「ああああああ!!!」


机に思い切りノートを叩きつけ、ばたんと立ち上がる。
本当はそれだけでも騒音なのだが…あ、しかも私叫んだね。
でもまだ、こんなんじゃ収まらない。

本当は、机に向かっていないで、一日中わめいてすっきりしたい。
だが間違っても今年は受験、ちゃんと勉強しなければいけない。
というか、わめき続けたところで、通りすがりの誰かに優しく病院に連れて行かれそうだ。頭の。


だけど、勉強の詰め込みばかりで、ストレスも溜まる。
そりゃあ叫びたくもなる。


「もう嫌ああああああ!!!!」


叫びたくもなる!!!
ねえ!!ほら、人間って追い込まれると叫ぶものでしょ!!!!
…え?違う?
でもほら、そこは察してよ。
私今精神をすり減らして頑張ってるんだよ。


ああもう、ムシャクシャする。
イライラしたまま、さっきの勢いで扉を開けて勢いよく閉める。
ちなみに扉の張り紙は「蘇生中」になっている。なんでこんな言葉をチョイスしたんだ私の頭は。


廊下にぶっ倒れる。
もう踏まれてもいい。ちょっと死にたくなってくる。



「ちょ、ちょっとゆるりーさん!そんな騒音出したら、しるるさんに何言われるかわからないよ!?」


隣の201号室の扉を開けて、驚いたターンドッグさんが顔を出す。
あぁ、その表情はまるで、捕まえたゲンゴロウが目の前でどこかへ逃げ去ってしまったかのような表情だ。


「え!?ゆ、ゆるりーさん!?何で倒れてんの!?」


うん、さすがに驚くよね。
今もう携帯電話を手にしてるから、きっと救急車でも呼ぼうとしてるのかな?
やっぱりターンドッグさんは優しいね、きっと病院に連れて行ってくれるんだね。精神の。

…じゃなくて、


「あああああああ!!!もう!!!!うるさいですもうちょっとここで死なせてください!!!!」
「お!?お、おう…悪かった…」


さすがにいつもと違う私に驚いたのだろう、ターンドッグさんは「やべえ、ブラックゆるりーになってる…こうなったら俺がどっぐちゃんを連れてくるしか…!」みたいな顔してる。
たぶん今、私の目は猛獣のような目をしているのだろう。
悪かったな目つき悪くて。生まれつきだよ。


「なんで私生きてるんだろう…自分の主張なんて、社会の流れにかき消されて消えてしまう…」
「…おーい?」
「ひたすら他人の意見や価値観を押し付けられて、ただ少しの進歩と停滞を繰り返すだけ…」
「ゆ、ゆるりーさーん?もしもーし?」
「どんなに頑張って作っても砂の城は崩れる…現代の社会もきっと同じこと…なのかな」
「ゆるりーさあああああああああん!?!?!?」


いや、そんな「ゆるりーさんが壊れた!」みたいな目されても。
悟っちゃったんだもん、しょうがない。

でも、それでも私の感情は、胸の内で暴れ狂う。


「…ああああああああ!!!!もう!!!!」


そう叫んで立ち上がると、ターンドッグさんは怯えたようにびくりと肩を震わせる。


「…ターンドッグさん。私、決めました」
「お、おう…何を…?」
「私今、すっごいストレス溜まってるんですよ」
「おう、そりゃ、そうだろうな…?」


多分、今から私が暴れると思ってるのだろう。
大丈夫、自殺未遂も破壊行為もしないから。


「だから」
「…だから?」

「今から、かなりあ荘の掃除をします」


「うん、頼むからしるるさんに怒られないように…って、掃除かよ!?」

「ええ、掃除です」
「そこは普通八つ当たりとかじゃないの!?」
「いえ、掃除してピカピカにすると、自分の心もキレイになるような気がしません?」
「……あんた、いい子やな…」


