第六話 お嬢さん

 血の色―――気持ち悪い。

 でも、あのくらいの量を見ただけで、ここまでなるとは自分でも思ってなかった。

 私は――ヴァンパイア失格だ。

 だって。
トップの子供なのに、血が怖い。
血を見たくない。

 子供みたいって、あの子は笑った。
そんなんでどうすんだ、って。

 最初から失格なのに、更に血が怖いなんて、もう私はヴァンパイアじゃない。
ただの、ヴァンパイアの皮を被った、無力な落ちこぼれ、だ。

 だから今まで頑張ってきたのに。


 ―――あの人に、出会わなければ。


 もっと、楽しく暮らせていた。
笑っていられた。


 ―――私は、ただ、一緒に居たかっただけなのに。


 私に笑ってくれるあの人と、一緒に居るだけでよかったのに。
一年中、雪が降ってる、あの場所で。


 もう、あの人の声は、聴こえない。





 「―――れん?」





 おりんさん。


 「さっき、お友達、お帰りになったけれど、いいのですか?」


 うん。
私と話しても、何もないでしょうから。


 「れん?」


 唐紙が、するりと開く。

 心配そうな顔で、こちらを覗く、おりんさん。

 「随分と顔色が悪いけれど――なにかあったの」


 おりんさんは優しいですね。


 声にならない。
やっぱり、似ているんだよ。

 その、表情。

 「―――おりん、さ、ん―――」



 今にも消え入りそうな声で、呟く。
これ以上声を出せば、何かが溢れだしそうだったから。


 「ええ。なあに?」


 その声。
とても、落ち着く。

 「――――」


 それでも、言葉は出てきてはくれない。



 もう小半時は経っただろうか。

 お天道様は西に傾いて、空は茜色に染まってゆく。
それでも、おりんさんは、私の次の言葉を待っていた。



 「れん―――?」




 優しく、語りかけるかのように。




 「私、れんのこと、すきよ」





 一瞬のことに、驚いて、おりんさんの顔を見つめた。
おりんさんは、にこりと笑う。


 「好きですよ」


 もう一度。


 どうしてこんなことをおりんさんが私に言ったのかは、判らない。
慰めようとしてくれたのだろうか?
励まそうとしてくれたのだろうか?
笑わそうとしてくれたのだろうか?


 今の私には、真意はわからない。



 「――ありがとう、ございます―――」



 そう言うしかなかった。




 「じきに、夕餉の刻限ですから、支度ができたら来てくださいね」




 そう言ってから、おりんさんは客間を出た。
思えば今日は一日客間に居たような気がする。

 客間で接待をすることがなくてよかった。

 否、もしかしたら違う座敷で、わざわざしてくれたのかもしれない。




 おりんさん。

 もし、私が。
みなから忌み嫌われていたとしたら。
疎まれて、いたとしたなら。

 その笑顔は、消えてしまうのですか。

 やっと、もう一度めぐり合えたその笑顔は、消えてしまうのですか?


 もう、嫌だ。





 「―――ひとりは――嫌だ―――」





 ヴァンパイア族の印。
鋭い牙がない私でも。






 ――――ひとりは、もう嫌なのです―――。








ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ノンブラッディ

レン君の過去を
徐々に明らかにしていくのって
難しい―――ww

閲覧数:157

投稿日:2012/09/19 19:18:38

文字数:1,390文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    これこそ、イズミさんの真骨頂!
    情景と絶妙な間のこらぼれーしょん!

    とても奇麗に書けるのがうらやましいですw

    2012/12/22 08:46:13

    • イズミ草

      イズミ草

      おお!
      そうなんですね?

      しるるさんの足元にも及びませんよう^^;

      2012/12/22 16:38:17

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