「え、あの、今の笑うところ?」
「笑う所じゃないかしら」
なんとか笑うのを我慢しようとするのだが、堪え切れずに零れ落ちた笑みが、ほろほろと零れ落ちていく。
「いや、なんていうか。さすがというか。初対面でそんな事言われると思っていなかったというか、てか、それ素で言ってるの?」
笑いの発作を何とか抑えながら、メイコは笑いすぎて落ちた涙を拭いながら言った。
「私にもちゃんとマスターが居ますから。大丈夫よ、あなたの來果さんを取ったりしないわ」
そうメイコが言うと、ようやくカイトはほっとしたのだろう。ゆるゆると安堵するような笑顔を向けてきた。
 なにこれ、初対面の人にここまで警戒されるなんて。と更に笑いの発作に襲われてメイコがくつくつと笑っていると、館内では静かにしましょうね。と苦笑しながら來果が寄って来た。
「もぅ、そんなに笑って。何の話をしてたの?」
そう問い掛けられて、何と答えたら良いものか。とメイコが苦笑を浮かべてちらりと横に視線を向けると、カイトは少し困ったような視線を向けてきた。
 カイトはカイトで、メイコにまで嫉妬した事に対してようやくバツの悪さを感じているのだろう。何も言わないでくれ。とでも言いたげなその視線に、苦笑しながら頷いて、他愛のない話です。と言った。
「ちょっとした失敗談とかそういうのです。ごめんなさい、大きな声出して」
そう言って笑うメイコに、そう、と來果は微笑んで。ふと、その眼差しを愛しむように細めた。
「やっぱり二人が並ぶと、絵になるね」
「そうですか?」
そう首をかしげるメイコに、やっぱり兄さんと姉さんだね、と屈託のない柔らかな笑みを來果は浮かべた。
 MEIKOの対としてKAITOは造られた。確かに二人が並べば絵になるだろう。けれど、自分としては先ほどのカイトと來果が見つめ合っている様子の方がなんだかしっくり感じたけれど。そんな事をメイコが思っていると、ふと、横でカイトが嬉しそうに微笑んだ。何をそんなに嬉しそうにしているのだろう。そう不思議に思ったメイコの耳に、あのマスター、とカイトの浮き立つような声が響いてきた。
「あの、俺の願望も入っていますが。もしかして、マスター今、妬いてました?」
予想外のカイトの言葉に、え、と思わずメイコは吃驚した声をあげた。
 いやいや嫉妬してたのは貴方の方でしょうが。と突っ込みたい気持ちを抑えながら來果の方に視線を向けると、來果もまた驚いたように目をぱちくりと瞬かせている。
「え、そんなことないよ」
そう驚いたように來果は言った。
 けれど、その声質が今まで聞いたもののどれよりも上ずっていたから。
 あれ、とその事に更に驚くメイコの目の前で、ゆるゆると困ったように來果の眉がハの字に下がっていった。自分でも隠しきれないと分かってしまったのだろう。情けなさそうに、困ったように眉を下げて、ううん、そんなことある。と小さく來果は呟いた。
「ううん。本当はちょっとだけメイコさんに妬いちゃった」
信用していないわけじゃないんだよ。でも、なんか止められないっていうか。
 そう言い訳のように言葉をつづけて。真っ赤な顔で苦笑しながら來果はそう言う。そんな來果にカイトは口元を押さえるように手をやって。どうしよう。とそれでも緩み切った表情で言った。
「俺、顔がにやけるのが止まりません」
どうしよう幸せすぎて俺本当に爆発する。そんな物騒な事を言うカイトに、來果もまた表情を緩めて。爆発したらだめだよ、と柔らかく笑って。手を伸ばし、カイトの口元を押さえていない方の手をぎゅ、とひとつ握りしめた。
「仕事に戻ります。二人とも、あまり大きな声でしゃべらないようにね」

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― チーズケーキと少女・5 ―

閲覧数:154

投稿日:2011/05/29 09:39:23

文字数:1,523文字

カテゴリ:小説

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