~七夕~



「つむぎちゃんってほんとに着物がよく似合うね。」

「そぉお~。」

「うん。さすが、"大島つむぎ"というだけある。(今着てるのは浴衣だけど)」

「えへへ~」

つむぎがちょこんと座って花火をしている。花柄で藍色の浴衣、背中には
団扇を指し、手には線香花火。おまけに、その後ろには短冊のかかった笹が
立っている。そんな典型的な花火をする女の子の図を、Tシャツ姿のゆかり
と玲が見下ろしている。二人がやっているのは、ちょっと派手な手持ち花火。

「あ~っ、落ちちゃった~・・・。次、何にしようかなぁ~。」」

片方の袖を押さえつつ、置いてある花火を手に取る。

「なんか嫉妬しちゃうなぁ~。」

つむぎを見ながらゆかりがため息をもらす。

「ゆかりも少しはつむぎを見習ってみたらどうだ?」

「そうね~。私も浴衣着てみようかな~。」

「ゆかりちゃんも浴衣着るの~?」

「あはは、ちょっとそう思ってみただけ。」

苦笑するゆかり。

「わたしなんか、すぐ着崩れしちゃうしな~。」

「うんうん、ゆかりはいつもバタバタ動き回るからな。」

「うるさいわね!」

「わっ、危ね。」

ゆかりが火のついた花火を振り上げ、あわてて逃げる玲。

そのとき、


パシュッ。 ~~~~~☆


二人の間を一筋の光が流れた。

「わわっ」

玲とゆかりがピタリと止まる。

「二人とも暗いから走ると危ないよ~。」




パシュッ


つむぎはにこやかに連射式の打ち上げ花火を手に持ちあちこちに光の球を
飛ばしていた。

***注: よい子はまねしないように。***

「つ、つむぎちゃん・・・。」




パシュッ

「そっ、それ・・・。」

「二人ともけんかしないで、花火やろうよ~。」

~☆
~~
パシュッ。 ~~

「あは・・・ははは。」

「・・・俺達が悪かった。」

ゆかりと玲は顔を見合わせて苦笑する。

「ああ見えても、つむぎって結構過激なところあるな・・・。」

「そ、そうね。」

つむぎには逆らわないほうがいいと心に決めつつ、二人はつむぎの近くに
戻っていった。

「面白いよね~、この花火。」

再び3つの光が暗闇を照らし出した。


・・・


「あ~、面白かった。」

最後の光が消え、辺りが暗くなる。
つむぎがふと空を見上げて、

「そういえば、今日は七夕だね~。」

「そういえばそうだね。」

答えつつゆかりも空を見上げる。

「あれが織姫星で、あっちが彦星・・・だよね?」

「そう、それであれが白鳥座のデネブで、3つで夏の大三角と。

「玲ちゃんよく知ってるね~。」

「まぁね。」

「・・・。」

「今日は天の川もよく見えるな。天の川に浮かぶ北十字もいいよね。」

「北十字~?」

「白鳥座の星の並びが十字描いてるだろ。それを南十字に対して北十字って
言うらしいよ。」

「へぇ~、そうなんだ~。」

「・・・。」

「・・・?」

玲はふと違和感を覚える。ゆかりがさっきから黙って空を見ている。
玲はゆかりの肩をつつく、

「ゆかり。どうかしたか?」

「ぎゃっ、あっ、えっ?なに?」

「あまりにもお前が静かだから、どうかしたのかと思って。」

「何よそれ ・・・って、そんなことより、ねぇ、あの織姫星と彦星、動いて
ない?」

「えっ?」

三人は空を見上げる。

「・・・本当だ、互いにちょっとづつ近づいてる。」

「なんで、あ~やって、星が動くのよ。」

「七夕だから、二人会いに行くのかなぁ。」

「そんなんありか?」

ゆかり達のこぼす間に、2つの星はどんどん近づいていった。



しばらくして、2つの星は、天の川の岸辺まで近づいてきた。

「川、渡るのかな~。」

「う~ん・・・。」

見ていると、2つの星は天の川をはさみこみ、川をくびれさせている。

「天の川を挟み込んでる・・・。」

「天の川がせき止められてるみたいだね。」

ゆかりがつぶやく。2つの星に挟み込まれた辺りだけ、光が濃くなっている。

「そのまま、溢れ出たりして雨でも降るかな。」

「なんで?」

「七夕で二つの星が会いに行くと、二つの星にはさまれた天の川が溢れて雨が
降る、って言う話を聞いたことがあるよ。雨乞いみたいなものなのかな?」

「へぇ~、そんな話あるんだ。」

と、ゆかりが感心した直後。星にせき止められた付近から、一筋の光が
すぅ~っと地上に降りていった。光は、天の川と地上をつないだ。

「流れ星?」

「・・・にしては、痕が全然消えないなぁ・・・。」

「よくみると星が流れ落ちてるみたいだね~。」

つむぎの言うように、光の筋は無数の光の粒が集まってできていた。

「光る砂の砂時計みたいね。」

「きれ~い。」

うっとりと見入るゆかりとつむぎ。そのそばで玲は、

「・・・天の川が溢れたのかな。」

「なによ、それ。」

ゆかりがあきれたように振り向く。玲は、光の筋の降りる先を辿り、

「結構近そうだな、行ってみるか?」

と、立ち上がる。

「しょうがないわね~。・・・よっと。」

ゆかりも立ち上がる。

「・・・あ、二人とも待ってよ~。」

つむぎもちょこちょこと後を追う。

「浴衣走りずら~い。」


・・・


「あすこだ。」

白い光の筋は、近くの丘の上の辺りに降りていた。三人はゆっくりと丘を
上り始める。
やがて、滝のような水が流れ落ちるような音も聞こえてきた。遠目には砂が
落ちているように見えた光の筋は、近づくにつれて白く細い滝のように見える。

「砂じゃなくて、水みたいだね。」

「なんだろうね~。」

「やっぱり天の川が溢れたんだよ。」

などと言ううちに、三人は丘の上に着いた。

そして・・・

「うわ~。」

「あっ・・・(^^;」

「・・・_(_ _ ) 」

ずっこけるゆかりと玲。
丘の向こうには巨大な牛乳瓶があり、白い光の筋はそこへ降りていた。

三人はしばらくあっけに取られてその光景を見ていた。そして、牛乳瓶が
一杯になる頃には、空から降りてくる筋も細くなり、やがて見えなくなった。
空を見ると、星は元の位置に戻りつつあった。


「何よこれ?」

ようやくゆかりが口を開く。

「天の川 (Milky Way) は本当にミルクが流れてるんだな。」

「そんなんありか?」

呆れ顔のゆかり。

「・・・でも、牛乳の雨が振らなくてよかったね~。」

「そんなの嫌だぞ。」





翌朝、ゆかりがいつものように玄関に牛乳を取りに行った。

「期間限定の牛乳、今日からだったんだ。」

ふと、毎年見慣れたその瓶のラベルを見ると・・・

「あっ・・・。」

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  \  /
  //ノハ\
  |ル_/_| |
  | |・|レ|
  | |天| |
  |*|の| |
  |*|川|☆|
  | |牛|☆|
  | |乳| |
  | +--+ |
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~END~

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

七夕

七夕の夜に花火で遊んでいると・・・

前々作「もち」のシリーズで、変なショートショートです(^^;


※等幅フォント向けに書いたものだったので、一部テキストの絵が崩れ絵しまっていますm(_ _)m


(小説家になろうにも転載しました。 2021/7/25)

閲覧数:130

投稿日:2016/07/20 00:28:21

文字数:3,949文字

カテゴリ:小説

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