溢れる涙が止まらない。ポタポタとリンの服を濡らしていく。
この情報もきっとリンがくれたもの。
僕の元々のプログラムには組み込まれてなかったもの。
そう、プログラム・・・僕たちは作られた。
此処にいる多くの大人たちによって、大人たちの野望を叶えるために。



世界を変える。それがこの大人たちの野望だった。
用途によっては世界を破滅させる特殊なエネルギーが発見され、野望を実行できると知った大人たち。
そのエネルギーを埋め込まれて作られたのが僕らだ。
そんな僕らは・・・





元々人間だ。





この実験をしている場所はリンの家の研究所。
彼女の親は有名な科学者だった。
そして、僕の親はその助手。
だから、小さいときからリンと一緒に育って・・・
いつの間にか彼女は僕の大切な人になっていた。
直ぐにむくれるとこも、泣きそうなときに涙を必死にためる姿も
無邪気な笑顔も、たまに見せる微笑んだ表情も・・・全部全部大好きだった。
それが、あの日・・・全てが壊れた。
もっと僕に力があれば・・・リンを守ってやれたのに。




「嫌っ、放して・・・助けて、レンっ!!」
「リン、リ・・・っ、放せよ・・・」




何がなんだかわからなかった。
ただ、いつものように学校が終わりリンを送っていっただけだった。
家に着いたとたん、研究員たちが彼女を引っ張り無理矢理研究所に連れて行こうとして・・・
リンを放せ、そいつの泣き顔なんて見たくない・・・
その一心で必死に手を伸ばして、もう少しで届きそうだった。






「リン!!!!!!!・・・・っ」





伸ばした手の先は青空が広がっていた。
あぁ、またあの夢か・・・
隣国に行く途中の森の中で野宿をすることにして・・・そのまま随分寝てしまったらしい。
暗闇では目立たないように、黒のマントをフードまで被り、木に寄りかかって寝ていたが、
もう昼が近い今では逆に目立ってしまいそうだ。
しかし、顔を見せるわけには行かない・・・誰にも。
そうやって、リンが隣にいない幾百年を過ごしてきた。
本当は全ての記憶を消してコードネーム「鏡音」をつけた「リン」と「レン」として僕らを作る予定だったらしい。
でも、それは失敗したらしい。
現に僕には記憶があるし、あのときのリンの様子からしても記憶がある。
あぁ、まただ・・・
この夢を見た後は必ず涙が流れてくる。
リン、ごめん・・・っ





僕が伸ばした手は確かに彼女に届いていた。
だけど、そこで意識は途切れ気がついたらあの、目覚めの瞬間だった。
あの時、僕が目を覚まさなかったら彼女は笑顔でいれたのかもしれない。
僕の目覚めを待ちながらきっと笑顔で話しかけてくれていたはずだ。
きっとバグにも気づいてもらえて今頃は・・・いや、もう過ぎてしまったことだ。
彼女はアレから簡易版の修正プログラムを入れられた。
修正といってもバグが何かわからない状態だったために機能を抑えるだけのもの。
その後は枷をつけられ研究所の奥にある小さな部屋に閉じ込められた。
僕は必死に訴えたが何も聞き入れてもらえなかった。実の親にも。
リンに入れられたプログラムは簡易版のためいくつか制約があった。
まず、彼女の機能が仮死状態・・・つまり眠っている状態でなければ処理が出来ない。
そして、このプログラムはいつか止まってしまう。
いくら仮死状態にしていてもリンは目覚めるだろう。
冬眠した動物がいつか目覚めるのと同じ様に。
そうなったらリンはいつまで耐えられるかわからない。
最後に、抑制プログラムであって制御プログラムではない。
いくら仮死状態でも生きるためのエネルギーが必要になる。
生きるために必要なもの・・・それは他の生命のエネルギー。
僕らに埋め込まれたものはそのエネルギーを奪うことの出来るモノ。
モノはあっても肝心の生命エネルギーがなくてはどうしようもない。
そこで、リンの父親は近くの村にある言葉を言い残した。