だって、八つ当たりすると自分の体が痛いし、後片付けが面倒じゃないですか。



*




というわけで、廊下のゴミをほうきで掃き取り、そして水を汲んだバケツと雑巾でピカピカにする。
まず窓。意外とホコリが溜まってるからね。

水溜まりに雑巾を放り込み、そしてその布きれを掴んで絞る。
もう冬だから、この時期の冷水は本当に冷たい。


しっかりと雑巾を絞ったら、窓を拭く。
拭き終わったら、濡らしていない雑巾で乾拭き。
水拭きだけだと、残った水滴で汚れることがあるからね。

一つ拭き終わったら次へ。
どんどん窓を拭く。
せっせと拭き続ける。


「ゆるりー!会いたかったあああああああああああ!!!!」


強烈な勢いで飛びついてきた、茶猫ことてぃあちゃんを掴んで、大内刈りで投げ飛ばす。
これでも柔道やってたんでね。一年だけね。
てぃあちゃんが「がっ!」とか言ったけど気にしない。


そしてそのまま作業を続ける。
ちゃんと隅まで拭かないとね!
そういえばもう年末だし、ちょうどいい機会だよね。


せっせと窓を拭き続ける。
冷たい水が染みた雑巾と、乾いた雑巾を駆使して窓のホコリを駆逐する。
復活して飛び掛ってきたてぃあちゃんの鳩尾にナチュラルに蹴りを入れて、掃除を続ける。
せっせこせっせこ磨き続ける。


「あのー…」
「ん?何ですか?」


窓を磨く作業をしながら応える。
視線は窓に移したままである。
ずっと手を動かしてないと、冷水で凍ってしまいそうだ。


「さっきから、あなたは何してるんですか…?」
「気分転換に掃除してるんです。胃に穴が開きそうだったので」


私は、イライラしたときは八つ当たりせずに掃除をするようにしている。
するとほら、心も清清しいし、周りもキレイだし、一石二鳥なのだ。


「変わった人ですね…やっぱり私は、ここに馴染めそうにありません」
「そんなことないですよ。ここの住人は皆優しくて、誰かを見捨てるなんてことしません」


そう。
このかなりあ荘は、そんな優しさで溢れている。
私が困っていれば、誰かが声をかけ相談に乗ってくれる。
当たり前の親切と優しさに、今日も私は救われているのだ。


「この社会は残酷です。それでも私は、心の悲鳴をちゃんと聞いて、手を差し伸べてあげたい…」


…そう、私は決めたのだ。
もう絶対、あんなことにはさせないって。
自分を暗闇の海に沈めた、あいつらみたいな人間にはならないって。

一度障害を抱えてみれば、苦しむ人の気持ちなんて痛いほど理解できる。
そう…理解できてしまう。


「…それが、孤独な人間でも…ですか?」
「人は誰でも、欠陥を抱えて生きています。その欠陥が何であれ、私は誰かを救いたいと思ってます」
「…そうですか」


私がちらりと横に目をやると、先程まで話していた人物はもういなかった。
誰だったんだろう?透き通ってて、きれいな声だったけど。
知らない女の子だった。新しい入居者だろうか?


とりあえず、また懲りずに抱きついてきたてぃあちゃんは放っておいて、掃除を続ける。
「重くないの?」とか言ってきたけど、じゃあ降りてよ。ちょっと邪魔だよ。



*


二階の廊下と窓はピカピカになった。
でも時間がないし、体力もないのでキレイにしたのは二階だけ。

ちなみに、私の髪留め…シルルスコープが起動していたことは、様子を見に来たターンドッグさんに言われるまで気がつかなかった。
最初に廊下で倒れたときにスイッチが入っていたらしい。


そして…
私が会話した女の子が、このかなりあ荘に住む15人目の住人、清花だったということを知るのは

また、後の話。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

清らかな花【かなりあ荘】

ちょっと時間が空いたので、ストレス解消に書いてみました。
あ、家賃です。

ちょうど人権週間だったので、深く考えてみました。

閲覧数:202

投稿日:2013/12/08 23:59:17

文字数:3,058文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

  • 関連動画0

  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    ほにょおおおおおおおおああああああああああ!!!!!!!!!!
    どんだけええ子なんですか!!!
    ゆるりーさん!!!!!!!!!!!!!

