「はい、了解です。そうしましたら明日の午後三時に先方との打ち合わせに向かう事になっていますので・・・」

 ドアの鍵が開く音がしたので玄関へ向かうと、マスターは靴も脱がず、立ったままで携帯で何か話し込んでいる様子だった。きっと仕事に関係している話だ。だって、顔が真面目してるから。わたしは邪魔にならないように、マスターの電話が終わるのを傍らでじっと待った。

「・・・では、お疲れ様でした。」

 電話が終わるとマスターは、はあ、と大きな溜め息をついた。家へ帰って来ても仕事の電話だなんて。本当にご苦労様だこと。

「マスター、お帰りなさい!」
「ああ、ミクか。ただいま。帰って来たのに玄関でつっ立っていて悪かったなあ。」
「ううん、全然。お仕事の話だったんでしょ?」
「うん。帰って来てまで仕事仕事って勘弁して欲しいよなあ・・・あ、そうだ。」

 マスターは何かを思い出したらしく、鞄と一緒に携えていた白い箱をわたしに差し出した。

「帰りに駅で美味しそうなケーキ見つけてさ。うっかり衝動買いしちゃったんだよ。一緒に食べよう!」
「ええーっ、晩ご飯の前なのに?」

 箱を開けてみると、可愛らしくホイップされたショートケーキや、黄色くてぷるんとふるえているプリンが綺麗に並んでいた。確かにマスターの言う通り、とても美味しそうだった。

「仕方ないなあ。付き合うよ。」

 しぶしぶそう答えると、マスターはわたしから箱を掠め取り、その代わりに私に鞄を押し付けてリビングへと向かう。その軽い足取りと言ったら。少しスキップが入っていて随分気分が良さそうだった。

「ねえ、マスター。」
「なにー?」
「男なのに甘いものが好きって、何か変わってるよね。」
「いいじゃん。美味しいんだからさ。美味しいのには老若男女関係無いって・・・あ、でも友達が家に来ても絶対言うなよ!恥かしいから!」

 恥かしい、って。老若男女関係無いって言ったばかりなのに矛盾してる。好きなら堂々と皆の前で食べればいいのに。でもわたしはちょっぴり嬉しかった。大袈裟過ぎるかもしれないけれど、これはつまり、マスターの秘密をわたしだけが知っている、という事で。

「ミク、早くしないと全部食べちゃうよー?」
「はいはい。今行きまーす。」

 わたしは鞄を抱え、マスターを真似てスキップしながら後に続いた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

あの甘さを君はしらない

折角登録したので、ひとつ文章を書いてみました。
要するに女子は好きなひとの秘密を握るとやたらとテンションが上がるよね!ってはなしです。

閲覧数:150

投稿日:2009/02/11 23:04:28

文字数:984文字

カテゴリ:小説

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