「村外れの枯れた森 ひとりの少女が捕らえられ 行く者、生命を 主の魔女に奪われる」

そんな言葉を誰が信じるかと最初は思った。
けれど、信じ込ませたんだ・・・自分は預言者だといって・・・
そもそも本当に預言者であるはずが無い。そのリンの父親が何故信じられたのか。
それは、この時代の出来事を知っていたから。
リンと別れ、初めて研究所を出て僕は知った。此処は・・・昔の時代だと。
自分たちは時間を遡っていたのだと。
だから、預言者になることが出来た。
その時代に何が起こっていたのかを次々と当てていったから。
そうやって各地の町や村に言い伝えとして残すことで、リンの生命は保たれることになった。
一方、僕はそのエネルギーをどう補充していたかというと・・・




「レン・・・この王宮を占拠する。中の者は全てお前のエネルギーだ」




大人たちの命令には逆らえなかった。
彼らは僕が素直に言うことを聞かないと思って最初から準備してあったらしい。
リンの父親が出したものは「鏡音リン」の爆破装置。
丁寧に説明までされた。
王宮からリンのいる国までは思ったより距離はなくスイッチひとつでリンを爆破させられると。
そのとき僕は本当に無力だと知った。
リンを助けてあげることも出来ないし、リンを守るために・・・
それから今までずっとその王宮に仕えている。幾百年ずっと・・・
どんな技術を駆使したかは知らないが、僕はエネルギーを奪い続けている限り歳はとらないらしい。
変わるのは、服装と仕える王だけ。
この服も・・・今の王になったときに渡されたもの。

「さて、そろそろ・・・」

昔のことを思い出している時間はもう無い。
今日中に国をひとつ消さなければいけない。
消すといっても、国の王家だけでいい。
たとえ国を手に入れても民がいなければただの使えない土地にしかならないから。
ゆっくりと腰を上げて目的の国へと足を進めた。
ふと、考えるときがある。僕があのままだったらこの役目はリンがやっていたのだろうか。
その点に関してだけは僕と入れ替わってよかったのかもしれない。
彼女にはこんな役目は似合わないから。
それにしてもいつまでこの状態が続くのだろうか。
僕が作られた理由でもある大人たちは既にいないのに。
暫く歩き、森を抜ける手前で少年グループとすれ違った。
その瞬間、いつもなら絶対しないのに思わず声をかけてしまった。

「今の話聞かせてくれ!!」
「え・・・」
「いいから早く!!」

気がついたら少年の胸倉を掴んでいた。
誰にも知られないように王家を滅ぼすのが僕の役目だったのに、この幾百年の中でこんな失敗初めてだ。
でも、そんなことも構っていられないくらいだった。だって、だって・・・

「枯れた森の少女と魔女が何だって!!」
「っ・・・」
「枯れた森の変な建物に青い勇者のにーちゃんが行ったんだ!
 其処に女の子が居たんだって!
 でもその子に、魔女がどうとかで逃げろって言われたんだって!
 勇者のにーちゃんそう言ってそのまま死んじゃったんだ!!
 もう、コレでいいだろ!放してやってくれよ!!」

掴んでいる少年の変わりに早口で代弁された。
もう、少年たちは何も言ってくれそうに無いので仕方なくそのまま手を放す。
そして、礼も何も言わずに元進んでいた道を歩き始めた。
後ろからは少年たちが何か叫んでいるがそんなの耳に入らない。
だって今、少年は“逃げろって言われた”そう言った。
もう、コレが意味するものは一つしかない・・・リンが目覚めた。

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僕少年~delete story~2

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とりあえず、レンが王宮にいなきゃいけない理由はリンがらみしかないだろうなと・・・

閲覧数:157

投稿日:2009/12/12 14:26:46

文字数:3,124文字

カテゴリ:小説

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