨人漫画のネタですよねwww

    それにしてもかくゆーごーとかを自分の手で起こせるなんて、ネルちゃん凄いですねー
    あんまよく意味はわからないけど(ぇ

    2013/06/28 19:59:20

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      そうですね、芋女と兄貴ですねwww
      サシャかわいいよサシャ。

      ネルちゃんは基本何でもできるのではないかなーとw

      2013/06/28 20:51:23

  • レント@澪堵

    レント@澪堵

    ご意見・ご感想

    相変らず、いい作品…。

    結論www最恐なんですかwww


    ブクマに登録させてもらいますね

    2013/06/24 19:01:19

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      いい作品と書いて駄作と読むんですねわかりまs(ry

      最恐ですw
      だって素手で核融合と核分裂を起こせるんだぜ?w

      ブクマありがとです!!

      2013/06/25 00:19:23

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    コメントのお返し

    つまり下手に食らうと死ぬということですねわかりまs(なんでお前生きてんだ

    2013/06/23 22:41:28

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    あれ、なんか隣からどっぐちゃんの声が((
    ターンドッグさん泣いてるな…確か、私より3、4歳上だったはずだけど…
    おもしろいから前ネルちゃんがくれた【ちょっと古いICレコーダー(0ポイント)】で録音しちゃえ←

    (てくてくバンッ)ちょっとお隣さん、金属音が原因で勉強できないんですけど((勉強しろ
    え?ネルちゃん?じゃあ仕方ないからターンドッグさんの玄関のドアの隙間に置手紙を挟んどきますね。

    2013/06/23 15:08:44

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
      どっぐちゃん!!誘惑してぶんどってこ―――――い!!報酬は好物の鰹節3本分だっ!!

      あああああすんませんちょっとネルちゃんと一緒にヴォカロ町まで行ってきますっ!

      【その後Turndogの姿を見た者はいなかった―――――】(死亡フラグなのかそれ

      2013/06/23 21:11:29

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