むかしむかしあるところにとある王国がありました。小さな国ではありましたが、自然がゆたかで、人々はみんなやさしい、あたたかい国でした。それというのも、この国のお姫さま、フロア姫の魔法の力によるものでした。



 フロア姫は人々のこころをあたためる魔法をつかうことができました。国の人々は魔法のおかげで、つらいことがあっても、かなしいことがあっても、すぐにえがおになることができるのでした。人々はそんなフロア姫のことがだいすきでした。



 ところがある日、とつぜんとなりの国の魔女がやってきて、フロア姫をさらってしまったのです。だいすきなフロア姫がいなくなり、人々はみんなかなしみました。しかし、かなしいこころをいやしてくれるフロア姫の魔法はもうありませんでした。



 かなしいこころをもった人々はやさしいこころをうしないました。やさしいこころがない人はほかの人につめたくあたってしまいます。つめたくされた人はますますかなしくなりました。そしてついに、ほかの人とはなしをすることすらいやがるようになりました。



 そんななか、ひとりだけやさしいこころをもっているものがいました。シンクという国のなかの村にすむ少年でした。シンクは人一倍ゆうきがあって、人一倍やさしい少年だったのです。シンクはフロア姫をたすけるため、魔女のおやしきにいきました。



 シンクはおやしきにつくとドアをゆっくりノックしました。するとドアがひらき、魔女がでてきました。

「いらっしゃい。」

魔女はシンクをえがおでむかえいれてくれました。



魔女はキッチンで二人ぶんのお茶をいれながら、シンクにたずねました。

「それで、なんのようだい?」

「おひめさまをかえしてください。」

シンクは魔女におねがいしました。

「みんながかなしんでいるんです。」



 「かえせといわれて、すなおにかえすとおもうのかい?」

「おもいます。だっておばあちゃんはわるいひとじゃあないもの。」

魔女はおどろきました。

「どうしてそうおもうんだい?」



 「だって、おばあちゃんのえがおはやさしい人のえがおだったもの。おばあちゃん、ほんとはやさしい人なんでしょう?いじわるしないでおひめさまをかえしてよ。」

シンクはそう言って、魔女がいれてくれたお茶をまよわずのみました。



 「ふふ…。」

魔女はおもわずわらいました。たしかに、魔女はやさしいこころをもっていたのです。

「わかった。こっちにおいで。姫さんにあわせてあげよう。」

魔女はシンクをおくのへやにあんないしました。



 そのへやでフロア姫はいすにすわっていました。

「おひめさま。たすけにきましたよ。さぁ、かえりましょう。」

しかし、どんなにこえをかけてもフロア姫は答えません。フロア姫はこおっていたのです。



 「おばあちゃん、おひめさまをもとにもどしてよ。」

「それは…わしにはできん。これは姫さんののぞんだことだからのう。」

魔女はシンクにおしえてくれました。それはフロア姫がさらわれるまえのことでした。



 そうだんしたいことがある―――そう言ってフロア姫がひとりで魔女のようかんをおとずれてきました。

「わたしは、こわいのです。いま、国の人々はやさしいこころをもっていますでもこれは魔法の力によるものです。」



 「もしもわたしが魔法をつかえなかったら、みんなのこころはいやされず…きずついたままになるんじゃないかって、そう思うんです。」

フロア姫はつづけます。

「あなたもそうなんでしょう?わたしきづいたんです。この力はだんだんよわくなるって。」 



 魔女はなにも言えませんでした。たしかにフロア姫の魔法はだんだんよわくなる、そのことはだれよりも魔女がいちばんしっていることでした。やさしいこころをもちつづけるのはとてもむずかしいことなのです。

「それで、どうしてほしいんだい?」





 フロア姫はのぞみました。

「わたしのこころをなくしてください。ずっときずつかないように。」

そこで魔女はフロア姫のかんがえたように、かのじょをさらうように城からつれだし、こおりづけにしたのでした。



 魔女はシンクにかたります。

「姫さんはだれよりも人のこころにふれてきたからのう。だれよりもかなしいこころ、きずついたこころのこわさをしっておったんじゃろう。そのきょうふにたえられなかったんだと、そう思う。」



 シンクはおどろきました。いつもえがおのフロア姫がそんなことをおもっていたなんておもいもしないことでした。

「でも………。」

シンクはちからづよく言いました。

「ぼくはおひめさまにまたあいたいです。」



 魔女はシンクの目を見てゆっくりとうなずくと、こびんをくれました。

「このこびんには人のこころのかけらをいれることができる。まずはここに姫さんをたすけたいという愛をいれておいで。はなしはそこからさね。」



 シンクは村にもどると、まずはおかあさんにこころをわけてくれるようおねがいしてみました。しかし、こころがつめたくなってしまったおかあさんははなしをきいてくれません。こまったシンクはあることをおもいつきました。





 シンクはこびんにむかってたすけたいというこころをこめました。するとこびんにあかいもやもやがたまります。シンクはそのもやもやをゆっくりとおかあさんにかけました。するともやもやはおかあさんにすいこまれるようにきえてしまいました。



 「あらシンク。どうかしたの?」

シンクはおかあさんの目が声が、いぜんのやさしかったおかあさんにもどったことがわかりました。フロア姫のことをはなすと、おかあさんはこころをわけてくれました。

「姫さまをかならずたすけておいで。」



 そのご、シンクは国中をまわりこころをわけてもらいました。みんなにじぶんのこころをわけてはなしをきいてもらうと、みんなよろこんであいをわけてくれました。たとえ魔法の力がなくたって、みんなはフロア姫のことがだいすきだったのです。



 しかし、人々にこころをわけるたびに、シンクのこころはよわっていきました。やさしさ、ゆうき、あたたかさ。どんどんきえていきます。とうとうこびんいっぱいにこころをため、魔女のところにもどるころにはシンクのこころはからっぽになってしまいました。



 魔女はそんなシンクを見ていいました。

「姫さんをたすけるには、あんたの姫さんをたいせつにおもうこころもひつようなんだ。しっかりしな。」

しかしシンクはへんじをしません。こころをうしなったシンクもこおってしまったのです。





 魔女はかなしそうにシンクにゆっくりと魔法をかけました。するとシンクはにんぎょうになってしまったのです。魔女はにんぎょうシンクのむねにこびんをとりつけると、もうひとつ魔法をかけます。するとにんぎょうシンクはゆっくりとうたをうたいだしました。



 シンクがあつめてきたこころでとりもどすことができるのはひとりぶんのこころだけだろうと魔女はおもっていました。それでもふたりともたすけてあげたい。そうでなければシンクのおもいがむくわれない。魔女はそうかんがえたのでした。



 こびんにつまったみんなのあたたかいこころがへやじゅうにゆっくりとみちていくのをみながら、魔女はそっとへやのとびらをしめました。それからというもの魔女のようかんから、いつまでもいつまでもうたごえがきこえたといいます。

ライセンス

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白の季節 (〇:作)

12月分の「白の季節」です。
今月はサークルメンバー4人で一つの曲をモチーフに小説を書くので、これが一人目。
書いた人:〇

閲覧数:178

投稿日:2011/12/22 23:43:23

文字数:3,162文字

カテゴリ:小説

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