Moderato
7-1.
雨でずぶ濡れになった身体をシャワーで暖めて、私は海斗さんに貸してもらったジャージに腕を通す。
そのジャージは、海斗さんのものなんだから当たり前なんだけど、かなり大きかった。
裾と袖を何回も折り曲げて、私のサイズに合わせてみたけど、全体的にぶかぶかなのと、シャツの丈が太ももあたりまであるのはどうしようもなかった。
一人暮らしの海斗さんの部屋は思った通り、というか慌てて出て来たわりには予想以上に綺麗だった。
全体的にモノトーンで統一された内装はシンプルで、あまり物を置かないようにしているみたいだった。パイプベッドに、小ぢんまりした一人掛けのソファ。それから小さなテーブルに、一つだけある棚には数冊の本とCDが並んでいる。部屋の隅には小さなテレビが置いてあったけれど、あんまり使っていないように見えた。
「あの……海斗さん?」
少し恥ずかしくて、洗面所からちょこんと顔だけ出して、海斗さんの顔色をうかがう。
海斗さんはソファに座って本を読んでいた。私に呼ばれて顔を上げる。
「未来、どうしたの?」
「それは、その……」
顔が熱くなる。どうしたのって、だって、恥ずかしいんだもん。
今さらっていったら今さらなんだけど、海斗さんの家に泊まるんだって思うと緊張する。家を飛び出してきたときは、その後のことなんてなんにも考えてなかった。正直な話、海斗さんのところに泊まることになるなんて思ってもいなかったから、心の準備なんて全然できてなかった。
「未来。ほら、そんなとこにいないでこっちにおいでよ」
本をテーブルに置いて手招きする海斗さんの方へ、恐る恐る近付く。
「座って」
「え? でも……きゃっ!」
座るって、どこに?
海斗さんは私に有無を言わせず、手を伸ばして抱き締めるように引き寄せると、私を座らせた。海斗さんの、両足の間に。
「か、かい……と、さん」
慌てふためく私に、海斗さんは意地悪そうに「イヤだった?」と聞いてくる。
「わ、わかってるクセに……イジワル」
「はは、ごめん」
「あ、んん……」
海斗さんに抱き締められたまま、突然唇をふさがれて、思わず目を閉じる。
恥ずかしい。
けど、恥ずかしいけど、幸せ。
でもやっぱり、恥ずかしい。
頭の中がいっぱいいっぱいで、キスの感触なんてわかんない。
「海斗さん……」
唇を離し、うっとりとした声でそう言うと、私は身をよじって海斗さんの胸に顔をうずめる。そして両腕を伸ばして、その身体を抱き締める。
「海斗さん……」
涙が海斗さんの服を濡らした。これ以上濡らしちゃダメだと思って目を閉じるけど、涙は止まってなんかくれなかった。
「未来……」
優しい声で、海斗さんが囁く。その、私よりも一回り大きな手が頭をなでて、私の長い髪を梳いた。
「明日は、買い物に行かなきゃね」
「買い物……ですか?」
急な提案に、私は戸惑って聞き返すと、海斗さんは笑いながらうなずいた。
「これからずっと、制服と俺のジャージだけで過ごすつもり?」
「あ、それは……でも私、お金なんて……」
「お金のことなら大丈夫だよ。俺、結構貯めてるからね」
「そんな、ダメですよ! 私は……私はここにいられるだけで十分――」
「――こら」
私の髪を梳いていた手が、私をポンとたたく。
「そんなこと言ってると、怒るよ?」
「ええっ?」
そんな、理不尽だ。
含み笑いをしてる海斗さんを見上げて、私はなんと言えばいいかわからなくなった。
――わがままだって言わなきゃ。
愛の言葉が、私の中で反響する。
「そうだね。じゃあ言い方を変えよう」
考えるように上を向いてから、海斗さんは私の耳に唇を寄せた。海斗さんの吐息が耳をくすぐる。
「デートしようって言ってるの」
「――!」
「これでも、未来はイヤだなんて言うのかな?」
そんなこと、言えるわけがない。でもやっぱり、お金を出させるのは申し訳なくて……。
「……イジワル」
「それは、OKってことでいいんだよね?」
また海斗さんの胸に身を預けて、コクリとうなずく。
「よかった。それじゃ、今日は寝ようか?」
「……うん」
海斗さんにしがみつくように抱き付いたまま、私はまたうなずく。
「わかってると思うけど、一人用のベッドしかないから、未来一人で占領しないでね」
「そんなことしません!」
笑いながらちょっとだけ怒ったふりをして、海斗さんの身体をたたく。
「じゃ、一緒に寝ていい?」
「~っ……」
海斗さんって、結構イジワルだ。恥ずかしくて、そんなこと言えるわけがない。
「……そんなこと、聞かないで、下さい」
「ごめんごめん。未来がかわいかったからさ」
「海斗さんっ!」
私は身体を離して立ち上がると、顔を真っ赤にして叫んだ。
でも、海斗さんはそんな私の態度も気にせず、立ち上がってまた私を抱き締める。
「あ、んっ……」
「未来。頑張ったね。お疲れ様」
それから、もう一度私達はキスをした。私は海斗さんにうながされるまま、抱き合って寝て、もう一度泣いた。
私は心の底から、海斗さんが隣りにいてくれてよかったと思った。
ロミオとシンデレラ 34 ※2次創作
第三十四話。
幸せな話を書くことに、あまり慣れていません。
ハッピーエンドなんて、そんな都合のいいことなんてあり得ないんだから、とも思います。
けれど、この二人に幸せになってもらうためには、自分がちょっと無理をしてでも書けない話を書かなきゃなぁ、と思います。
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