    2013/12/09 18:15:08

    • ゆるりー

      ゆるりー

      八つ当たりすると体が痛いじゃないですか。
      それに後片付けが面倒じゃないですか。
      だから私は掃除派です←

      2013/12/14 12:59:26

  • しるる

    しるる

    その他

    毎回、思うが……天才か!あんたは!!
    しかも、悟りの境地に中学生って!ww

    勉強させてもらっています、はい

    しかし……ゆるりーさんもかわいいなぁw
    私の本性が、かなりあ荘でも徐々にバレバレになってきたせいか、みんなも心をひらいてくれたのかな?ww

    というか家賃は、ゆるりーさんはイベント関連でも出してくれているので、もうすでに納付済みっていうかww


    【ゆるりーは、赤い拡声器(15)を手に入れた】
    これで【ああああああああああ】って叫べますww
    さらに赤いので、通常の三倍の音量が出ますw
    拡声器って普通赤くね?って思った方は、天才

    2013/12/09 14:56:22

    • ゆるりー

      ゆるりー

      天才じゃないです!w
      毎日何かしら悟ってます←

      けっこう本心出てますよ?
      ほら、どっぐちゃんが可愛いとか←

      え?拡声器って赤いんですか!?((

      2013/12/14 12:58:39

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    このシリアスとギャグを均等に混ぜ込むというなかなかできない芸当をね。
    ストレス解消で書けてしまうあなたを私は心から尊敬します。
    ですからどうしても死にたくなったら私に言ってください。
    『どっぐちゃんの熱い抱擁(という名の全身破壊攻撃)』という名の最上級の介錯を差し上げます(待て待て待て!!
    以上混ぜ込むギャグが血腥いことに定評のあるTurndogの温かい言葉でした(自分で言うな

    叫びたくなるよねーww
    去年の今頃は叫んでばっかりでしたよー……
    そしてその勢いでよく鉛筆が折れました(おい
    折った鉛筆は20本以上になるかな(折りすぎだ
    あと目の前でゲンゴロウが逃げ去ったら私は驚く前に壁を破壊し窓を割り蛍光灯を電線に向かって投げつけ泣き叫ぶと思います←

    あんた、ええ子やな……(本人からいただきました
    私は苛立つとその辺の物に頭突きをするので迷惑な存在です←
    ……痛くないか? 私は外側も中身も石頭なので(おい
    壊すものはたいてい木材なので後片付けも簡単です(だからどうした

    そして清花ちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!
    これでヴォカロ町外伝がようやく清花ちゃんに遠慮なくからめる!!(そこか
    流石どっぐちゃんとべたべたしてるだけあって清花ちゃんに対する心配りもばっちりだね!
    流石どっぐちゃんの友達認定第2号だね!←

    本文や投コメからいろいろあったようですが……まぁ詮索はしないですよ、詮索は。
    唯ね、自分の行動がただの悪あがきで終わることなんか、それこそ絶対的権力を敵にでもしない限り絶対にないんですよ。
    我々若い人間の場合、特にね。どんな言葉も、巡り巡って誰かのためになり、何かを変える小さな一つの力になる。巡った想いは、やがて大きな力と成りうる。
    本当に悪あがきだと思うなら、自分の行動を社会に巡らせてみればいい。必ずどこかで、実を結ぶ。

    だから私は、『巡』という言葉が大好きです。

    だから私は、『巡音ルカ』が大好きです(台無しだよお前はっ!!!!!

    感想まとめ:茶猫さんと俺が安定すぎワロタ。
    もうすぐクリスマスセールでどっぐちゃんフィギュアが安くなるので少し検討してみてください(宣伝乙

    2013/12/09 01:00:19

    • ゆるりー

      ゆるりー

      元々はシリアス専門だったのですが←
      どっぐちゃあああああああああ((
      血腥いwww

      あ、鉛筆を折るシーンをいれるのを忘れていた←
      叫びたくなりますよねw
      ゲンゴロウ…大惨事ですね!w

      頭突き!?
      昔、変なところに頭ぶつけて、ものすごい大出血をしたアカウントがこちらです←
      木材!?w

      ターンドッグさんと清花ちゃんの絡み、見たいです!
      友達認定第二号w

      お、おぉ…凄くかっこいいことを言っている!?
      と思ったら、ルカさんwww台無しですよ!wwww

      ええ、まあ、いろいろありましたよ。


      まとめw
      茶猫への扱いは普段からこんな感じですw
      検討します。

      2013/12/14 13:08:06

クリップボードにコピーしました