「寒いですわ…やはり家出なんてするべきではなかったのかもしれないわ」
いけない。この喋りかた、直さなくては…

それに出てきて正解ですわ。家にいればあの丸々太った気持ちの悪いあの方と結婚しなければなりませんもの。
リリアンヌ…あなたには悪いわね。でも私は行くわ。もう帰らない。

そんな少女の行く手を阻むように雪が降り続く。


都から少し離れたこの地域は今や犯罪が絶えない貧困街だ。
僕の名はリシャール。父親は知らない。母親は落ちぶれた舞台役者だった。
貧困でこの町に来て体を売って生きてきた。その時の客の誰かが僕のお父さんだ。知りたいとも思わないけど。
それにしても寒い。この地域は盆地で雨や雪があまり降らない。それなのに今日は今までにないほど積もっている。
今は夜でそんなに見えないけど、きっと潰れかけてる家も多いだろう。
こんな明かりもないのに何で町を歩いているかって?
生きるために、どうしようもないこと。この街のルール。
簡単に言うところの略奪だ。
こんなことをするか、この雪の中飢えて死ぬかどっちかしか選択肢はない。
なんでこうなったんだろうか、何をしているのかこの国は。
「うわっ!」何かにつまずいた。…人?
長い金髪この辺の子ではないな…都に向かいたかったのだろうか?この街まで来て残念だ。
「う、うう」まだ生きてる?
暗闇の中で目があった。吸い込まれそうなほど真っ青な大きい目。
「…そなた…いえ。君は…?」何を言いかけたんだ?僕の名前か?
「僕はリシャール。君は?」同い年くらいだろうか?
「…レナ」そう言うとぐったりしてしまった。

「ここは?」レナが目を覚ました。
「僕の家…」家といっても風は抜けるし雨漏りはするしと家と呼べる物ではないかもしれない。
「礼をい…じゃなくてありがとうございます…」昨日もだったけど何を言いかけているんだ?まあいいや。
「ごめんね。こんな家で。もっといい家に拾われていればもっと快適だったと思うけど」この街でそれを期待するのも場違いか。
「とんでもない。ここ、結構好きですよ?いままでいたところとは違って。」いままでいたところ?
「いままでって?」
「いえっ!気にしないでください。忘れてください」さっきから思うけど
「敬語、やめてくれない?この街で敬語使う人なんて見たことないし」本当にどこから来たんだろう?
「あ、はい。…うん」…難しそうだ。
珍しく静かだ。何かあるのだろうか?僕が目覚めたのは昼近くだろうか?目覚めた時、レナの顔が目の前にあってびっくりしたんだ。朝に何があったか知らない。けどだいたい予想がつく。
「下向け!乞食を見ろ!」「下向け!恵んでくれ!」
聞こえてきた。どこかの貴族がここを通っているのであろう。そうしても無駄なのに。
「誰が導くか?だれがこの国を!」
まだやってる。体力使うだけなのに…。
「それは英雄 レオンハルト彼は味方だ」
レオンハルト。この国の三英雄と呼ばれるうちの一人。庶民派で王女と対立している。
「みなさんは何をやってるの?」レナ、知らないのか
「みんな貧しくて貴族が通るたびにこうするんだよ」レナはひどく驚いた。
「そんな…」

馬車が僕の家の前に来た時車輪がぬかるんだ溝にはまってしまった、やる事もないし二人で窓から見ていた時の事だった。
すると中からかなり太ってて香水の混じり合ったまるで「不協和音の香り」の臭い香水の匂いが流れてきた。
「誰かいるのか?」気付かれた。
「あ、はい」しぶしぶ外に出る。
「手伝ってくれないか?40スー出そう」40スーだって?
とは言ったものの進まない。
「もう一人いるようだが?」穴だらけの家だ、見られても仕方ない。
「一人40スー出す。二人なら80スーだ。私は急いでおる。」都の街で普通に食事しても2ヶ月分になる。この街ならかなり持つだろう。
でも、レナは出てこようとしない。
「1人50スーで100スーだ」意外にケチなのか?レナって。
「…」
しぶしぶ出てきた。
「ロアーヌか?」誰だそれ?
「!?、人ちがいです。」なんか様子がおかしい?
「ロアーヌって誰なんですか?」 愚問だろうか?
「そんなことも知らないのか。」笑われた。
「はい、すみません」
「庶民と話すのは気がひけるが話してやろう」
「この国の王女は知っているな?リリアンヌ=ルシフェン=ドートゥリシュ様だ。」フルネーム知らなかった。
「そしてその従妹に当たるのがロアーヌだということだ。」王女の従妹?豪華な生活を送っているのであろう。
「私はそのロアーヌのフィアンセ。そしてロアーヌが行方不明になったとのことで今すぐ都に向かわなければならない。」
「そしてこの小娘があまりにも似ていたものだから」結構話してるなー。さっき気がひけるとか言ってたのに。
しぶしぶレナにも手伝ってもらい馬車を見送った。
「あの男。私の『元』フィアンセ」え?

