7.
「さて、とりあえずは事情聴取といきましょうか」
――引き続き、グミの部屋にて。
一応あの袴四人衆には犯人が捕まったからと伝えて、探索は中止してもらった。そのまま解散させようとしたのだが、万が一に備えてと、皆はグミの部屋の前で門番よろしく待機している。
メンバーは変わらず、私とグミ、それから初音さんと変態の四人だ。グミは変態が気絶している間に着替えた。だが、グミの着替えの様子をを初音さんがしっかり直視していたことは報告しておくべきだろう。グミは全身びしょ濡れだったので、もちろん下着も替えている。その様子をまぶたに焼き付けるかのようにしっかりと見ていた初音さんは、きっと本性がエロいに違いない。初音さんの視線を感じて、顔を赤くしながらも胸を見せつけるようなポーズまでとっていたグミはといえば、純粋でエロいというなんとも矛盾した性格の持ち主だと思う。だけど、グミのウエストのくびれは芸術的だ。それは間違いない。あのくびれは私も欲しい。
私服に着替えたグミは、ひらひらしたフリル付きの黒のミニスカートに同色のレギンスをはき、ぴっちりとした白のボタンシャツを着ていた。可愛い格好であることは認めるが、なぜこの期に及んで胸を強調する服を着る。もう遅い時間だし、すぐに寝てしまうのだから、もっと室内着っぽいものにすればいいものを。そんな服だったら寝る前にもう一回着替えなきゃならないではないか。まさか、そうしてサービスシーンを増やすのが目的なのかしら。
てゆーか、そういった可愛い格好をした挙げ句に、パーティーグッズの鼻と付けひげなんかがついたオモチャみたいなメガネを頭に載せるのはセンスがおかしいと思う。おかげでオモチャのひげがちょうど眉毛のところにきてしまっていて、なんだかもうつねに変な表情をしているようにしか見えない。でも、いくら言っても別のメガネにはしてくれなかった。どんなポリシーなんだ、それは。
「せ、拙者はなにも喋らんでござる」
そう言う変態は、グミの勉強机用の椅子で後ろ手に手錠をして、全身をガムテープでぐるぐるに巻き付けられていた。さすがにここまですれば逃げられまい。
私は袴四人衆から借りた竹刀を、手加減せずに変態の脳天に振り下ろした。
バチン、とかなりいい音が鳴り、変態が悶絶する。
「あ……甘いでござるな。拙者はそんなもので音を上げたりはしないのでござる。お主のような美少女からぶたれるのは、つらいとか痛くて嫌だとかいうよりも、むしろイタ気持ちいい感じなのでござる。ようするにご褒美のようなものでござブヒャッ!」
気持ち悪かったので、喋り終わるのを待たずに顔面を突いた。全力で。
変態は椅子に縛り付けられたまま勢いよく床に倒れる。頭蓋骨が骨折してもおかしくないくらいだったというよりも、骨折して欲しくてたまらなかったのに、そいつは特に痛そうな表情ではなかった。というか、むしろ頬がゆるんでいる。こいつ、竹刀が本気でご褒美なのだろうか。それは、なんて言うか、本気で気持ち悪い。全力で引く。
「お嬢様。この者、痛さでは屈服できないようですね」
「そうみたいだけど、でも……あなた、なにか他に方法があるかしら?」
グミは少し考えて、とんでもない案を言ってきた。
「そうですね。わたくしとお嬢様でこの者を感じさせるというのはどうでしょうか」
「……。一応確認しておくけれど、感じさせるって?」
「具体的に説明させて頂くと、例えば(ピー)を揉んだり、(ピー)を舐めたり、(ピー)を刺激し、かつ快感を寸止めして口を割らせるという――」
「却下」
聞くべきではなかった。
さすがに私も恥ずかしくなってしまうくらいの卑猥な発言過ぎる。自主規制音でごまかさなければ、間違いなくピアプロから削除されていた。危ない。グミは下手をするとこの変態よりも変態的だ。
……あと、一応言っておくけれど、変態が気絶している間に確認したが、この変態は女だった。決して男ではない。これは変態のためではなく、グミの名誉のために言っておく。グミの発言は相手が女であったために出てきたのであり、男に飢えているわけではないのだ。基本的に彼女の貞操観念は高い。たぶん。きっと、おそらく。……そうであって欲しい。
「そうでございますか。効果そのものはかなりあるかと思いますが……」
なぜか若干悔しそうなグミ。
そして変態もしきりにうなずく。
「うむ。拙者も感じやすい体質でござるが、寸止めは耐えられんでござる」
「あ……巡音先輩がダメなら、あたしとグミ先輩ですれば……」
なぜか初音さんが乗ってきた。
「却下! 問題はそこではないの」
「では、わたくしとお嬢様で初音さんを感じさせるというのはどうでしょうか。お互い見知った間柄であれば、お嬢様も嫌ではないでしょう? しかも、相手が学園の歌姫ともなれば」
「あ、あたしもそれだったら……」
「いや、まぁ、それはそうだけど……って違う違う。グミ、あなた当初の目的が影も形も残ってないわ」
一瞬騙されそうになってしまった。不覚。
「そんなことはござらん。目の前で三人が絡み合うとなれば、拙者は洗いざらい白状するでござる」
「黙れ」
「ぎゃん!」
変態の脳天に、もう一撃お見舞いしてやった。これでこの馬鹿はしばらく沈黙するはずだ。
「……ちっ」
「グミ。あなた今、舌打ちした?」
「滅相もございません。いくらわたくしがお嬢様とイチャイチャしたいからといって、舌打ちなどという行儀の悪いことをするはずがないではありませんか」
「そそそそうですよ。グミ先輩は巡音先輩を独り占めせずにあたしも一緒にって提案してくれたんですから、そんないい人が舌打ちするだなんて考えられないじゃないですか!」
