次の日。昼を少し過ぎたくらいの時間にメイコが再び図書館を訪れると、來果の言葉通り閲覧用の席に腰かけて本を読んでいるカイトがいた。青い髪に長い裾の上着。そしてマフラー。まさしくカイトである。初めて見る自分以外のボーカロイドに嬉しくなって、メイコはほんの少し歩調を速めてそっとその傍に近寄った。
近づくメイコに気が付かないでいたカイトが、ふと読んでいた本から視線を上げた。あら気が付いてしまったかしら。と思わずメイコが足を止めたが、そんなわけではなかったようだ。
じっとその蒼い瞳が真っ直ぐにひたむきに、何かを見ている。何を?とその視線の先を追いかけると、そこには小柄な女性がいた。ああ來果だ。とその姿にメイコは思わず微笑んだ。
來果は仕事の一つなのだろう、書架の間に立ち手慣れて手つきで丁寧に本を収納していた。いくつかの本を仕舞い終えて、別の棚に向かうために本の乗っているカートを押そうとして。カイトの視線に気が付いたようだった。
ふ、とほんの微かに。本当に注意して見ていないと分からないくらいの微かに。來果の微笑みの質が変わった。仕事中の穏やかさとは違う、メイコに対して見せた人懐っこさとも違う。
それは心の底からの幸せを感じている微笑み。
一瞬、蕩けるような笑みを來果はカイトに向けていた。その一瞬の微笑みに、思わず目が離せなくなってしまう。その当人同士だけの間に在る、喜び。相手だけにしか見せない、幸せ。
見ているこっちがドキドキする。とメイコが思っていると、はた、と我に返った様子で來果は今度はメイコに視線を向けてきた。ようやく傍観者に気が付いたようだ。かぁっ。と遠目から見ても來果が真っ赤になっている事が分かる。照れたように少し笑って。そそくさと行ってしまった來果に、何が起こったのか気が付いていない様子でカイトが首をかしげていた。
「こんにちは。すみません、邪魔をしてしまって」
くつくつと笑いながらメイコが近寄って声をかけると、不意打ちだったのか驚いたように目を見開いてカイトは振り返った。
「え、あ、ああ。はじめまして」
昨夜、メイコの事を來果から聞いたのだろう。驚きながらもカイトはその姿に納得したように頷いて、はじめまして。と頭を下げた。そして次の瞬間、かぁっと先ほどの來果と同じように真っ赤に顔を染めた。
「え、あ、今の」
「二人が見つめ合っていたの、見ちゃいました」
ふふふ、と悪戯めいた笑みをこぼすメイコに、そうですか。と少し恥ずかしそうにカイトは笑いながら言った。
「なんか、つい、マスターを目で追っちゃうんですよね」
照れながら言ったその言葉は、なかなかどうして可愛らしい発言であり。さすがKAITO、である。いやいやKAITOだからこそ、なのか。
聞いているこっちが照れくさくなるなぁ。と思いながらメイコはカイトの横に腰を下ろした。
「でも、確かになんていうか、目で追ってしまいたくなる気持ちがわかりますね」
図書館内なので、囁くよりも小さな声でメイコはそう言った。とはいえボーカロイドの耳ならばこれだけ小さな声でも聴きとる事が可能だ。
向けた視線の先。再び書架の間を、ワゴンを引きながら來果は作業をしていた。慈しむように本を扱う來果の様子は、なんだか規則正しくゆっくりとリズムを刻む古い時計のような、そんな安定感がある。
「來果さんって、表情が柔らかいからか、動きが丁寧だからか、見ていて和むというか、安心するというか…」
「いやあの、俺のマスターなんで」
メイコの言葉を不意に遮るように横でカイトが堅い声を出した。え、と驚いてメイコがカイトを振り返ると、先ほど來果に向けていた眼差しとは一転、険しさを帯びた視線を向けてきた。
「マスターは、俺のマスターなんで。好きになっても駄目ですよ」
そんな事を真顔で言ってくる。
一瞬虚を突かれたように、ぽかんとメイコは目を見開いて。そして次の瞬間、ぶはっと盛大に吹き出した。ここが図書館である事を忘れて大きな声を上げたメイコに、今度はカイトがきょとんと目を見開いた。
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