「じゃあ…」
「昨日まで私はロアーヌだった。リリアンヌの従妹よ」言葉を失った。通りがかる貴族を眺めることしかしてこなかった僕にとってその一言は…
「な、なんでこんなところに来たの?」昨日会った時レナは雪の中倒れていた。
「あの家にいたくなかった。あの家にいればあの男と結婚させられる。それに…」裕福な暮らしをしてると思う人でも悩みはあるものなんだな…
「でも私はもうロアーヌじゃない。ここまで探しには来ないわ。やっと自由になれたのよ」自由か…
「この街で自由だと思うの?物はないし、食べるのにすら困る。汚いし臭い。それに…」
「自由よ。」遮られた。それに満面の笑み。本当に幸せそうだった。
「でも…」やっぱり不満か?
「もし迷惑なら出て行きますけど…」そんなことか
「迷惑じゃないよ。一日中やることもないしさ、ここにいてほしいと…思う…」
「私は帰る家があるんだよ!それに今まであなた達に恨まれるほど裕福に育った…。それにっ」
「追い出してほしいの?」なんでそこまで言うの?
「……………よろしく、これから」もしかして追い出すとでも思ったのか?
確かに生活は大変ではあるけど。
「こっちこそよろしく」そう言ったらレナは笑顔で頷いた。

半年が過ぎた。レナもだいぶこっちの暮らしに慣れきたようだ。
近くの酒場に飲むものがないのにコップだけ持って仲間と笑いあった。
時には貴族の馬車から金の装飾を剥がしてみたり。
この街で二人、楽しんでいた。
あと毎晩レナが何か紙を書いていた。
尋ねてもいつもごまかされるから次第に聞かなくなったけど。

そんなある日だった。
酒場に一人の少年が飛び込んできた。彼はガブロージュ。
「レオンハルトが死んだ!」

「レオンハルトが死んだ?」あたりがシーンとした。
レオンハルト=アヴァドニア。彼は三英雄と呼ばれている彼は国民のことを考えている優しい大臣だった。
「レオンハルト様…」やっぱりレナにも面識はあるか…。
「一体どうして死んだんだ?病気か?」みんながガブロージュに寄りかかった。
「レオンハルトは殺されたんだ!」さっきよりもさらに静かになった。
「王女だ!」誰かが声を上げた。
「王女がレオンハルトを殺したんだ!」
「革命だ!」みんなが次々に声を上げた。
「ねえ、リシャール?革命ってなに?」今までに民衆が政権を倒すなんて聞いたことがない。
「この国をよりよくするために王朝と戦うんだ!」言ってみたけど僕もよくわかってない。
「じゃあこの街もよくなるのかな!」もうすっかりレナはこの街の住人になった。
「あと、リリアンヌともまた会えるかな?」でも王女、リリアンヌの従妹でこの街の住人。レナ或いはロアーヌは複雑なんだろうな…。
酒場の主人が地下から帰ってきた。いつの間に行ったんだろう。
手に持っていたのは大量の武器。
「これを使ってやってくれ。革命を起こすんだろ?」周りからは歓声が上がりみんなは銃や剣を手に取った。
鎧も何着か出てきた。
「ねえ、リシャール。これ似合う?」レナもノリノリだ。しかもめっちゃ似合ってる。
盛り上がってる中一人の男が駆け込んできた。
「ちょっと話さ聞いてくれねぇか?」見慣れない顔。
「俺は隣街の者だがレオンハルトが死んだらしい。」もう知ってるけど。
「俺の街で革命を起こそうとしてるが人出が足りねぇ。協力さしてくれねぇか?」確かに人出は多いほうがいい。
「ああ!」みんな言った。
「それにレオンハルトの娘が革命軍を作っているらしい。合流しねぇか?」
やっぱり殺されたのか、王女に。
話し合った結果、レナと僕は直接城に突撃するチームに入った。
「行くぞー!」

