「マスターへのプレゼント選びが最優先なんだからねー!!」
「「「はぁーい」」」
行こう行こう! とリンがミクとルカの手を引いてぱたぱたと走っていく。
「じゃあ、男子チームと女子チームからそれぞれ一品ずつということでいいわね」
「OK~じゃあ、また後でね」
ばいばーい、と手を振ってKAITOとレンはMEIKOを見送る。
「じゃあ僕らも行こっか」
にこにこと笑うKAITOに、レンは少しだけ後ろめたい気分になる。
話は昨日2/12に遡る。
「いーい、レン。明日の買い物は、フェイクなんだからね。フェ・イ・ク。わかった?」
びしっと人差し指を立てて繰り返し念を押すリンに、レンは聞き飽きたという風に返事をする。
「要するにオレが兄貴を足止めしてりゃいいんだろ? 何度言う気だよ……」
「わかってるなら良いんだけどさー途中で帰らせたりしないでよ。合図するまで買い物を引き延ばすっ!! サプライズパーティの成功はお前にかかっているのだ、レン!」
「へーへーわかってるっつーの。つか、たかだかケーキ一個作んのに何時間かける気だよ」
「KAITO兄じゃないんだからそんな早くできるわけないじゃん!!」
アタシら素人だし、となぜか堂々と胸を張って宣言するリンに、レンは呆れ気味にオイオイとつっこむ。
「そういや、マスターへのチョコの方は?」
明日の買い物の名目ってマスターへのバレンタインのプレゼント選びだろ? とレンは首を傾げる。
「それならだいじょーぶ! MEIKO姉たちとすでに選び済みだから。明日は発注かけるだけ」
パンフレットを取り出してレンに見せる。豪華な箱に一口サイズの様々な味のチョコレートが詰まっている種類のようだ。
「お、旨そ。マスター喜ぶとイイな」
「だよね、だよねー! コレならきっとミク姉もすぐOK出してくれるよね~」
「ハブんなよ……いや、ミク姉さんすぐ顔出るもんな……」
聞かれてないから言わないだけで、嘘をついてる訳じゃない、という言い訳だ。
「んーオレらはどうすっかなぁ……食い物じゃねーほうが……いやあえてしょっぱいもんとかか…?」
考え込むレンにリンはまぁまぁと気楽に言う。
「そこからゆっくり相談すればきっと半日とかあっという間だよ~まぁたまにはKAITO兄と男の友情でも深めてくれば?」
回想終了。
そんなわけで、明日のKAITO誕生日のケーキ作りが終わるまでレンはKAITOが帰宅しないように調整しなければならない。
嘘はついていないが、騙しているようで少しだけ気が重い。
「なー兄貴。ホントはMEIKO姉さんと一緒に行きたかったんじゃねーの?」
そうだね、今からでも追いかけようか、などと言われたらどうしようかとレンは自身の発言を後悔する。
「んーめーちゃんたちの買い物って長いしね――それにレン君と二人で買い物ってのも滅多にないし、折角だから楽しもうよ」
続けられたKAITOの言葉にレンはホッとする。
「じゃ、折角だし。兄貴が行きたいとこは?」
「えーっとじゃあ僕、冷蔵庫が見たいなー。あと炊飯器とー」
「家電ショップの位置は、っと……」
カタログを抱えてKAITOは、ほくほくとした笑顔である。
それぐらいのデータならわざわざショップに行く必要もなかっただろうにとレンは思う。
「それは違うよレン君! 操作性は実際にさわってみるとイメージと違ったりするんだから、ちゃんと確認しなきゃ!」
熱弁されるとレンもそんなもんかなと思ってしまう。
家電ショップだけでなく楽器アクセサリを扱うショップなどにも寄ったため2・3時間は、あっという間だった。
「そろそろプレゼントも選ばないとねー。何にしよっか? マスターだけじゃなくて、みんなにも何かプレゼントして驚かせたいねー」
「え、何で?」
「? だってバレンタインだし」
電子マネーの残高を眺めながらKAITOは唸る。
「うーんチョコだと女性陣とかぶりそうだね……最近は結構なんでも良いみたいだし……あ、あのアイスとか美味しそうじゃない?」
「兄貴が食いてぇだけじゃん」
「あははーばれたかー。ね、レン君食べていこうよ?」
奢るから、ね? と言われてはレンにも断る気も起きない。
近くに小さな公園を見つけて、ベンチにでも場所を取っておくと言ってレンはKAITOといったん別れる。
