目前に迫る絶望を打ち破るため、俺は親指のスイッチを押し込んだ。
その瞬間凄まじい振動が俺の腕を体後と揺るがし、前方で眩いマズルフラッシュが巻き起こった。
ミニガンから打ち出された弾丸がレーザーのように光線を連ね、ガンシップに吸い込まれていく。
俺はひたすらスイッチを押し続け、次の瞬間、光線に貫かれたガンシップのエンジンから火の手が上がった。
動力源であるエンジンをやられた以上、この巨大なヘリにもはや飛び続ける力は無かった。
ガンシップは火の手に包まれ、火球と化してから森林へ墜落し、爆発した。
「よし・・・・・・!」
しかし、まだこれで希望が見えたというわけではない。
大群の中の一機がやられたところで、敵の勢力が衰えることはない。
今度は三機ものヘリが俺達の乗るブラックホークへ横付けすると、ドアが開き、中から数人の機械歩兵がこちらに銃を向けている。
次の瞬間には俺めがけて弾丸が飛来した。
無論、俺はこのミニガンで反撃し、兵士達を粉々に吹き飛ばすと同時にコックピットに容赦ない機銃掃射を加えた。
アクリル製のキャノピーが吹き飛ぶと同時に、パイロットも血の霧となってコックピットから吹き飛ばされた。
赤く染まったヘリが操縦士を失って森へ激突する。
だが、残された二機に更に加勢が加わった。
「チィッ!!キリが無いな・・・・・・!!」
俺が舌打ちすると、タイトの援護をしていたシクが、こちら側にスティンガーを構えた。
「援護するよ!!」
「頼む!!」
ブラックホークが展開している高度な妨害電波によって敵は対空ミサイルを放てないはずだか、それは同時にシクのスティンガーも使えないことを意味している。
だが、俺の掃射の合間にシクが目視でミサイルを放った。
一直線に虚空を突き進んだミサイルはそのままヘリのエンジン部に激突し、火の手を上げた。
「凄いな・・・・・・。」
俺は感嘆の声を漏らした。
この状況でミサイルを当てるには、ミサイルの弾速と二機のヘリの相対速度が分からなければならない。
恐らく、シクは直感的、あるいは猛烈なスピードの判断力、思考能力でそれらを一瞬で計算し、ヘリにミサイルを当てるための正確な角度を割り出したのだ。
しかも、シクはそれを成功させた。百キロ以上のスピードが出ているこの状況で。
俺はほぼ無意識にスイッチを押し続け、群がるヘリの群れに次々と穴を開けていく。
一機、また一機と、ヘリが森林に突入し、盛大に爆破する。
タイト側も大分好調のようだ。
この調子だ。この調子でいけば・・・・・・。
生き延びられる!生還することが出来る!!
そのとき、俺の目の前にいた残り数機程度のヘリが、完全にブラックホークの背後に張り付いてしまった。
「後ろに回りこまれた!!」
タイトが銃座を回そうとするが、背後まで旋回するわけが無かった。
「ヘリを回すよ!みんな掴って!!」
網走博士の声が聞こえた瞬間、俺の体の銃身が一瞬真横に吹き飛んだ。
次の瞬間には、目の前に真正面から俺を睨み付けるヘリがいた。
そして、ヘリの一機が主翼下にあるロケットランチャーから無数の白煙を撒き散らした。
敵は誘導弾の発射を不可能と見て、無誘導弾を使ってきたのか。
「ロケットミサイル!!迎撃して!!」
シクはスティンガーを捨てると、腰からハンドガンを取り出した。しかし、それはとてもハンドガンとは言い難いサイズの、二匹の怪物だ。
白銀の怪物と、漆黒の怪物。
それはまるで、天使と悪魔を思わせた。
俺がミサイルに向かって掃射を開始すると同時に、怪物もそれに劣らぬほどの掃射を開始した。
数十発単位で迫るミサイルに、俺とシクが弾丸の嵐を叩き付け次々と花火に変えていく。
一発のミサイルがその嵐をすり抜け、俺の眼前まで迫った。
「畜生・・・・・・!!」
「伏せてッ!!!」
シクの怒号が反射的に俺の体を制御した。
銃座に座ったまま低く上体を伏せると、シクが片手に持つ漆黒の怪物が咆哮の如く銃声を放ち、目前でミサイルが爆発した。
拳銃でミサイルを撃ち落すなんて芸当をやってのけるなんて、本当に同じアンドロイドなのだろうか?!
すぐさま俺は上体を起こし、再びミニガンのスイッチを押す。
たった今、ミサイルの全弾を撃ちつくした敵は反撃の術もなく穴だらけにされ、炎上する。残るは四機。
続けて飛来するミサイルを、俺はシクとの連携機銃掃射で撃ち落し、その報復として弾丸の矛先をヘリのコックピットに向ける。
一機が沈み、一機が沈む。
あと、少しだ・・・・・・!
