思えば幼い頃から、身体は強い方ではなかった。
冬にはよく流行り病にかかり、義姉に看病してもらっていた。
いつもは働きにでる兄貴も、病にかかるとずっと近くにいてくれた。
そのせいで、いつも義姉も兄貴も風邪をひいて、それを俺が看病していた。
それが、幼い頃は嬉しかった。幸せだった。
風邪をひけば、いつも誰かがいてくれたから。
***
絶対この病だけは、人様にはと。
そう思った。
咳をするたびに、血生臭くて。
ロクに飯の味もわからくて。
今の時代じゃ―――治せないこの病。
ゴホッ。ゴホッ。
「(今日はいつもより酷いな……)」
ゆっくりと、でも、確実に。
自分の身体は朽ち果てていっている。
もうすぐ、動かなくなる。
「ご飯、持ってきたよ」
扉の向こうから聞こえる声は、いつも決まっていて。
それでもその声が、俺は好きで。
朽ち果てていってる身体を毎日起こして、彼女が来るのをまってたりする。
「あ、また起きてる!!
身体に悪いから、起きちゃダメだって言われてるでしょ?」
扉を開けて、かける声はいつもそれで。
俺はそんな言葉に、いつもと同じように「大丈夫だ」って返事をした。
「またそんな事言って…
必要以上に起きてたりするから、治らないんだよ?」
俺の顔を見る彼女は、まだ知らない。
俺の病が治らないことも、もうすぐ、俺がいなくなってしまうことも。
「ほら、朝ご飯もこんなに残してる!!
ご飯食べれないぐらいしんどいのに、起きてるなんてダメでしょ?」
あぁ、心配してくれている。彼女が、俺を。
そんなことを思いながら、咳を堪えようと試みた。
彼女は、必要以上に心配性だから。
「顔色も良くないし…わかった?」
「…あぁ」
「よし、じゃあ今度来る時はちゃんと寝ててね?
また、来週来るから」
あ、ダメだ。
そう思ったと同時に、咳がこぼれた。
ゴホッ。ゴホッ。
ゴホッ。ゴホッ。
こぼれた咳は、いつもより血生臭くて。
あぁ、血がでてきたなと、ひとり冷静な自分がいて。
ドロっとした生ぬるい液体が、口と覆っていた手を伝っていく。
「…え?」
彼女は大きな瞳を見開いて、俺を見ていて。
必死に咳を止めようと思ったけど、止まらなくて。
ゴホッ。ゴホッ。
咳をするたびに生ぬるい液体が手を伝い、シーツを汚していった。
***
血をみた彼女はひどく動揺して、俺の病を知りたがって。
俺は彼女に、病の事を全て話した。
病が治らないこと。俺の命がもってあと一年だということ。
全て全て、話した。
話し終えた、と同時に肩に強い衝撃を受けて。
次に見えたのは、天井と彼女の顔だった。
「…どうして?」
彼女の涙が、俺の頬を濡らした。
それは、ずっと忘れてた人間の優しいぬくもりだった。
「私…イヤ。だって、ずっと一緒に、いてるのに。
ずっとずっと、傍に居てるって、約束…したのに。
ねぇ、何で?どうして?いなく、ならないで。一人に、しないで」
まだ、感じていたい。まだ、失いたくない。
そう思いながら、俺は彼女に微笑んだ。
最初で最後の、願いのために。
あぁ、神様仏様。
ずっとなんて、いわない。永遠なんて、いわない。
だから、来年の春まではせめて――…。
恋桜 side少年
【恋桜 side少女】の少年sidです。
ごめんなさい。文才がないんです。
よかったら、感想やら何やらお願いします。
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