そしてKAITOがアイスクリームを買いに行っている間に、レンはリンに連絡を取る。
「おいリン、今どんな感じだ?」
『えー何? 今ー? 今はー……戦場?』
耳をすませるとMEIKOがミクに『チョコは直火にかけちゃダメっていったじゃない!』と注意する声が聞こえる。
『ん、いい匂い……じゃない! ぎゃーッ!! スポンジ丸焦げになってるー!』
リンがあちちちっと悲鳴を上げていると、今度はガランガランとなにかが崩れる音が聞こえ、ルカが『クリーム、こぼれました』と申告する声も聞こえる。
『うぅうう……と言うわけだから、レンーもうちょっと引き延ばしヨロシク~』
あっちはあっちで大変なんだな、とレンは溜息を吐く。
吐いた息が白く、あぁそうかとレンは不意に気づく。公園には季節感を演出するために疑似雪が積もっている。
「おまたせー」
KAITOがアイスを両手に持って駆け寄ってくる。
「寒っ」
「え、レン君寒いの? ウイルスじゃないよね」
「違うって。兄貴、今更だけど季節感ねーなー」
見ていて寒々しいというレンに対しKAITOはそう? とアイスに嬉しそうにぱくついている。
「ん、雪かー。ウチのマスターもディスクトップ背景変えてくれればいいのにね~」
「それよかオレは、暖かいモノが欲しい」
身震いをするレンにKAITOはちょっと待っててと、レンにアイスを押しつけ公園内の出店に走っていく。
「こーやって、ホットココアにアイスを浮かべまーす」
「おー、コレならいけるかも、さすが兄貴」
暖かい飲み物とアイスを両立させたな! とレンは手を打つ。
「レン君、一足早いけどハッピーバレンタイン♪」
「ぎゃっ、三倍返ししろってことか?」
冗談めかしてココアを手渡してきたKAITOにレンも冗談交じりに返答する。
「三倍返しは辛いからねぇ……女性陣にもプレゼントを渡しておくのがベストだと思うよ」
「あーなるほど、それで兄貴さっきみんなの分もっていってたのか」
リンたちがバレンタインプレゼントを用意しているのかは怪しいけど、とレンは心の中で付け加えつつ、まぁ明日チョコは貰えなくてもKAITOの誕生日ケーキぐらいは食えるだろうとも考える。
「でも、チョコってさー貰ってもあげても結局みんなで食べることになるんだよねー」
家族内でのバレンタインなんてそんなもんだ。
「ねぇレン君。折角雪も積もってるし、プレゼント選びの前にひと遊びしてかない?」
一足先にアイスを食べ終わったKAITOがニッと笑い雪玉を握る。
「あーもう、適当でよくね?」
雪まみれになったレンは思いの外疲れている。
KAITOの足止めとかもうどうでも良いから早く家に帰りたい、と言うのが本音だ。
「ダメだよレン君、マスターへのプレゼントなんだから!」
同じように雪まみれになっているKAITOだがなぜかこっちは元気だ。
伊達に年中アイスを食ってないということだろうか、とレンは想像する。
あらためてショッピングモールを訪れた二人は、うろうろとバレンタインプレゼントを探す。
あれは予算外だ、あの商品は明日のバレンタインには届かないなどなど、あーだこーだと相談しながらぶらぶらと歩く。
「あ、花束とかよくね?」
レンが指さした先には花のショップがでており、ポスターには「今年は花束を贈って本場のバレンタインを祝いませんか?」というような唄い文句が書かれている。
即日配達OKでしかもオンライン購入特典としてプラスアルファの値段で、花束のアイテムもサービスしてくれるようだ。
「わ、この値段なら、めーちゃんたちにもプレゼントがあげられるね」
さっすがレン君、とKAITOはレンを持ち上げる。
レンは照れたようにそっぽを向いて、へへっと鼻の頭をかく。
夕方を過ぎて家に帰った二人は、花束のアクセサリをKAITOの自室フォルダに隠し、にししと顔を見合わせて笑う。
今夜はコタツの上に簡易コンロを置きその場で食べられる鍋だ。
何だかんだと理由をつけてKAITOとレンを台所に近づけないようにするMEIKOたちもそわそわと落ち着きがない。
お互いに秘密を抱えたバレンタイン前夜が更けていく。
そして迎えたバレンタイン当日。