二人とも、いろいろ問題発言が多すぎる。というか、自らの欲望を素直に口にし過ぎだ。自重という素敵な日本語があるのだが、そんな言葉、きっと二人は知らないんだろうな。
「とにかく、却下よ。問題なのはメンバーじゃなくて行為そのものなの。こんな公衆の面前でそんなことできるわけ無いでしょう」
「お嬢様、この部屋にはそこでのびている変態を頭数に入れたとしても四人しかおりません。公衆の面前とはまた奇妙なことをおっしゃいますね」
よくもぬけぬけとそんなことを。
ほら、ここにはこんなに沢山の読者がいるというのに。
……。
……たぶん、沢山の読者が。
いや、ここは控えめに数人の読者、にしておこうかな。
「そうですよ巡音先輩! ここには私たちしかいないんですから、そんな周りの目を気にする必要なんて無いじゃないですか……」
初音さんがそうつぶやいて私の方ににじり寄ってくる。まずい。この子、目が据わっている。グミみたいにあたし達の状況をよくわかっていないだけに、この子への対応は大変だ。
「こ、こら。初音さん、落ち着きなさい」
「お嬢様、流れに身を任せるのです。相手は初音さんです。正直に申し上げて、彼女ほどの美少女からのアタックを拒否するお嬢様の気が知れません。もちろん、そこはお嬢様の嗜好も考慮すべきではありますが、彼女以上の美少女をお望みになるのはさすがに高望みのし過ぎにございます」
「だから、そういう問題じゃないって何度――」
「なにをおっしゃいますか。読者の皆様も、このようなシーンを望んでいるに違いありません。その美貌と知性で巡音学園において絶大なる支持をお持ちのお嬢様と、誰にも真似できない奇跡の歌声を持つ純粋かつ可憐な美少女のからみがあれば、削除されるどころか、ブックマークの増加さえ見込めるでしょう。ピアプロのトップページにおける『注目の作品』に表示されることも夢ではありません」
「こら」
考えがあくどい。
というか、いろんな意味で最悪すぎる。そこまで露骨に書いてしまったら、個人のホームページに再掲載する時の修正量が多くて大変になってしまうではないか。てゆーか個人のホームページの方には削除というものがないから、削除がどうとか言っている部分は全部無かったことになってしまうかもしれない。
書き手が悩む様子が手に取るようにわかる。自業自得だと言ってしまえば、それは否定できるはずもないのだけれど。
「ともかく、少なくとも今はそういうことをするために私はここにいるわけではないの。初音さんもそれはわかっているでしょう?」
その場に座り込んで、見るからに落胆する初音さん。涙さえ浮かべそうな様子である。
「は、はい……。ごめんなさい……」
「あなたも、どこの誰だかわからないこの変態の前でそんなことをしたくはないでしょう?」
そっと手を差し伸べ、初音さんの頬にそえる。
そんな彼女は、私の言葉に少しだけ考えて、我慢するかのようにおずおずと言った。
「えと……その、どちらかと言えば……そうです、ね」
「……」
曖昧な返事だった。
私と(ピー)できるのなら、あの変態に見られてしまうくらいのことは問題ではないということなのだろうか。思わず私も自主規制音を入れてしまったが、ここはどうかなんとなく察して欲しい。グミや変態の発言でならともかく、私自身の発言のせいで削除されてしまうわけにはいかないのだ。私にも体面というものがある。
「……お嬢様」
グミに呼ばれて、視線だけ彼女の方へと向ける。
「大変申し上げにくいのですが……、この七話が始まってから、まだ一つも話が進んでおりません。だらだらと意味のない会話ばかりを続けるのが悪いことだとは言いませんが、さすがに八話の冒頭になってもまだこの変質者の名前がわからない状態のままですと、いろいろと今後に支障が……」
かしこまった態度で、グミは慎重に、それでいてとても正確に問題発言だけを選びとったようだった。本来するべきだったはずの言葉――例えば「今日はもう遅いので、この変質者の処遇を決めてしまいましょう」とかだ――は、なに一つとして言わなかった。そのうち、グミの存在そのものが抹消されてしまいはしないだろうか。
「……」
そういうことを、そんなに露骨に言うなと何度言えばわかってくれるのだろう、グミは。しかも、そもそも話を脱線させたのは他ならぬ彼女だというのに。
さすがにグミを竹刀で叩くわけにもいかないが、なにか彼女の暴走を思いとどまらせることのできるいい方法は無いだろうか。まず、手始めに彼女の口にジッパーを縫い付けるべきかもしれない。これは、わりと真剣に考えるべきだ。これからもなにを言われるのかわかったものではないのだから。
「そうでござる。拙者を放置するとは言語道断でござる! そもそも原曲からすれば、拙者は主役でもおかしくないのでござるぞ? だというのに拙者をこのような状態でほったらかすなど……ええい、早く拙者を起こすでござる!」
椅子に縛り付けられたまま床に倒れた状態で、変態がわめいた。
だから、もちろん、無視した。
Japanese Ninja No.1 第7話 ※2次創作
第七話。
ようやくの更新です。
本文には6000文字以内という制約があったのですね。
今回初めて引っかかってしまったので、計測してみると6812文字でした。
なので、今回は「前のバージョン」機能を利用してます。第八話に行く前に、前のバージョンの方を読んで下さいませ。
「AROUND THUNDER」
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