こうして、俺の歓迎会が始まった訳だが……

「なんつう規模だよ……」

数にして200は下らない亜種ボカロ達が、順番に舞台に上がって歌や踊りを披露してゆく。今は初音ミクを男にしたみたいな奴(おそらくは初音ミクオ)と、KAITOを女性化したみたいな奴(おそらくはKAIKO)がカンタレラなる楽曲に合わせ踊っている。

「これでも少ない方よ。亜種は総数で1500は下らないんだから」

とは隣の雑音の弁。大真面目な顔で言うのだから恐ろしい。

「そういえば、公式ボカロ達は来てないんだな」

「たかが無名亜種の歓迎会程度に呼べる訳ないでしょうが。一応今日のこれだって有志が集まって開かれたものだから呼ばれてパフォやってんのは誰一人いないのよ?」

「マジでか……」

今まで見たパフォーマンスは全てタダで行われていたという事だ。ますますとんでもない。

「だから言ったでしょ?みんな自分が楽しみたいだけだって。そうでもなきゃ顔も知らない奴の為に歌ったりしないわよ」

「だな……そうだ、お前はなんかやらないのか?」

「別に。なんで金にもならないのにそんな事しなきゃならないのよ」

「とか言って……本当はノイズ混じりの歌声を晒したく無いだけ……」

と、突如背後から会話に乱入してくる陰があった。
黒のツインテといい、黒を基調にした服装といい、雑音にそっくりだ。雑音に話しかけている筈なのにどこか中空を見つめている。

「ふざけんな外れ。あんただってパフォやってないくせに。まああんたの呪いを聞きたがる変人もここにはいないからありがたいけど?」

なるほど、こいつがそうか、と思い俺は改めて外れミクを眺めた。見れば見るほど雑音に瓜二つだ。違いと言ったら目の色ぐらいなものだ。
外れは焦点を雑音に移すと、無表情な顔を微かに笑みの形に歪めた。

「ふっ……よく吠える……」

「こんの出来損ないがあああ……!今日こそ動作不良に追い込んであげようかしら……!!」

「望む所……スクラップにしてあげる……」

睨み合う雑音に外れ。
ゴゴゴゴゴ、と両者の間の空気が音を立てているような気がした。
気合い十分の雑音に俺は恐る恐る声をかけた。

「ざ、雑音様……?」

「あぁ!?何よシグの分際で」

「そのー、そろそろ司会に戻って頂けたらとー……」

壇上ではミクオとKAIKOのパフォーマンスが終盤にさしかかっている所だった。しかし視線の殆どは一触即発の二人に奪われていてちょっと可哀想。

「あ、やばっ。外れ、次あった時は容赦しないから覚悟しなさいよ……クオにカイコありがとう!超格好良かったー!!」

雑音がマイクを構えて叫ぶ。どうでもいいが司会やってる時だけこいつのテンションが妙に高い気がする。
雑音が再び司会に戻ると、外れも無表情に戻り席についた。彼女は何がしたかったのだろうか?

「さーて、次はこっちから代表一人あげてシグに歓迎の言葉を贈るのイベント!代表は本当は私だったけど今日唯一来てくれた大御所が一人いるから、せっかくなのでその人に任せる!じゃあ、ハク、宜しく!!」

(……っ!)

弱音ハクか、聞いた事あるな……と思い壇上を見つめた時、俺は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

グラマーな体格で、長い白髪はリボンで結ばれポニーテールになっている。憂いを帯びた赤い瞳は今はきつく閉じられ、念仏のように小声で何かを呟いている。

ヤヴァイ……モロ好みだ……!

(こ、こんなに俺の心臓を狙ったかのように打ち抜ける奴がいるだなんて……!く、これはびんぞこに感謝せざるをえない……!!)

