マスターは、自室の隅でうずくまる姿を気に留めながらも、椅子に座って読書を続けていた。
昼間に部屋を訪ねてきて以来、そこから動こうとしない。
窓から吹き込む風はじっとりと重い。
一雨来るかな、と本から窓の外に目線を向ければ、…軽やかに走る緑と、華やかに前へ進む紅、そして迷い歩く黄金色が目に映った。
「…ミクは大丈夫そうだね」
マスターがこぼした言葉に、部屋の隅の影が顔を上げる。
「ますたぁ…」
「情けない声を出すものじゃないよ」
「ですけどぉ…」
ぱん、と音を立ててマスターが本を閉じる。じろりと情けない声の主を睨み。
「カイト。流石にいい加減にしなさい」
「そう言われましても…」
「…全く」
言いたいことがあるならとりあえず聞くから、と呆れたように言われ、カイトがしょんぼりしたまま呟く。
「レンくんが…、最近僕を避けてるんですよー…」
「ああ、そうだろうね」
「いつもなら、一緒に練習しようって言ったら、すっごく喜んでくれるのに…」
「そうだね」
男同士だからだろうか。レンは新曲をもらう度にカイトに練習に付き合ってもらっていた。
カイトも頼られれば嬉しいもので、一緒に歌ったり、アドバイスをしたり、色々と構っていたのだ。
だが、今回の曲に関しては、…最初に一回だけ一緒に練習して以来、全くそんなことはなくなっていた。
「今朝なんか、顔も合わせてくれなかった…」
「そうだったね」
「リンちゃんもよそよそしかったし…。うぅ、僕何かしたかなあ…」
カイトがうじうじと床をいじり始める。マスターは改めて深いため息をついた。
「お前ね。ブラコンシスコンもいい加減にした方が良いよ?」
「妹さん大好きなマスターにだけは言われたくありません…」
「そんなところまでわたしに似なくても」
「似たくて似たわけじゃありませんよ…」
歳の離れた妹を溺愛しているマスターを、カイトは良く知っている。
「メイコに対してはあんなに強気なのに、どうして弟妹に対してだとそうなるかな」
「強気じゃないです…。素直に思ったこと言ってるだけです…」
「…そうか」
「でも、今朝レンくんに避けられてへこんだ話を、そのままメイコさんに話したら、怒られちゃいました…」
「『もう少し周りと自分をちゃんと見なさいこの莫迦』といった辺りかな?」
「その通りです…」
「メイコはそう言うだろうね」
「…でも、やっぱり、良く分からなくて…」
自分なんてどうやって見れば良いんですか、とぼやかれ、マスターは苦笑を浮かべて窓の外へ目線を投げた。
夏の最中、迷い歩いていた人影が、庭の一角で足を止めている。
「とはいえ、ここでお前が落ち込んでいても、何も解決はしないよ?」
「…そうですけど…。マスターは何だか、落ち着いてますね…」
恨みがましく見上げるカイト。マスターは外の風景に見入ったまま、唐突な言葉を投げた。
「挫折なくして成功は在り得ない、と、わたしは思うんだ」
「…え?」
「大切に大事に囲い込まれて咲く温室の花も嫌いではないけれどね」
窓の外、マスターの目線の先には、空に向けて花開く黄色に見惚れているレンが居た。
しばし花に見入った後、…決意を固めたように、家へと歩き出すその姿。
「楽しみだよ。一体どんな花を咲かせてくれるのか」
「マスター…?」
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