タグ:KAosの楽園
10件
さて、と來果がアイスを選び終えて、レジへと向かうのを見送り。じゃあ私はマスターにコンビニ限定のケーキを買って帰ろうかしら。とメイコがプリンやゼリーなどが並ぶ棚を眺めていると、不意に横から細い子供の腕が延びてきた。
「私、これが食べたいわ」
そう言ってその子供が手に取ったのは、上にほろほろのクラムが...― チーズケーキと少女・10 ―
sunny_m
カイトと來果のようには、自分たちはどうしてもなれない。離れていても距離を感じさせないような彼らと違って、自分とマスターはどれだけ近くにいてもその間には越えられない距離があるから。
マスターは自分の言葉を受け入れてくれなかったし。自分も又、こうして逃げてしまった。
「けど、ここのコンビニでメイコさ...― チーズケーキと少女・9 ―
sunny_m
「それは、大きなお世話というものよ、メイコ。」
突き放すようにそう言い放ち、マスターは再び真っ直ぐにメイコを見つめてきた。
「ピアノを弾く事は、私にとって好きとか嫌いとか、そういう事じゃないわ」
まるで聞き分けのない子供を諭すようにマスターは言った。
悔しい、腹立たしい、何か言い返したい。けれど...― チーズケーキと少女・8 ―
sunny_m
メイコがマンションに帰ると、ピアノの音が部屋の中に満ちていた。
超絶技巧の音の洪水。ただの騒音になってしまう境目ぎりぎりいっぱいまで施された装飾音。正確なリズム、正しい位置に収まった音階。正確無比な、ただそれだけのピアノの音。
そっとピアノが置かれた部屋を覗くと、大きなグランドピアノと対照的な小...― チーズケーキと少女・7 ―
sunny_m
お前ら爆発してしまえ。と、思わなくは無い光景だけれども。
けれど、お互いが好きなのがよく分かるその様子は微笑ましくも眩しい。お互いを大切に慈しみ、幸せを繋いで冠にしていくような。その様子に、うらやましいな。と思わずメイコは呟いた。
「いいわね、羨ましい」
微かな、心の隙間から落ちた小さな弱い音...― チーズケーキと少女・6 ―
sunny_m
「え、あの、今の笑うところ?」
「笑う所じゃないかしら」
なんとか笑うのを我慢しようとするのだが、堪え切れずに零れ落ちた笑みが、ほろほろと零れ落ちていく。
「いや、なんていうか。さすがというか。初対面でそんな事言われると思っていなかったというか、てか、それ素で言ってるの?」
笑いの発作を何とか抑えな...― チーズケーキと少女・5 ―
sunny_m
次の日。昼を少し過ぎたくらいの時間にメイコが再び図書館を訪れると、來果の言葉通り閲覧用の席に腰かけて本を読んでいるカイトがいた。青い髪に長い裾の上着。そしてマフラー。まさしくカイトである。初めて見る自分以外のボーカロイドに嬉しくなって、メイコはほんの少し歩調を速めてそっとその傍に近寄った。
近づ...― チーズケーキと少女・4 ―
sunny_m
「あの…なにか、お探しですか?」
柔らかな、人懐こい笑顔を連想させる声だった。
声をかけられてメイコが振り向くと、そこには小柄な女性が立っていた。柔らかそうな髪をふわりと肩の辺りで揺らして。知性の宿る穏やかな微笑みを浮かべたその女性はこの図書館の職員なのだろう。
「何か、本をお探しですか?」
「あ...― チーズケーキと少女・3 ―
sunny_m
マスターは確かに音楽的才能はあるけれども、それ以外はいたって普通の小学生なので、昼間は当然のことながら学校に行く。暮らすマンションから少し離れた場所にある私立の小学校。マスターの両親の知人が理事をしているというその私立の学園ならば色々と融通がきくのだという。
毎朝、時間になるとマスターはかっちり...― チーズケーキと少女・2 ―
sunny_m
連なる音が響いていた。正確なリズム、正しい位置に収まる音階、測ったように等分に力を増すクレッシェンド、数値通りのピアニシモ。
正確無比な、ただそれだけのピアノの音がマンションの一室を満たしていた。技術だけで考えたらとんでもなく才能ある人物だと伺える演奏。けれど、ただそれだけの演奏。味もそっけもな...― チーズケーキと少女・1 ―
sunny_m