物語というものは、いつも唐突に始まる。
登場人物が何をしていようと、何を思っていようと、突然浮かび上がってくる物語からは逃げることができない。
そんなことを改めて実感した日の始まり。



カラッと晴れた雲一つない空。
澄み渡る青空はどこまでも広がり、遠くに連なる山々がくっきりとよく見える。いつもならぼやけている輪郭もハッキリとしているのだから、空気も澄んでいるのかもしれない。
昇り始めた太陽の位置はまだ低く、その光は眩しいほどに明るくはなかった。
まだ早い時間のせいか、道を歩く人影も少なく、眠そうな顔をした学生やサラリーマンが駅への道のりを歩いていく。時折聞こえる自転車のベルの音も、いつも通りの朝の風景の1シーンと言えた。
そんな朝の風景からは少しだけ外れた住宅街に、一軒の家があった。
白塗りの壁の小さな家。住居となる建物の前には小さな庭がある。綺麗に整えられた庭には、色鮮やかな花が植えられており、様々な種類がある割には雑多とした感じはしなかった。
リビングに当たる窓のカーテンは広く開けられており、太陽の光が室内を明るく照らしている。
その奥のキッチンで、朝ご飯を作っている女性の姿があった。
肩につくかつかないかぐらいに切りそろえられた栗色の髪。赤い服を身に纏い、黒いシンプルなエプロンをつけた姿が、キッチンの中を軽々と移動していく。
その女性は、この家の主であるメイコだった。
すでにいくつかの調理が終わっているのか、キッチンの前にあるダイニングテーブルには、湯気を立たせた皿がいくつか置いてあった。
軽快に跳ねる包丁の音や、フライパンで焼く肉の音。コトコトスープを煮込む音など、キッチンに流れる様々な音をBGMに、メイコが朝食の支度を行っていく。
その表情は明るく、いつの間にか音に合わせてハミングを始めていた。その間も調理をする手が休むことはない。
澄んだ声がリビングまで響き渡る。
しばらくすると、その音がピタリと止まった。

「よし、これで終わり。あとは……あの子たちが起きてからでいいわね」

腰に手を当てて一息吐いた時、ちょうどリビングにある時計の音が鳴った。
7時の合図だ。

「さーてと、今日はどうやって起こそうかしら」

形良いあごに人さし指を当てて、宙を見つめる。頭に浮かぶのは、寝汚い長男坊・カイトを起こすための策。姉弟の中で一番寝汚く、いつまで経っても起きようとしない彼を起こすのは、いつも至難の業だった。
今日はどうしようと考えていると、2階から誰かが降りてきた。

「「メイコ姉、おはよう」」

似たような顔をした二人が、眠そうな表情で声を掛けてくる。
金色の髪に翡翠の瞳。顔は似ていたが、その姿はそっくりそのまま同じではなかった。
一人は少年、一人は少女。彼らは二卵性の双子だったのだ。

「あら。リン、レン、おはよう。今日はちゃんと起きてこられたのね」
「ひどいよ、メイコ姉。僕たちはあんなバカイトと違うよ!ちゃんと自分で起きてこれるんだから」

楽しそうに笑いながら言うメイコに、レンが慌てたように反論をしてくる。その隣では、レンの言う通りとばかりに頷くリンの姿があった。
そっくりな反応をする二人に、思わずメイコが声を出して笑う。
メイコからしてみれば、カイトもリンもレンも大して変わらない。大切な弟妹だ。
いつまでも小さいと思っていた彼らも、いつの間にか育っているのだ。それを実感して、思わず笑ってしまった。

「「メイコ姉!」」

リンとレン、二人の声が重なる。

「ハイハイ、ごめんね。じゃあ、そろそろ時間だし、カイトとミクを起こしてきてくれる?」

目尻に滲んだ涙をこっそりと拭い、メイコはリンとレンの頭にそっと手を乗せた。そして、片目をパチリと瞑ってみせる。
その表情に、リンとレンがお互いの顔を不思議そうに見合う。しかしそれもすぐに解け、メイコに向かって親指を立てて見せた。

「じゃあ、メイコ姉。フライパンとおたま貸して!あたし、一回やってみたかったことがあるの」
「僕も!」
「了解。でも程々にしなさいね。近所迷惑になるんだから」

二人の考えが分かったのか、苦笑しながらメイコがキッチンへと向かう。そして、フライパンとおたまを一つずつ手渡した。
お互いにフライパンとおたまを一つずつ持って、リンとレンがリビングを楽しそうに出ていく。その後ろ姿を見送って、メイコは大きく両手を上にあげて身体を伸ばす。

「さってと。あの子たちが起こしてくれるなら、最後の仕上げをしましょうかね」

そう言って、メイコはキッチンへと入っていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ファースト・インプレッション act.1

思いっきりボカロパロです。
長女:メイコ、長男:カイト、次女:ミク、三女・次男:リン・レン
いろんな世界に旅立つ話になるとかならないとか。
メイコが大好きなので、メイコがいっぱい出てたらスミマセン。
でも、コレは主人公・カイトのハズなんです……ホントは。

閲覧数:98

投稿日:2009/09/11 01:14:48

文字数:1,900文字

カテゴリ:小説

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