【第二十話】DISLIKE
「忌み子」―――それがあたしだ。
生まれたときに、どこの占いしか知らないが、そう言われたらしい。
「この子は災いを呼ぶ子だ。生かしておいては、きっと禍が起こる」と。
最初はみんな私を嫌った。
殺すのはかわいそうだと、みんなが言ったから、生きてはいたものの、死んでいるようなものだ。
「気持ちが悪い」「気味が悪い」「私に禍が起こっては堪らない」からと。
別に一人でもよかった。
姉と兄が1人ずついるけど、その二人とはまた別の人種。
でも姉様と兄様はあたしに優しくしてくれた。
まるで人間のように。
少し大きくなって、小学4年生くらいの時だ。
人前ではあまり言えないが、あたしは頭が良かった。
秘密組織とはいえ、政府に所属する人間として恥のないような成績、技術、器量…。
とくにあたしは強く求められた。
「忌み子」なのだから、それくらいは当然だ、と。
生かしてもらってるのに生意気な、と。
だからあたしは頑張って、頑張って勉強した。
学校でもトップ。
常に上位にいることをやってのけた。
それどころか、中学生の問題だって難なく解けるようになった。
頑張った。
あたしは頑張った。
だから、みんなあたしを邪魔者呼ばわりしなくなった。
それに、これも人前では言えないがあたしは剣術がすごかった。
師匠も倒してしまうほどだった。
だからみんなあたしを「忌み子」と呼ばなくなった。
それでよかった。
嬉しかった。
満足していた。
あんなことになるまでは―――。
*
「どうして組織が表に出るんですか!!??」
「どうしてって、そりゃあ、今の内閣じゃ問題だろ」
「そんなカリカリすんなよグミ。まだ小学生だろ?……5年、だっけ?わかんないこともあるさ」
22世紀にはいってだいぶ経った。
今まで裏で動いてきた組織が、前に出る作戦を、あたしが反対した。
「だって!!国民はそんなこと求めてないってば!!」
「小5に何がわかんだよ!!さあ出た出た。これからは大人の話だからな」
大臣に言われればしょうがないが、あたしが言ったことは正しい。
今の内閣でも国民は不満だろうが、組織が出るとなればもっと不満は増すだろう。
「安保闘争」並みのデモも起こりうる。
「あ、グミ―?今から新しい魔術のテストするんだって―、グミに手伝ってほしいってさー」
「ミク姉様」
「んもう、グミってば、また大臣に意見して会議室放り出されたんでしょ?もうやめときなよ、駄目だよ、頭カッチカチのオヤジに何言っても。ね?はやく」
「うーー・・・」
姉様はいつも優しけど、どこか全部をあきらめてる気がする。
頑張れば、この作戦だって防げるかもしれないのに。
「さ、着いたよ。早く着替えて」
姉様は笑った。
「わかってるよ」
巨大で虚大なコンクリートで固められた空間。
息が詰まりそうだ。
あたしは急いで着替え、いつものことだから慣れた手つきで自分の刀をとった。
「準備OK」
『じゃあグミちゃん、今日は呪文となえるだけでいいから。いい?【紅雲】って言ってね』
耳にしているヘッドフォンから聞こえる近未来魔術開発事業部入部一年目新米の声。
「相手は」
『ガクトさんだよ』
「兄様?」
『大丈夫だよ、ガクトさーん入って―』
目の前に扉から現れる兄、ガクト。
「いやー、手加減してくれよ?グミ」
「どんな魔術かわからないからしようがない」
『じゃあ、始めてくださーい』
あたしは刀を強く握りしめる。
テストであろうと、容赦なく兄様を睨む。
「――――【紅雲】――――!!」
瞬間に消える、刀。
「え?」
前を見ると、ガクトに息が荒い。
「ちょ…、兄様…?だいじょう……」
ちら、と、あたしを見た。
くるしそうに。
「―――グ…――――!!!!!!!!!!!!!」
――――どッッッッ!!!!!!!!!!!!!!
兄様の胸を後ろから突きさす形で堂々とのびる、私のさっきまで持っていた刀。
散らばる、兄様の血。
紅く染まる、視界。
『うわああああ!!!!???????ガクトさん!!!!!!!!!!!!!』
新米も聞いてなかったみたいだ。
兄様の胸から噴き出す紅いしぶき。
苦痛に歪む、彼の顔。
「……兄…さ……ま…?」
兄様は前のめりに倒れる。
「――――――――――く…そぉ―――」
「兄様!!!!!」
あたしは駆け寄る。
脳内にフラッシュバックする、姉様の笑顔。
この空間に入る直前に笑顔の意味を。
「兄様、兄様!!!!!ごめんなさい…、あたし……っ」
「―――い、…グミ、は…、っ―――何もしら…なかった……っっ!!……は……ミクの…奴、め……」
さらに歪む兄様の顔。
そして―――。
兄様はそっと目を閉じた。
二度と戻らない。
「そんな…、兄様……」
兄様の血があたしの顔や体のあちこちに返り血のようについている。
真赤だ。
まるであたしが殺したように―――。
違う、あたしが殺した。
あたしが――――――――――!!!!!
