「退屈ね」
冷たいコンクリートに四方を囲まれた部屋で、女は言った。
時刻は深夜2時を廻ったところだ。今夜は雲が出ていなくて、錆び付いた鉄格子の窓から覗く月明かりも、より一層明るく感じる。
女の顔はとても整っていた。シルクのような薄桃色の長い髪に、少し暗めの茶色っぽい瞳。雪のように白い肌。すらりと伸びた手足。優しげに結ばれた口元。まるで女神。
だが、この状況とはあまりに不釣り合いなその美しさが、余計彼女を浮き彫りにさせていた。
細い指先が、彼女の傍らに横たわっていた其れ・・・、かつての旧友に触れる。
指先に付いた、鮮やかな赤。
薄暗い部屋の中でも、十二分に理解できた。
彼女は驚かず、さりとて悲しんだ様子も見せずに、さも当たり前かのように、指先を口に含む。
無音の部屋に、微かな音。
彼女はゆっくりとした動作で、部屋を見渡した。
床に転がる、無数の人間。
在る者は心の臓を貫かれ、苦悶の表情を浮かべている。また在る者はまるで生きているかのように綺麗なまま。
しかし、彼らは一様に、文字通り氷のように冷たくなっている。
彼女は満足そうににっこり笑うと、僕に視線を移した。

「あぁ、なんて綺麗なの。私のお人形さん達。・・・さぁ、お前も、その可愛らしいお顔を、もっと近くで見せて頂戴。」

僕は恍惚とした表情を浮かべている彼女の元に歩み寄る。
不意に月明かりに影が差し、彼女の顔は逆光で見えなくなった。
そぅっと、少しひんやりとした指先が僕の頬に触れる。

「・・・良い子ね。レン。」

べっとりと血が付いた彼女の唇が、僕の耳元でそう囁いた瞬間、ブツリという鈍い音と共に、鋭い痛みが心臓に突き刺さる。
しかし、それを理解する前に、僕の意識は途絶えた。
最期に見たのは、ほんの少しの憂いを秘めた、優しい微笑みを浮かべる、愛しい愛しい、彼女の姿。

あぁ、幸せだ。



不敵に笑う。
不気味に笑う。
今し方事切れた少年を腕に抱き、彼女はなおもクククと喉を鳴らして笑う。

「レン。なんて可愛い子。私に忠誠を誓い、私だけを見て、そして私だけの為にその命を散らす。お前には最大の祝福をしなくちゃね。・・・そうね、お前には《黄色のキング》の名をあげましょう。」

彼女は壁にもたれる少女に目をやる。
そして、レンをその横に並ばせると、どこからかトランプを取り出した。

「ほぅら、《黄色のクイーン》の名はお前の双子の姉にやろう。《青のスペード》は父親、《赤のハート》は母親。《水色のダイヤ》と《緑のクローバー》はお前の友人達に。」

彼女は一体一体の手に、丁寧にトランプを握らせていく。
そして、窓の外を見つめ、振り返る。



「・・・お前には、《ジャック》の名をやろう。私の元においで、・・・愛しい愛しい《ジャック》。」



僕は静かに頷いた。



ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

トランプ。

初めて書いたルカさん・・・!
とりあえず暗いのが書きたかった。の。だ!

閲覧数:307

投稿日:2011/07/27 16:30:17

文字数:1,175文字

カテゴリ:小説

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