城はもうほとんどもぬけの殻だった。みんな逃げ出したのだった。
「おーいここが王女の部屋じゃないか?」他の仲間が言い出した。
「あ、そこは…!」レナが叫んだ。
「ロアーヌ?」中に入った仲間が入った。
ロアーヌ– レナの元々の名前。ってことはもしかして
「私の部屋だった部屋よ。とっくに片付けられてると思ったわ」
「これレナに似てないか?瓜二つだぞ?」写真見れば気づくか…。
「隣は王女だよな?」みんながその部屋に集まった。
「リシャール。逃げるよ!」レナは僕の手を引っ張って走った。
「ロアーヌ?」女性の声がした。レナ、いやロアーヌが立ち止まった。
「リリアンヌ!」彼女は走っていった。でも抱きついた瞬間、
「リリアンヌ…じゃないわね」何を言っているんだろう?
「アレクシル=ルシフェン=ドートゥリシュ。でしょー」
「フルネーム言わないでよ!あっ、無礼者!」
「レナ、アレクシルって誰?」
「王女の双子の弟よ。双子が不吉とされていた中、アレクシルはレオンハルトの家に引き取られアレン=アヴァドニアとして王女の付き人に…」
「ロアーヌ!もうやめてくれないか?僕は確かにアレンだ。でも今は僕はリリアンヌ =ルシフェン=ドートゥリシュだよ。あと最期にロアーヌに会えてよかったよ。生きてたんだね。元気でね。僕は行かなきゃ行かないとこがある。それと、リリアンヌはもういないよ。僕に変装して逃げたから」
そう言って「王女」は、行ってしまった。
「アレクシル…リリアンヌの代わりに死ぬのね。この革命で…」
革命は「王女」との追いかけっこ状態だった。長引きそうだったので交代で森の小屋で休憩を取ることになった。
でも「王女」が見つかるのは時間の問題だった。
「レナ!」レナと僕が角で休んでいると怒鳴ったような声がした。
「いや、ロアーヌ=ドートゥリシュ」レナの本名だ。そしてオートゥリシュ家はこの国の王族の家系だ。
「だ、誰ですの?その方は」焦って口調が上品になってる。
「口調が変わったようですが?ロアーヌ様?」嫌味ったらしい敬語。誰から見てもレナがロアーヌであることは明確だった。
「何か証拠はあるのか?」ただの脅しかもしれない。王女はまだ捕まってないんだ。ストレスが溜まってもおかしくない。
「この写真を見てみろ。そしてその裏を。」そこに写っていたのはレナともう1人の少女は王女であろうか?
「...Riliane......Louane」レナと王女に違いない。
「あとリシャール!知っていただろ!」知っていた。
「リシャールは関係ありません!」レナが叫んだ。
「ただ、雪降る中、わたくしを助けていただいて、世話もしていただいただけでございます。」今まで聞いたことのないほど丁寧な物言い。写真が無くても彼女が貴族や王族出身であることを理解するのに無理はなかっただろう。
「そうです。私はロアーヌ=ドートゥリシュ。リリアンヌ=ルシフェン=ドートゥリシュの従妹です。」
周りは誰もしゃべらなかった。

「ロアーヌ=ドートゥリシュ。処刑だ」そんな。
「やめろ!」叫ぶが周りに抑えられて動けない。
他の誰の目にも迷いはないように見えた。みんなロアーヌの死を望んでいるんだ。
「この汚れた血を絶て!」周りからはそのような声が響いてた。
「呪いの過去は今夜終わるんだ!」みんなにとってロアーヌの存在は『悪』だったんだ。
「ロアーヌ=ドートゥリシュ。王女ももうすぐそっちに行くと思うぜ。」
引き金が引かれた。鎧を突き破って弾丸はレナの胸に飛び込み深紅の血を放った。
倒れこむレナは最期に僕を見て微笑んだ。
僕は解放されてレナに駆け寄った。
「レナ!」胸に当てた血だらけの手を僕の頬に伸ばした。
「リシャール…。ごめんね、私がこの家に生まれた時点でここに来てはいけなかったのに…最期の最期まで迷惑かけちゃって。」来ちゃいけない存在なんて…。
「私の引き出しに紙が入っているわ。半年で見たあの街の状態と改善策。この革命が終わったらそれを参考にして、いい街を作って。政治学を勉強した私の案に狂いはないわ」レナ…。あの街での暮らしと王族の知恵で、僕たちの街をよりよくしようと思って…。それなのに。
「私はもう行かなきゃ。私のいるところまで知れ渡るようないい街にしてね。私との約束」徐々に顔が青白くなってくる。もう無理だ。レナは死ぬ。
「ああ。約束する」
聞こえたかはわからない。でも最期に笑って息を引き取った。
彼女の遺体は港町の教会に埋葬された。


あれから数年…。
革命が起こってもトップが変わっただけであった。
でも僕たちの街は変わった。あと僕は市長になった。
レナの半年分の資料にはこの街の問題と未来について余すところ無く書かれていた。

そして今日も市長室から見える星空、そしてレナに誓う。
「いつか、世界一素敵な街にしてやる」と

あの時の約束。けっして忘れない。レナは命をかけてこの街を変えようとしてくれた。
それなら僕は命をかけてそれを現実にする。

だから僕は僕の革命を続ける。
C'est pourquoi je continuerai ma révolution.

Richard Autriche

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

La révolutionnaire (ラ レボリューショナル)1.0.2

悪ノ娘の舞台で革命中の悲劇を描きました。
キャラクターイメージはリシャール=鏡音リント、レナ=鏡音レンカ

悪ノ娘パロなのに台詞あるのはアレクシルだけっていうw
名前出てくるのもレオンハルトとリリアンヌとアレクシルだけw
悲劇パロで悲劇書いてしまうこの頃。楽曲化したいなー

1.0.2
ピアプロ初出しです。

閲覧数:206

投稿日:2015/05/09 06:49:20

文字数:5,687文字

カテゴリ:小説

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