要するに一目惚れだった。
ハクさんはしばらく呟いた後意を決したように若干俺の顔より下をを見ながら話し出す。

「え、ええと、私なんかがこんな大役をするなんて本当に恐れ多いんですけど……はぁ、ネル、なんで誘っておいてドタキャンするんだよ……ていうかそもそもどうやったらこの中で一番有名なキャラに代表を任せようって話になるのかがおかしいっていうか……私も思わず押し切られちゃったけど……」

もはや途中からぼやきに変わっているが、そんなハクさんも素敵だ……

「ハクさん、しっかり!」

「あ、はいっ」

ギャラリーの叱咤激励を受け、ハクさんは再びしゃんとなった。今度は真正面から俺に視線を合わせる。

「わ、私こういうの苦手っていうか根本的に向いてないんですけど、その……私達はシグさんを歓迎します!私はともかく他にはしっかりした人達も多いので、困ったら彼らを頼って下さい!あと、ええと……頑張って下さい!じゃ、じゃあこれで!!」

そこまで言うとハクさんは壇上から逃げるように去って行った。

(ああ、可憐だ……)

思わず溜め息が零れる。

「ありがとうー!無理強いしちゃってごめんねー!!じゃあ次はシグ、いよいよ出番よ!一言!!」

「え?あ、ああ。わかった」

「……宣伝」

(……!?)

雑音の声で正気に戻った俺が席を立ち壇上に登ろうとした時、雑音が耳元でつぶやいた。思わず振り向いた俺に、雑音が意味深な目配せをする。

(まさかこいつ……びんぞこの部下!?)

俺の脳が一つの可能性を提示する。そして……

(何故俺はびんぞこの情報収集速度の速さに疑念を抱かなかった?普通だったら幾らロボットでも異性を同じ部屋に入れようとはしないんじゃないのか?それにびんぞこが幾らアホとはいえ、本当に俺の設定を隠匿していなかったのか?何より、どうして俺はピアプロ内に組織の関係者が他にはいないだろうと決めつけていた?)

考えれば考えるほど浮かび上がる疑問は、しかし雑音も俺と同じ組織の一員であると考えれば説明ができてしまう。

(このままでは……)

脳裏にびんぞこのあの言葉が閃く。

『断るというのならそれもいい。あまりお勧めはしないがね……』

断った時の事を暗示するかのごとく、俺の全身に強烈なプレッシャーがのしかかる。
それを発しているのが雑音とも限らない。

(このままでは……殺される)

壇上に登った頃には、俺の手は冷や汗でびしょ濡れになっていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説【とある科学者の陰謀】第四話~天国と地獄~そのー

第四話です。間違えて同じものを2つ投稿していたので1つ消しました。MAMIさん書き込み下さったのにすみません……

ハクさん登場しました。シグがハクさんにベタ惚れ過ぎてちょっとキモいのは作者がハクさんを好きすぎる気持ちが出てしまったからです許して下さい←
不愉快だったら修正します!

外れミクも出しました。自分的には雑音と外れは絶対ライバル関係だと思います。性格は雑音同様適当ですが、どうでしょう?

そしてちまっとミクオとカイコも。今回が地味に小説初登場キャラは今まで一番多いですね。
後半も頑張らねば!

閲覧数:237

投稿日:2011/05/19 19:56:17

文字数:2,532文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 絢那@受験ですのであんまいない

    ハク姉を好き過ぎる気持ち分かります! だって可愛い←
    クオとカイコのカンタレラ…見てみたいです。なんか面白そうwww

    そっかぁ、公式さんは来ないのですね…微妙に可愛そうwww
    まあ実体化されて多忙ですからね。それだけVOCALOIDは人気なのだ!ふはははは!(←キモい)

    シグ、ハクに惚れちゃったねwww2828!

    2011/05/19 20:40:57

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      おお、わかってくれますか!ハクさん最高!!
      はい、自分も見てみたいです。だからやったんですが←
      リントレンカでジェミニとかも面白そうですよねー

      仰る通り実体化公式ボカロはとてもなく忙しいのでこれないんだと思います。まあ、そもそも情報が言ってない可能性もありますが←
      VOCALOID万歳!VOCALOIDは世界を救う!!←

      はい、それはもうwwタイトル通りハクはシグ(と自分)にとっての天使ですww

      2011/05/19 21:41:40

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