城の外ではまだ激しい戦いの音が響く。
誰かの怒声、絶叫、地面に倒れる音。
君は無事に逃げられただろうか。
逃亡者となった【オウジョサマ】は。
「・・・いや」
彼女は小さくそう言った。
緊迫感が王国中を駆けめぐるさなか、人々の怒りの矛先が向けられたのはこの城。
その頂点に立つ彼女は、たとえ王女だとしても、それは脆く剥がれる偽りの姿。
本当の彼女はまだまだ幼くて、危なくて、弱い、ただの少女だった。
「もう一度言います。・・・王女、いや、リン。君はすぐに独りで此処から逃げて。遠い遠い所まで逃げて。」
「・・・ッレンは・・・」
ぽつり、と彼女が言う。
「レンは・・・レンはそれでもいいの!?あたしが居なくても、それでも平気なの!?・・・っあたしはやだよ・・・そんなの絶対やだ・・・。」
彼女はそう言うとまた下を向き、泣き出した。
わんわんと、まるで子供のように泣いた。
僕は、そんな彼女を抱きしめることしかできなかった。
触れれば壊れてしまいそうな彼女を、優しく抱きしめることしかできなかった。
「・・・僕だってそんなの耐えられないよ。・・・でもね、君を救い出すためにはそれしか方法がないんだ。・・・分かって、リン。」
「・・・じゃぁ、じゃぁレンは?レンはどうするの・・・?」
すこしだけ落ち着きを取り戻した彼女が言う。
「大丈夫。僕は君が逃げ出せたら、どこか安全な所に行けたら、すぐに君を追いかけるよ。・・・だから、早く。」
まだ納得しきらない彼女だが、もう時間が無い。
僕は彼女に服を貸すと、すぐに着替えるように、と言って部屋から出た。
窓から外を見ると、激戦だった事が分かる、目をそらしたくなるような現実が広がっていた。
これが、彼女のやったこと。
そして、これがその報いというのならば。
僕はそれに逆らう。
けして彼女を死なせたりしない。
がちゃ、と扉が開く。
そこに立っていたのは、紛れもなく「僕」だった。
「・・・よく似合ってるよ。」
「・・・レンッ・・・。」
泣きそうになるのを必死でこらえ、彼女は小指を差し出した。
「・・・約束。絶対に、絶対に居なくならないで。あたしを、独りにしないで・・・。」
かたかたと彼女は震えていた。
怖いんだろう。
きっと、どうしようもなく怖いんだろう。
初めて味わう死の恐怖が、彼女の偽りの姿を消し去ったんだろう。
「・・・約束。」
僕らは小さく小指と小指を繋いだ。
ごめん、ごめんね。
君との約束は守れそうにないよ。
だって、僕は今から死ぬんだから。
かつて【オウジョサマ】と呼ばれた君の代わりに。
ふと、窓に映る僕を見た。
「・・・はは、凄いな。そっくりだ。」
其処には君が居た。
哀しげな笑いを顔に貼り付けた君が。
約束を守らなかったことを、君はきっと怒るだろうね。
そして、僕を置いて独り逃げたことを、一生後悔するだろう。
それでも、僕はもう振り返らない。
さよなら、さよなら僕の片割れ。
もう二度と会うことはないだろう。
これは、僕の最期の我が儘。
できれば、君もそう思っていてくれていると嬉しいな。
「もしも生まれ変われるならば・・・。」
いつか2人でみた夕暮れが頭をよぎる。
あぁ、あの時砂浜に隠した箱は、今はもう見つからないのかな。
あの箱には、なにかを隠した気がする。
そう、それはとてもとても大切なもの。
思い出せるのは、燃えるようなオレンジ色と、あの時知った伝説。繋いだ手と手の温かさ。
君は覚えているだろうか。
砂浜に伸びる影は、いつの間にか1つになっていた。
もう1つはどこにいったのか。
それは誰にも分からない事だけれど。
あぁ、もうすぐか。
君ならこんな時、なんて言うだろうね?
きっと傲慢にものを言うだろうね。
足音が近づいてくる。
せめて、最期まで気高く、立派な【オウジョサマ】で居なくちゃね。
鍵が開いて、血に染まる剣を持った赤の女剣士が、ニヤリと口元を歪めた。
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「ついに、ついに見つけたぞ、【悪ノ娘】!」
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