『きゃあアアアアアアアアアアアア!!!!?????????』
ヘッドフォンから悲鳴が聞こえた。
声でわかる。
「姉さ……ま…?」
『グミ何してるの!!??ガクト兄様を―――!!!!!!やっぱりあなたは禍をもたらす「忌み子」だったのね!!!???みんな騙されてるわ!!!!新米!早くあの子を牢へ入れなさい!!!!!』
『そうは言われましても…、グミ様だけの責任じゃないですよ。僕も…、グミさんに指示したのは僕だ…』
『いいえ違うわ、新米。あの子に騙されてるのよ。早く牢に入れないと、あなたも兄様のようになってしまう…』
血塗れのあたしと、胸に刀が刺さったまま死んだ兄様を姉様は指差す。
『しかし……』
『んもう、しつこいわね!!!!!!入れろって言ってんのよ!!!次期長の命令よ!!!!!!!!!!!』
そこで新米は急いであたしを牢に入れた。
真っ暗。
なのに兄様の血の色が目から離れてくれない。
あたし、なんてことをしてしまったんだろ……。
自分の兄に手をかけるなんて。
きっとこのまま殺される。
あたしはやっぱりいちゃいけなかったんだ。
生きてちゃ―――いけなかったんだ――――!!!!
あたしは牢を難なく抜け出した。
みんなには悪いけど。
必要最低限のものをバッグに詰め込んで。
もうひとつの愛用の刀をバッグに隠して。
家を飛び出した。
あたしはもうあんなところで生きたくない。
ひとりで生きていくんだ。
ひとりで夜道を歩いていた。
自販機の近くに、とても人とは思えないほど痩せ細った少年が倒れていた。
座っていた、のほうが正しいかもしれない。
座りながら、倒れていた。
「ねえ、君も、一人……?」
「―――同情か…?」
少年はあたしを睨んだ。
「違う。一緒なだけだ」
「は?一緒って?」
何を言ってるんだこいつ、みたいな口調で少年はあたしに問う。
まるで愛を知らないように。
あたしのように。
「あたしも、ひとり、だ」
「…………」
少年は何も話さない。
まるで愛という言葉を見て見ぬふりをするように。
あたしのように。
「一緒に来ないか」
「…は…?」
あたしは続ける。
「政府に、こんな社会を作った、この国の頂点に、反抗する」
キョトンとなる少年。
「あたしの名前、グミ、だ」
そういうと、ニヤッとした。
そして立ち上がる。
金髪を後ろで束ねた少年。
「俺は、レンだ」
もう、あたしはやめた。
頑張るのをやめた。
もうやめた。
疲れた。
もういやだよ…、頑張るのは。
「よろしく、レン」
「ああ、よろしく。……グミ」
笑って、握手をした。
少年の手は暖かかった。
コメント3
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ご意見・ご感想
しるる
ご意見・ご感想
ガクトは、ミクの闇になんとなく気づいてましたね
たぶん
グミが優秀じゃなくて、がんばらなかったら、ミクに目をつけられなかったのかな?
2012/11/25 16:02:05
イズミ草
そうですね、自分の妹がすこしおかしいことに、
何かしらの形で気付いていたと思います。
それは……解りません。
結局、忌み子でも、忌み子じゃなくても
グミはがんばってたと思います。
ミクが狂うか狂わないかの問題でしょうね。
自分の立場と、権力におぼれたんでしょう。
2012/11/25 18:19:21
Turndog~ターンドッグ~
ご意見・ご感想
グミちゃ…ああぁ…
引き裂かれるような痛み。
そしてミクの魂百まで。
・・・勉強するか。
2012/08/26 20:40:21
イズミ草
兄様の痛みが、
そのままグミの心に一生残ってしまったんですね…。
ミクはいつから悪魔になってしまったのか。
勉強頑張ってください…。
私も宿題しないと…。
2012/08/27 11:09:04
つかさ君
ご意見・ご感想
おぉぉぉぉ! どきどきするじゃないですか!
グミ&レンかっけぇ...!
やっぱ、ミク怖いっ、
2012/08/20 19:05:33
イズミ草
ほおう、ドキドキしてくれますかww
グミの過去は暗かった…。
ミクさんは…、ね。ww
2012/08/20 19:07:29