緑の髪の少女が出掛け、また金色の天使は何曲かを歌った。

そのうちに雨が上がり、雲の切れ間から天界からの光が差してくるようになると、天使は少女に別れを告げた。
天使はまだ、少女に歌って聞かせていたかったが、これ以上地上にいると少しばかり危険であった。
地上は天界と魔界の間にあり、故にどちらからも影響をうけている。
天使からすれば猛毒となる穢れのようなものが地上にも微少に存在していた。
長く地上に留まりすぎれば、穢れが自身を蝕んでいく。


「お世話になりました。」

「…………天使様。」

家の戸口を出るか出ないかの所で天使が最後の礼を言うと、少女が天使を呼び止めた。
少女の声は泣きそうなものだった。

「また……また、私に歌を歌って下さい。」

天使は少し驚いたが、少女の言葉に是と返せば、また少女に会えるようであった。天使は頷いて、次の時はどんな歌が聞きたいかと尋ねた。

「……。………では、次の時は再会の喜びを歌って頂けますか。」

少女はしばしの沈黙の後、そう言った。
天使は深く頷いて、天界へと翼を羽ばたかせた。


その日から天使は少しの間身体を休めなければならなかった。
地上での穢れを全て洗い流す為であった。
天使は動けるようになると、もう一度地上に下りて赤い女神の首飾りを探した。

岩間に掛かっていたそれを天使はあっさりと見つけ、拾い上げた。
天使は少女に会いに行こうかと思案し、止めた。
天使の身体にはまだ穢れが残っていた。
地上に留まっていれば身体が持たなくなることを天使はわかっていた。

天使は嘆息してから天界へと戻る。
前の時よりも、魔界の気配が濃い気がしたように思えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

黒い天使と金色の悪魔の物語Ⅲ

閲覧数:210

投稿日:2009/09/09 17:44:14

文字数:706文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました