僕は川辺を歩いていた。
「ふっふふーん」
明日は彼女に、指輪をプレゼントしてプロポーズする日だから。
期待に胸が詰まってしまいそうだ。
「あっ」
それは一瞬だった。
少し、躓いただけだったのに。
「ああああああああああっ!!!!!」
もう、その時は遅かった。
掌の上で踊る指輪が、仮に『指輪なげ競技』なるものがあったらオール10点を決めてしまう(というかそんなのはあるのか?)くらい的確な角度で向こう岸まで富んでいってしまった。
≪エイは育ち、僕はプロポーズに鉄を曲げる【二次創作】≫
「……そんなことって……あるかよ普通……」
ふと、見る。
橋とか、ないのか……? なかった。
一瞬で解る。あっても、影で解るはずだ。けれど、ない。
ボートなんてラノベ的にご都合主義に気の利いたものなんてあるわけもなく。
「ああ、もうっ!! どうすればいいんだ!!」
まあ、仕方ないから泳いで渡るしかないか……と、両足を入れたとき。
「おい、ちょっとあんた、何してるんだ?」
「何って……、泳ぐんですよ。橋とかありゃいいんですけど」
「あんた死ぬ気か?」
老人がそう言って、「は?」と目をパチパチさせる。だって、沈むには深くない。溺れることはまあ、殆どないだろう。そんな川で、死ぬ? いったい、どうやって?
「……そこ、三途の川だぞ」
「……は?」
そんな言葉を聞いて、近くの看板を見る。
すると。
『二級河川 三途の川 Sanzu river』
……おいおい、まじかよ。しかも二級河川って。ここ永久欠番とかにしたほうがいいんじゃねえのか?! というかなんでこんな伝説がこんな近所にカジュアルに普通の川気取って流れてるんだよ?! 地理的に見て向こう神奈川県だろ!?
「……神奈川県は、消滅したんじゃないかのう……」
「嘘つけよ! なんでだ!! どう考えても嘘だろ! ひとつの県が消滅とかありえねーし! N2爆弾とか、ポジトロンミサイルとか使っちゃったんですか?!」
とりあえずツッコミをいれたがよく考えるとこの老人には解らない言葉ばかりを羅列してしまった。世代違うんだよな……。
「いや、そこはセカンドインパクトじゃないかね? ヤシマ作戦は生憎無理じゃろうし」
「おい世代違うよな!! 伝わっちゃったよ!! ご老人その歳にして深夜アニメとかロボットアニメとか見てたの!?」
「最近のおすすめは……なんじゃったかのう……豆腐みたいな名前の……モビルスーツとか……。ほら、昔からやっとるやつじゃよ。打ち切りじゃないのか、って掲示板で騒いでた」
「しかもねらー?!」
……それはさておき。
「あれは大事な指輪なんだよ!! どうにかして取り戻す方法はないのか?! というかあんな簡単にあの世にいっていいの!?」
「やかましいのお。もういいかの? もうすぐサッカーのアニメが……。あの男の子のゴールキーパーが出す技がすきでのう……」
「しかもそっちも見てるんですか?! 暇なの?! ねえ、暇なの?!」
「暇じゃないぞ……。わしは今から帰って二十本ほど溜まったアニメを見なくてはならないのじゃよ……。じゃんけん勝負の結果も気になるしのう」
「あの黄色い子のか……。すげえよ……あんたがナンバーワンだ……」
そんな会話をしているうちにあのじいさん帰りやがった。すげえオタクだな。今度会ったらアニメ見ながら談話でもしたいもんだ。
おっと、そんなことはいいや。とりあえずどうしよう……。しかし泳ぐのも無理なら……。
「一回帰るか……」
つぶやいて、進路を右へと変える。向かうは、最近引っ越したばかりの(何故か謎の茸が生えまくってる)家だ。
***
自宅は最近引っ越したばかりのアパートだ。101号室が僕の家。急いで、オートロックを解除し、部屋に入る。
「……また生えてやがる……」
茸だ。確か隣近所の中本とかいう奴にあげたらすごい喜んでいたっけ。これこんなすごいものなのか?
とりあえず数本引っこ抜いて、うなぎパイのダンボール箱から釣竿を取り出す。これさえあればなんとかなる。なんとかなるだろう。
***
戻って、僕は――竿を振る。
「奇跡を信じて!」
結果:八投連続エイ。
「ですよねー……って団欒してる場合かーっ!!」
そう言って僕はエイたちに竿を投げつける。その手の奇跡が今来るとはカミサマも何やってるんだ?! まさか奇跡をフリーコールみたいに使うなとか怒ってるのか?!
ともかく養殖ならよそでやってくれよ……とは思うものの、どことなくエイの数が増えてきた……っていうかエイしかいない? さっき泳ごうとしたとき居なかったよな……?!
どれくらいやっただろうか。
もうエイだらけだ。いや、リリースしてるけど。
日が落ちて、昇って。
それでも、指輪には届かなくて。というか向こう岸で(なぜか空飛ぶ)消火器が応援してくれてる。空を飛ぶならこっちまで指輪を届けてくれと言いたいんだが、もうこの際それは仕方ない。
もう……駄目だ。
「諦めたらそこで試合終了だよ」
「じいさん……指輪を取らせてくれ……、というかこの小ネタいつまで入れれば気が済むんだ……」
「わしが飽きるまでじゃ」
「僕はもう飽きたよ!」
「……ねえ?」
「えっ」
僕はその声を聞いて、驚いた。振り返った。
そこに居たのは――彼女だったのだ。
「しまった……」
思わず僕はつぶやいてしまった。
「どうしてここにいるの?」
「……いや、その……」
僕は彼女に全てを話した。
――ああ、なんて散々なプロポーズなんだろうな、って思った。
指輪はまだ、向こう岸にある。
だから、僕はまだ竿を振る。
そうしようとしても――力が入らない。
「……ダメだよ。疲れてるんでしょ……?」
彼女が後ろから抱きしめる。彼女の体温が体越しに伝わる。
ああ、僕の体はこんなにも冷たくなっていたんだな。
そう思って心が、折れそうだった。
だけど、彼女が竿の方に向かった。
針があたって歪み、綺麗なリングになっていた。
彼女はそれを指にはめて――笑ったまま、泣いた。
「素敵な指輪を、ありがとう」
僕は泣いている彼女をずっと抱きしめていた。気付くと消火器とかオタクなじいさんもどこかに消えていた。
おわり。
エイは育ち、僕はプロポーズに鉄を曲げる【二次創作】
書いてみました。リア充……けどこういうのもいいですよね←
原曲様:http://www.nicovideo.jp/watch/sm17947360
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