UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」
その12「ボーカロイドと甘い歌声」
トレーラーの横には、「VOCALOID」の文字がでかでかと書かれていた。
外で黄色い歓声が上がった。
思わず外に顔を向けると、トレーラーの横が上に開いて、中にバンドマン四人と黄色い頭のセーラー服を着た二人が立っていた。
何もアナウンスもなかった。いきなりのギターサウンドが大音量で襲いかかってきた。ドラムがそれに続いた。
元気な女の子の声が重なったとき、それは音の洪水というより津波のようだった。飲み込まれたら最後、海の底までも引きずり込まれそうな怪しい魅力を持ったボーカルだった。
自然と人が押し寄せた。まるで津波の後の引き潮だった。
磁石が砂鉄を吸い寄せているようにも思えた。
駅から湧き出た人はトレーラーに向かっていた。
〔凄い〕
わたしは歌声の主の方を見た。わたしよりも小さい女の子だった。
隣のよく似た男の子は見事なブレイクダンスを披露していた。
目が奪われる、というのは、まさにこのことだな、と思った。
〔あの子がボーカロイド。あの男の子も?〕
「女の子は、鏡音リン。男の子の方は、鏡音レン、よ。人気では、初音ミクに次ぐ二番手といったところかしら」
相変わらずネルちゃんはこういうことに詳しいなあ、と振り向いたら、すかさずネルちゃんはこう言った。
「常識よ」
ネルちゃんはなんだか嬉しそうだった。
一曲終わって、周囲の状況は一変していた。駅の外は完全に身動きできなくなっていた。
次第に人の輪が駅の中まで拡がってきた。
二曲目が始まった。黄色い声が一段と激しくなった。その意味はすぐに解った。
男の子の歌が始まった。時計は午後六時を指していた。
「どうする、ユフちゃん? 始めるかい?」
マネージャーさんが話しているのが聞こえた。
「始めましょう」
ユフさんはにっこりと笑ってフードの付いたウィンドブレーカーを脱いだ。その下は白い麻のワンピースだった。その上にファーの付いた白い毛皮のハーフコートを羽織ると、ユフさんはステージの中央に進んだ。
一曲目のイントロが流れた。外の音楽にやや負けているが、聞こえないわけではなかった。
イントロが終わって、歌が始まると思ったとき、ユフさんは歌いださずにハミングを始めた。
〔え、それじゃ…〕
周囲の人に届かない、そうわたしは思った。
ユフさんは次第にキーを上げていった。
それは二オクターブを超えたあたりから起こった。ハミングが声から音に変わっていった。
声は、風の音になった。
人があふれたコンコースで、風の音が雪を運んできた、ようだった。少なくとも体感温度が下がった。
閉め忘れた窓から入ってくるような風を感じて、集まった人たちは風の入る場所を探した。
周囲の人の視線が、ユフさんに集まりだした。
音が再び声に、ハミングに戻っていった。
ハミングは次第に声になり、歌声に変わった。それは熱量を持って、周囲を温めていった。
外の歓声や喧騒を撥ね退けるような空間が広がっていくのがわかった。
〔これが、ユフさんの歌声!〕
テトさんの力強く惹きつけるような声とは違う、アイスクリームのような冷たくて甘いものをわたしは感じた。
〔歌が、甘い?〕
不思議な感動だった。歌を聴いて、味覚を刺激されたのだ。
「甘い」囁きとか、「甘い」誘惑とか、そんな観念的なものじゃなく、閉じていたはずの口の中に綿あめを放り込まれた感覚だった。
わたしは思わず唾を呑み込んだ。特に味はしなかった。
しかし、私と同じ感覚を持った人がいたのだろう。
人々の足が止まった。
それが波紋のように広がっていくのが判った。
外の音が止んで歓声と悲鳴が入り乱れた音が襲ってきた。
その時、事件が起きた。
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