そして、俺の放った弾丸によって最後の一機が火の玉となって森に沈んだ。 森の中から立ち上る炎を見つめていると、いつの間にか全身の力が抜けていた。
「・・・・・・終わったか?」
俺は銃座にもたれかかり、腑抜けた声を出した。
「ああ。どうやら生き延びたようだ。」
タイトは返事はしたものの、次の瞬間には赤髪の少女を抱き寄せている。
シクが怪物を腰のホルスターに納め、両側のドアを閉めた。
ふぅ、と俺はため息をつき、今までのことの報告、そしてこれからのことを聞き出すため、少佐に無線を入れた。
「少佐・・・・・・。」
『デル!!大丈夫か?!』
「長い間連絡が無くてすまない。ヘリポートについた瞬間敵アンドロイドとの戦闘になった。」
『分かっている。ヘリの追跡からも逃れられたようだな。』
「ああ。だがヘリにもダメージもあるだろう。」
『ところで、今そのヘリの中には誰が乗っている?』
俺は操縦席を一瞥した。
ヘリの操縦桿を握っている網走博士と、ワラに抱かれていたため戦闘で頭を打つこともなかったセリカ。
「シックス、そして部下二名と、一応人質二名が乗っている。だが・・・・・・。」
『だが?』
俺は一瞬言葉を詰まらせた。
予期せぬ乗客がいる。
「ごめん。何も役に立てなくて・・・・・・。」
「いいの。ミクさんは十分かんばってくれたから。」
後ろのシートには、まだ疲労感が伺えるFA-1、雑音ミクがシクの隣に座っている。
彼女の体を見る限り一見陸軍の装備のように思えるが、どこにも軍のものと断定できるマークもない。
そもそも、この任務に不正規な乱入を果たした時点で疑わしい。
だが、彼女は俺達の味方をした。
このままヘリに乗せていても構わないだろう。
もう一人、この少女だ。
「たいと・・・・・・目・・・・・・。」
「大したことじゃないさ。」
「でも、それ・・・・・・キクのせいで・・・・・・。」
「そんなことはない・・・・・・。」
つい先程、紅白の鎧を身に纏って俺を殺しに掛かってきたキクという少女。
彼女は敵の仲間ではないのか?
しかし、今そんなことを口に出したら間違いなくタイトは俺を撃つだろう。
「また・・・・・・また・・・・・たいときずつけたの・・・・・・。」
「もういいんだ・・・・・・キク、俺は君が傍にいてくれれば、もう何も文句は言わない。俺がどうなっても、君さえいてくれれば・・・・・・。」
「キクも同じだよぉ!!」
キクは叫ぶように言ってタイトにしがみついた。肩にうずめた顔から、すすり泣く声が聞こえてきた。
「少佐・・・・・・今このヘリに、雑音ミクともう一人、赤髪のキクという少女が同席しているが。」
『何ッ・・・・・・キクだと?!』
『キクまでいるの?!』
少佐とヤミが驚きの声を発した。
「ああ。敵だったが、シックスが捕らえたようだ。」
『分かった。二人ともヘリに乗せていて問題ないだろう。』
「ところで少佐、これからどこへ行けばいい?」
『PLGで、レーダーにそこから最寄の空軍基地への進路を表示させるよ。』
ヤミの言葉で俺はレーダーを見ると、ここから北に進む進路が表示されていた。
「分かった。」
『デル。我々は先に、そこで君達を待つことにする。事態は深刻化してしまった。そこで一通り報告しよう。』
「・・・・・・了解。」
俺は網走博士に進路を伝えようとコックピットに近づいた。
「博士。これからの進路が分かった。北だ。このレーダーが指すとおり北へ向かってくれ。」
「ああ。」
博士は俺が差し出したレーダー端末を受け取り、膝の上に置いた。
「ねぇデルさん。」
「何だ。」
「悪いけど、操縦・・・代わってくれないかな。」
博士が申し訳なさそうに俺に頼み込んだ。
確かに俺もヘリの操縦が出来ないわけではない。
もう何回かVR訓練でやっていることだ。
「どうして。」
「いやっ・・・・・・ミクのことが気になって・・・・・・。」
申し訳なさそうに言ってくれる。気になって、とは言うものの博士が後席で何をするのかは大抵見当がついている。
「仕方ない・・・・・・。」
「ありがとう。」
俺は博士に代わって操縦桿を握った。
「ミク、具合はどう?」
「もうだいぶ楽になった・・・・・・。」
「もう・・・・・・無理しないでね・・・・・・。」
「分かった・・・・・だから・・・・・・だから・・・・・・。」
「え、ちょっ、ミ・・・・・・。」
博士の声が何かに遮られたのを聞いた瞬間、俺の額に熱い何かが迸った。
後席に向かって思い切り毒を吐きたいと思った。
いや、今はそんな場合ではない。
俺はこのまま皆をヘリで目的地に送り届けなければならない。
後ろを振り向くことさえ出来ないのだ。
ふと、コ・パイロットの席に座るワラに視線を移すと、ワラはセリカを抱きかかえたまま、二人とも静かに眠っていた。全くいいご身分だ。
ヤミと無線を繋ぐ約束をしていたが、それももう必要ない、あと少しで、二人は再会できるのだから。
俺は全身を強張らせていた力を抜くと、改めて操縦桿を握りなおした。
気付いたころには、日は西に傾き、朝日でも夕日でもない陽光が、いわし雲に黄金の輝きを与えている。
そんな景色を見ていると・・・・・・一日が、終わった。そう思える。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想