「「「「ハッピーバレンタイン♪」」」」
朝食に集まったKAITOとレンに、女性陣のそれぞれ個性溢れるラッピングの箱が手渡される。
昨日はKAITOの誕生祝いの準備だけではなく、バレンタインのプレゼント作りも行っていたらしい。
つまりレンにはKAITOの誕生日の方がフェイクになっていたようだ。
「おっとレン、その顔は貰えるとは思ってなかった顔だな。三倍返し期待してますよ~」
にやにやとリンが笑いながらチョコを渡し、レンも負けずににやりと笑う。
「わぁ、みんなありがと~」
KAITOは嬉しげにお礼の言葉を言い、その場で丁寧に包装紙を開け、上箱を取る。
「わ、すごいね。めーちゃんのも力作だ!」
「おいしそうにできてるでしょう?」
「ねぇ、今食べても良い?」
KAITOの言葉にリンが、えへん、と胸を張り返答する。
「コーヒーなら準備ならばんたーん!」
コーヒーメーカーがこぽこぽと音を立て、琥珀色の水滴が注ぎ落ちているのが見える。
「おー、分量間違えてねーか?」
「ちゃんと量ったもーん!」
リンとレンのやりとりの間にしゅんしゅん、と台所から聞こえてくる。ヤカンでお湯も沸いているようだ。
「紅茶な気分な方はおりますか?」
「あ、オレ、今日はミルクティがいい!」
わいわい、とチョコをつまみながら朝食代わりのお茶会が準備されていく。
KAITOの誕生日は結局フェイクなのかとレンが思ったとき、KAITOに腕を引かれる。
あぁそうだったと思い出して、KAITOからこっそり渡されたものを受け取る。
こほん、とわざとらしく咳をして、KAITOはみんなの注意を引く。
「はい、めーちゃん。僕らからバレンタインプレゼント」
花束をバラして一輪挿しのような小さな花束に作り替えたものだ。
驚いて目を丸くしたMEIKOを見てKAITOが悪戯が成功した子どものように笑う。
「やったね、レン君。バレンタインのサプライズ成功ー!」
「もうっ驚かせるつもりが、こっちが驚かされちゃったわ」
MEIKOはすぐ我に返り「ありがとう」と照れたように頬を赤くして受け取る。
「これが、ルカちゃんの分」
不思議そうな表情で花を眺めるルカにKAITOは説明する。
「この花のアイテムはね、リアリティを追求してるらしくて、2週間で枯れちゃうんだって。期間限定アイテムなんだけどー……えーっと別のモノの方が良かったかな」
「いいえ、嬉しいです。アイテムの加工保存は可能ですか?」
「うん、押し花とか、ドライフラワーへの加工が可能だってさ」
「わかりました」
僅かに嬉しそうに表情を和らげたルカに、KAITOもつられて微笑む。
「あれぇ、KAITO兄。アタシには?」
ないのー? と恨めしそうにKAITOを見るリン。
KAITOはレンを軽くこづいて促す。
「ほいよ、リン。これで三倍返しはチャラだからな」
レンは隠していた花束をリンに押しつけるように渡す。
「……うっそぉ? レンがこんなに気が利くわけがない! お前偽物だな!!」
「んなこと言うなら返せや!!」
「うそうそ~怒んないでよ~、KAITO兄との連合でしょ分かってるって~」
るっせぇ、と照れ隠しをするレン。
「最後になってゴメン。はい、ミク姉さん」
レンがミクに花を手渡すと、ミクは笑顔をほころばせる。
「わぁ、レン君、お兄ちゃんありがとう。ルカちゃん、ルカちゃん後で加工方法調べようね」
「あ、リンもーリンもやるー! MEIKO姉のもやるよね?」
「んー……そうねーでも私はしばらくこのままで飾っておきたいわ。花瓶はどこにあったかしら」
とMEIKOは花束を持って一度部屋を出る。
そして台所から大きなお皿を運んでくる。
「はいKAITO。わたしたちから貴方へプレゼントよ」
チョコレートケーキらしく、ハッピーバースディという文字も見える。
KAITO以外の五人が目配せをし、せーのっ!! と声を合わせる。
「「「「「ハッピーバレンタイン&ハッピーバースディKAITO」」」」」
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ゆるりー
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