打ち合わせが終わった後、神波と彼のミクは、二人でミクが歌うパートの確認をしていた。
「…ミク、大丈夫?」
「…はい、そこまで難しい所はないので大丈夫です」
歌詞とメロディーを確認しながらミクが答える。
(…それにしても、やっぱりホワイアンスPさんは凄いな)
うなる神波。彼はホワイアンスPのPとしての実力は凄まじいと感じていた。ホワイアンスPはPとしてのデビュー後、瞬く間にスターダムの階段を駆け上がっていった。それはPとしての確かな実力に裏打ちされたものであることは神波にも分かった。一方、今回のような企画を比較的多くするPでもあることはPの間では有名だった。今回のバースデーソングも経験の浅いPのミクでも歌えるように、そこまで高度なテクニックを使わず、ベーシックな機能しか使われていない。高度なテクニックを駆使して歌うことはもちろん難しいが、ベーシックな機能だけで上手く歌うことは、各機能に対する十分な知識が必要で、高度なテクニックを使うことと同じ位難しいらしい、という話を聞いたことがあった。恐らく、何回も企画を実施していく中でホワイアンスP自身が身につけた才能なのだろう、と神波は推測していた。
(…僕は、方向性は違うかもしれないけど、ブラグレスPと同じ位凄いと思う)
ブラグレスPというのは、今年の初音ミクのバースデーライブのテーマ曲を担当するPである。Pとしての経歴はホワイアンスPに似ている。一方、明確に違う所は、ブラグレスPはホワイアンスPのような企画は主催せず、ただひたすらに曲を作り続けていた。また、二人の性格も、ホワイアンスPの軽い性格とは対照的で、どちらかというとストイックという言葉が似合うPである。
 「それじゃ、ミク、練習しようか」
 「はい。…でも、その前に、曲を通しで歌って良いですか?」
 遠慮がちにいう神波のミク。
 「…いいよ」
 マスターである神波がうなずくと、明るい表情になるミク。そうして歌い出す。
 (…ちょっと、悔しいな)
 楽しそうに歌うミクを見て、嬉しい反面、楽しそうに歌っている歌が自分の歌ではないことは少し悔しい神波。第一線で活躍するホワイアンスPの曲は神波も素晴らしいと感じていた。当然、そんな歌なら自分の担当パート以外も歌いたいと思うミクの気持ちも分かる。先ほどの遠慮がちなミクの口調も、この曲を歌いたいという自分の思いと、自分のマスターである神波の気持ちの板挟みから出た言葉なのだろう。
 (…僕も、もっと頑張らないとな)
 楽しそうに歌うミクの表情と、その歌声を聞きながら、決意を新たにする神波だった。

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初音ミクとバースデーソング 4節

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投稿日:2017/08/31 01:40:47

文字数:1,084文字

カテゴリ:小説

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